防衛戦力
中に入ると、多くの視線が僕達に集中した。圧のようなものを感じて思わずたじろいでしまったよ。
「エルナー様、改めて、本当にありがとうございます。またこうして親しい者達と話せる日が来るとは……。皆も、感謝しております」
僕たちに歩み寄りながらの言葉に周囲を見やれば、ベッドの上で涙を流しながら頭を下げていた。
ただひたすらに、感謝の感情が伝わってくるよ。ヒトとしての感情を取り戻せた彼らは、これから大変なリハビリを耐え抜かないといけないと思うと、少しばかり申し訳なく思う。
衰えた筋肉量を戻せるような、そんな魔法が使えたら。
もっと早くこちらへ来る努力をしていれば。
ついついそんな思いが過ってしまう。万能ではないことがこんなにも歯がゆいものだとは思わなかったよ。
「感謝はまだ早いよ。全員を助けられたわけじゃないし、根本からの解決をしている訳じゃない」
「それでもです。可能性を示していただけただけで、我々は感謝に堪えないのですよ……」
十年もの間、ずっと被害者たちを生かすために身を捧げてきた彼らにとって、もはや滅びを待つだけだったところに示された可能性。想像でしかないけれど、それはとても輝かしい希望なんだろうね。
そうだよ。希望を提示したのだから、完璧に成し遂げたい。過去を悔やんでいないで、彼らのための未来を守らないとね。
「その感謝、ありがたく頂戴します。……残りの隔離場所には、あと二日かけて魔法を使っていくよ。この規模の行使となると、僕の技量じゃ二回が限度みたいだから」
「十年の苦痛が、あと二日で収まるのです。誰が異議など申しましょうか」
「そっか、そう言ってくれると助かるよ。ねえ、ゾーイ。よかったらあちらの方達を紹介してくれないかな」
元々ゾーイが居た場所の三人が、心配そうにこっちを見ているんだよね。誰からも慕われている銀の護り手がへりくだる少年という構造は、端から見ればとても異様に映ると思う。
「もちろんです。こちらへ」
ゾーイの大切な人達のもとへ案内される間、『金の足跡』の面々を探すとそれぞれが散っており、体を動かす手伝いやら笑顔で雑談やらをしていたよ。さっきまでとはまるで違う様子に笑みが零れてしまいそうだった。
「エルナー様、こちら私の両親と、恋人のイーリアです」
……おお、臆面もなく恋人と言い切った。ご両親が温かい目でゾーイとイーリアさんを交互で見やり、イーリアさんが物凄く照れていたよ。
「初めまして、エルナーと申します。人族の国で冒険者パーティー『黄金の誓約』をこちら、僕の恋人のアリーチェと結成しております。ゾーイとは、詳しくは言えませんが共通の知り合いを通じて、知っておりました」
「アリーチェと申します。皆さんにお会いできたこと、とても嬉しく思います」
僕達の挨拶に、ゾーイのご両親は優しい眼差しで見つめてお辞儀をしてくれた。
小人族だから僕よりも体格はずっと小さいのだけれど、その抱擁力というのかな、安心する雰囲気がとても感じられる。なるほど、英雄の親とはかくあるものなんだね。
「申し訳ありません、両親は十年間あの状態でしたので……、喉が少々やられているようです」
「無理なさらないでくださいね。僕達相手に無理をして悪化させてしまったら、ゾーイと語らうことが出来なくなってしまいますから」
優しい微笑みと共に頷いてくれたよ。本当に優しい人たちなのだと分かるよ。ゾーイに対する愛情に溢れていて、回復させた僕に対しても深い感謝の感情を捧げてくれている。
「その……、ゾーイの恋人のイーリアです。治していただきありがとうございました」
「ねえねえ、イーリアさん。ゾーイさんとはどっちから告白したの?」
「えっ!? えっとですね……」
感謝はすでに受け取った、とばかりにイーリアさんに詰め寄ったアリーチェが、珍しく恋バナに花を咲かせていたよ。
聞きつけたメローネも乱入し、僕とゾーイのあれこれを話して盛り上がっていた。
「……ゾーイ。今感じてるそれが、恥ずかしいという感情なんだよ……」
