深い霧の中の戦い
地図魔法の座標の始点をクゥナリアさんとラムダの前に設定し、終点を享楽鳥とし、一方的な攻撃を仕掛ける。
一瞬、目の前に享楽鳥が現れたように見えた二人が肩を震わせるも、そこは僕と長くいる冒険者。即座に剥ぎ取り用のナイフを手に取り、目の前のターゲットに刺した。
『――ケケッ!?』
まずは二羽が墜落したよ。それでもまだ数はいる。
霧の中の最前線。ここには僕とアリーチェ、メローネの三人が多くのウルフと対峙している。霧の中を気配頼りで駆け抜け、多くのウルフに傷を負わせていくも、数に劣る僕達三人では全てをカバーしきれない。
魔法の使えないクゥナリアさんとラムダの前には、カッシュさんとジンが守りについている。その斜め後ろに付いたルルゥさんとシューゲルが、僕達から抜けたウルフを射抜いていくよ。
後衛がいる位置は比較的霧が薄い。そのために薄っすらとウルフの影が映るために、それを射抜いているのだろうね。胴体にでも刺さればその動きは制限される。
そうなれば、カッシュさんとジンの鉄壁コンビには敵とはならない。
隙を見て享楽鳥のターゲティングを思考で操作して、二人が刺し墜としていく。
アリーチェとメローネの二人は、地上戦に専念している為に二人がウルフを討ち漏らす数は極めて少ない。対して、僕の方は享楽鳥対策もしている為にそれなりのウルフが通り過ぎて行ってしまっている。まあ、言い訳だね。
けれどそれで問題はないんだよ。中衛にラーシャーさんとアルトが居るからね。
僕の討ち漏らし程度、二人にとって物の数ではない。
手の届かないウルフは後ろに流す。それでもさらに後ろには精密な射撃と壁という、即席にしては完璧な布陣が出来上がっていたよ。
享楽鳥のターゲット順は比較的近く、相手からは魔法を使えると想定して、その圏内と予想した個体を優先して墜としていく。
僕自身に余裕が無いのと、時間稼ぎのために。
空を支配しているのはなにも享楽鳥だけじゃない。
僕とアリーチェの大切な友達。くーちゃんが霧の届かない高さまで飛んでいる。そうして殲滅のための一手を講じているんだよ。
黄金の羽ピンを通じて、妖精の祝福がくーちゃんの魔力の高ぶりを感じ取る。
もう間もなく、くーちゃんの魔法が完成すると感じた僕は、飛び掛かってきたウルフを避けながら斬り捨て、ラーシャーさんとアルトの後方に移動する。
「くーちゃんと連携して享楽鳥を全部墜とす! 前衛お願い!」
「「おうッ!!」」
戦闘が始まった頃よりは霧が薄く感じる。それでも場を作れないことに変わりはない。
剣と地図魔法で戦うしかない僕にとって、ヒトの埒外にあるくーちゃんの存在はとても大きいよ。
近辺の享楽鳥のマーカー全てに固定した終点を、くーちゃんの前の空間に、大きく開いた始点の門を設定する。
その門に向けて、周囲の空気が歪むほどの熱量を孕む風が叩きこまれるッ!
轟々と空が悲鳴を上げる。享楽鳥の数だけ分散されたその熱風は、その風の幅が変わるだけで熱量そのものは一切下がっていない。
一瞬で許容を超える熱量を浴びせられた享楽鳥達は、無言のままに地面へと堕ちていったよ。
「ありがとうくーちゃん。助かったよ!」
『どういたしまして、ですの。あとはウルフだけですの!』
確定ではないけれどね。けれど今のところ享楽鳥とウルフしか見ていない。
くーちゃんは村の守りに向かってもらい、僕は改めて前衛に合流する。
先ほどよりも、前線が進んでいる。穴を埋めるように位置取り、襲い掛かってくるウルフを迎撃していく。
飛び掛かってきたウルフを横に回避し、抜け様に首を斬る。すぐに別のウルフが足元に嚙みつきを仕掛けてくる。
回避した際の脚を軸に半回転の動きと共に、魔力で補強したグラディウスの面の部分でぶん殴るッ!
身体強化によって膂力が上がったために、頭蓋を砕かれたウルフが吹き飛んで近くに居たウルフに当たる。僅かに体制を崩したウルフを、『炎舞』を纏った刃でぶつけたウルフ諸共焼き斬った!
そう遠くない位置で、仲間たちが戦う音が聞こえているというのに、どうしてだかたった一人で戦っているような、そんな感覚。
深い霧の中、頼れるのは妖精の祝福のみだった。霧を侵食するつもりで黄金の魔力を薄く、広く混じらせていけば、得られる情報は多くなっていく。
……ある地点で、ウルフらしき個体が次々と発生しているのを認識したよ。
動物は生殖だけど、魔物は自然発生というのが通説だ。だからこの秘境の霧の中で新たな魔物が発生するのは分かる。分かるのだけど、狼とよく似た姿をしているウルフは、やはり魔物だったのか。
こんな時だけど、少しばかり楽しいよ。確証を得られた上に、発生の瞬間を認知できたのだから。
僅かに上がった息を、整えるための呼吸法を使いつつ考える。
発生源まで押し込むべきか。それとも霧に含まれる魔力が薄まるまで耐久戦をするか……。
「みんなッ! いったん下がって! 大きいの放つよッッ!」
ラムダの叫び声が聞こえた瞬間に、前線に居る僕を含めた五人をラムダたちの後方に強制転移させたよ。
四人が一瞬驚いていたけど、瞬時に動きを止めて僕の仕業と理解したようだ。
ラムダを見やれば、その前方の地面が大きくえぐれている。さらにその先には大きな岩塊があり、凄くいい笑顔のラムダと、楽し気に目を輝かせているクゥナリアさんとカッシュさんが居た。
「皆が頑張ってくれたから、この辺りの霧が晴れてるんだよね。それで、あそこ見てよ」
そう言って指さした先には、一層濃い霧を中心に、山なりに広がっているのが見て取れた。上から下に霧が流れて言っているようにも見える。
「見るからに、あれが中心だよね? だからいっそのこと、魔法で攻撃してしまおうってね」
「え、でも霧の中じゃ魔法は使えないんじゃないの?」
「エルナー、ここは霧の外だよ? 仮に火を放って霧の中で魔法が消えるのだとしても、外側から放たれた質量のある物はどうだろうね?」
なるほどなあ。確かに質量物を放てればそのまま通るかもしれない。
けど、どうやってそんな重量のある岩塊を飛ばすのさ?
「魔法学院在学時代、特に悲惨だった教員の失敗魔法を応用するんだよ……。フフフッ」
「ラムダ……なんて昏い目をするんだ……」
何があったのか……あとで教えてもらおう。ともあれ、ラムダが場を作り始めたのでそれを見守るよ。
幸い霧から魔物は出てきていない。警戒しつつ準備を待っていると、イメージを固める為かラムダが呟いていることに気づいた。
「教員は水を熱して……箱に押し込めて……あのときは爆発したから……。向き、そうだ指向性……これを、一気に開放するッ!」
――瞬間。
ドゴガアアアアアアアッッッ!!!
けたたましい爆発音と共に、大きな岩塊が吹き飛んだ!
角度、高度が見事にかみ合い、一発で大きな岩塊が霧の中心地に突き刺さったッ!
霧が拡散していく。どうやら無事に凌げたようだ。
しばし、誰もが無言だった。あまりに衝撃的過ぎる魔法に言葉がない。
前世で、漫画の中に投石機が出てきたことがあった。それを調べていた際に蒸気カタパルトについての記述があったのを思い出したよ……。
その知識があって尚思いつかなかった方法だった。魔法学院の教員といい、その失敗を応用したラムダといい、末恐ろしいにもほどがある。
俄然魔法学院に興味がわいてきた……ここの秘境を踏破したらちょっとだけ行ってみたい。
「で、できたあああああッ! やった、やったよ! 僕のオリジナルが出来たッ!」
「あ、あはは、おめでとうラムダ……。物凄いのが出来たね……」
「ありがとうエルナー! あ、そうだッ! 岩塊を飛ばした魔法に何かいい名前ないかな?」
「え? それはラムダが決めるべきだよ」
「ううん、僕だと『水爆』になるかな?」
「……僕からは『スチームショット』を提案するよ」
「じゃあそれで! 規模を調整できれば色々飛ばせそうだよね。ああ、試したい……ッ!」
「いいけどさ、やるなら周りに何もない所でやってね……。『魔法学院と同じように』ね」
「――ッ!?」
教員に辟易としていたはずのラムダ。魔法使いの性にはやはり逆らえなかったのか、僕の魔法の一言に愕然としていたよ。
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