「……理解しました」
僕とゾーイに、アリーチェ達を止める手立てはない。むしろ話すのが正しい事だと言わんばかりに笑顔を咲かしている彼女らを見ていると、仕方ないと諦めに至ってしまうのが不思議だね。
ゾーイと気持ちが通じ合ったよ。恋人が笑顔でいる事、これほど嬉しいものはないからね。
「すみません。少しゾーイをお借りしますね」
ゾーイのご両親に断りを入れ、承諾を貰って世話をしていた人たちの休憩スペースへと向かう。
ここで少しばかり真面目な話を進めておきたい。
「護り手はどのくらい動かせるの?」
「今はだいぶ数が減っていますが、二四名ですね。二人一組で動くようにしていますが、それでも被害を止めることは難しく……。比較的被害を受けて日が浅い者は、筋力の衰えは少ないとは思いますが、戦力としては心許無いかと思いますね」
「なる、ほど。予想以上に切羽詰まってるね……。明日、明後日と僕は霧に対応できないけれど、『雷牙』と『金の足跡』の了承を得られたら、守りは大丈夫かな?」
「ふむ……、彼らはどのくらい戦えるのでしょうか?」
「全員が身体強化を使えるよ。剣士は魔技を扱えるし、弓術士は敵影さえ見えたら確実に射貫いてくれる。盾士の二人もその防御力は、知る限りでは隙が無いと思うよ。魔法使いに至っては霧の中では駄目だけど……、霧の外から、とんでもない攻撃を飛ばせる」
ゾーイの表情から、徐々に感情が消えていった。無になったゾーイが僅かに首を傾げて口を開いた。
「控えめに言っても最強では? 全員が身体強化を扱える時点でもう我々を凌駕していますね」
「あ、これは予測なんだけどね。秘境の霧って、自身の魔力操作が上手な人ほど影響が少ないんじゃないかな?」
「えっ!? ……そういえば、私も身体強化を扱いますね。今残っている者達は、大概なにかしらの魔技を扱います。霧に呑まれた者達も、一般の者が特に多い……。エルナー様、もしかしてあの黄金の魔法は、魔力に作用するのですか?」
おお、さすがレスター兄様の下に居ただけはあるね。『神々の寵愛の焔』の作用に思い至るとは思わなかった。まあ、隠してはいないしこれまでの事を知れば考えつきはするだろうから、早いか遅いかの違いでしかないね。
「うん。秘境の霧に含まれていた魔力に酷似した魔力が、霧に呑まれた人たちの頭に纏わりついていたから。以前、必要に迫られて即席で開発した魔法だけど、魔力に関する対応ならかなり有効だよ」
「またとんでもない魔法を開発しましたね……。ですが、お陰で我々は救われそうですね」
「助けるよ。そして秘境も踏破する。シャルナス様も正常に戻さないといけないしね」
「白き巨狼ですか……。霧の化身たる白き狼の主。霧で出来たその体躯は散らせども滅ぼせない、いわば不死身の存在です」
そんなシャルナス様が、近辺で確認されている。それがどれ程驚異的な事なのかは、この国の現状が示している。
シャルナス様の影響下に陥った人たちを治すことで、シャルナス様がどういったアクションを起こすのかは不明だ。だけどそれを恐れて助けないなんて言う選択肢は無いよ。
小人族の皆を助けて、シャルナス様を正気に戻し、そのうえで秘境を踏破する。欲張りな僕はそれを望むよ。
無理矢理に笑うことを強要され続けてきた小人族。彼らのこれからは普通の日常を、そうして幸せを得るべきだ。
予感があるよ。村で救ったときでさえ、シャルナス様の夢を見た。
であれば、王都で多くの人達を治せばより多くの事を知れるだろうね。アルシェーラ様の時のように、求める何かがあるはずなんだ。それが分かれば、やるべき事の目途が立つ。
……こんな時にでも、ワクワクしてしまう自分が恨めしい。知りたいという欲が首をもたげて主張するんだよ。
シャルナス様が護るモノが果たして何なのか、秘境の霧とはなんなのか。暴いていこうじゃないか。
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