表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
霧の世界は誰が為に
83/170

小人族に起きた経緯

 その霧は王都より東に広がる高原にかかり、そこには野生の牛や羊がいるという。小人族にとってそれらは友人と同じで、その日も多くの者がいたそうだ。


 霧は瞬く間に彼らを呑み込み、しばらくすると、すう、と霧が晴れていったのだとか。そこに居合わせた者達は、おかしな霧だと思っただけで直ぐに日常へと戻ったそうだ。


「異変は、すぐに訪れた。多くの者は平気だったが、一部の者がその場で倒れたのだ」


「国境の向こうでは、秘境の霧は人を壊すという噂がありました」


「そうだ。あの霧は人を壊す……。倒れた者も、次の日には何事もなく目を覚ましはしたのだ。だが、その者達は壊れていた……」


 村長の皺だらけの顔が悲痛に歪んだ。この語り方は、村長が直に見たことなんだと思う。

 僕たちは口を閉じたまま、村長の話を聞く。


「ヒトには感情がある。それは生きる上で当たり前に享受するものだ。だが、霧に呑まれて倒れ、目を覚ました者達には一つしかなかった。……本来とても素晴らしい事である、笑うという行為が。……その時はただただ狂気に思えたよ」


「……目を覚ました人たちは、笑うんですか?」


「そうだ。ただただ笑う。叩かれようとも、罵倒されようとも、拒絶されようとも。ただただ笑うのだ。だが、それだけではなかった」


 『怯え』の感情がひしひしと伝わってくるよ。何をされても、何を言われても笑い続けている。確かにそれは狂気にもとれるだろう。


「彼らは、笑う事しかしなかった。眠らず、食事を摂らず、排泄をせず。およそ生き物としての行動を、まるでしないのだ」


「なっ……!」


 カッシュさんが絶句している。かくいう僕も予想外だったよ。


「国は、すぐに彼らを隔離した。言葉は悪いが、生かすために彼らの命を管理することにしたのだ。薬を用いて定刻に眠らせ、その間に液状にした食材を流し込んだ。初めはうまくいかず咽させてしまっていたが、今では慣れたものだ」


「……もしかして、この村にも?」


「……ある。霧の被害を受け隔離される者は、もやは王都に収まりきらないのだ。それほどに我々小人族は追いやられてしまっているのだ……」


 誰も、何も発せられない。ああ、エリカお姉様。小人族はもう、だいぶまずい状況じゃないですか。余裕があるからなどと思っていた自分自身が恨めしいです……。


「初めの霧の被害者に、銀の護り手の両親がいた。彼は悲運の生まれだが、両親の愛に支えられて、今や誰もが敬愛する存在となった」


「十歳で従軍したんですよね……。もしかして、両親の事があったから?」


「ああ、そうだよお嬢さん。銀の護り手は、ゾーイは。その日からその目に憎悪を宿していた。幼い頃身を挺して守ってくれた両親を、護れなかった自分自身を激しく憎悪していた」


「幼い頃に何かあったのですか?」


 村長さんがラムダを見やる。その目は悲しみに揺れ、『申し訳ない』という感情が伝わってくる。


「ゾーイは、小人族には珍しい銀髪を持って生まれた。それが凶兆だと周りから言われ、廃れた儀式を行うべきだと言われていたんだ」


「廃れた儀式ですか?」


「……エルナーと言ったか。君は、生贄をどう思う?」


「ッ!?」


 許されざることだ。生贄など、命の冒涜でしかない。

 僕たちはお互いを見合いながら、無言の意思疎通を行うよ。銀の護り手がされそうになった悪行に対し、誰もが怒りを抱いていた。


「そう、許されない。だが、過去に確かに行われていたのだ。災厄を祓う為に、東の高原の先、かつては『贄の峡谷』と呼ばれた地に生贄を放る悪習が」


「今は、その悪習は行われていないんですよね?」


「当然だ。今や誰も認めない悪習だったはずなのだが、ゾーイはそれを望まれてしまった。我々は(あわ)色の毛髪を持って生まれる。けれどゾーイは銀髪を持って生まれた。ただそれだけで、違うというだけで生贄を望まれてしまった……」


「……災厄を祓う儀式の意識が、僅かながらに残っていたんでしょうね。だから、自分達と違うのは凶兆だと思ってしまった」


「そうだ。我々は違うということが怖い。我々がヒトではなく道具として扱われていた古い時代から、根付き受け継がれてきてしまった」


 疲れたように首を振る村長さんが、話が逸れたな、と言いつつ僕たちを見やる。


「ゾーイの両親は全力で護った。それを知っているゾーイはそんな両親を尊敬していたそうだ。だが両親を霧に奪われ、護り手となって抗い続けている。その中で、分かった事もあったのだ」


「分かったこと、ですか?」


「ああ。まず危険視している霧の中では魔法が使えない。理屈は分からんが、増大しないとかなんとか言っていた。次に、霧が発生した際に魔物も確認されるようだ。最近では偏りが出てきたというが」


 初めはメジャーな魔物と享楽鳥(ワンダーバード)がいたらしい。ところが、ここ一、二年でウルフばかりになってきたという。


「魔物を倒していくと、徐々に霧が晴れていくことが分かった。関連性は分からないが、一つの指針として護り手たちは霧が発生した際は、魔物を殲滅する手段を取っている」


「……心当たりはありますね。それは恐らく、秘境の魔力を有した魔物でしょう。『ラーナスタ王国』の秘境でも、似た状況がありました」


「ふむ、なるほど。踏破した者の言葉ならば、信用は高い」


「この点は護り手に伝えましょう。それで、魔物を倒して霧が晴れると分かれば対策はとれますが、追いやられる理由にはならないですよね?」


 大きな異常があったのだと予想するよ。そうでなければ、英雄と呼ばれるような銀の護り手がいて、国境を封鎖するような事態にはならないはず。


「ある時、護り手の一人が霧の中に大きなウルフの影を見たそうだ。護り手全員がその存在を警戒し、魔物を倒していたそうだ。そして、とうとうその姿を確認したそうだ。我々小人ならば寝物語に聞く、敬愛する魔王と共に語られる存在。――白き巨狼(シャルナス)の姿を」


「ここで、シャルナス様ですか……」


 『雷牙』の表情が固くなった。アルシェーラ様から伝えられた、この地にてかの魔王と『誓約』をしたであろう存在。それがシャルナス様だ。

 であれば、その霧の正体はシャルナス様が握っているという事だ。早い段階で、シャルナス様と対峙することになるかもしれない。


「その報告を聞いた国王は、我々を他国へ避難させる手段を取ったのだ。……だが、我々は拒んだ。ゾーイの事もそうだが、大恩ある魔王によって得られたこの国を、捨てたくは無かった」


 しかし、王都で留まるにはリスクが高く、霧に呑まれてしまったらもはや収容できる場所は無く、人手も足りない状況な為に手が回らないものが出てしまう。

 それを避けるため、なるべく秘境から遠い国境付近までの避難を求めたのだという。


「村長さん。一つ聞きたいのですが、『リリックサンク』の秘境とは、どこにあるのでしょうか?」


「……東の果てにある『贄の峡谷』。今は魔王と白き巨狼(シャルナス)との『約束の峡谷』と呼ばれている場所だ」


 なるほど、確かに秘境から遠い。

 『約束の峡谷』で、『誓約』を行使したために秘境と化したのか。


 ――ケケケケケケッッ!!


「――ッ!?」


 今のは享楽鳥(ワンダーバード)の鳴き声ッ!


「そ、村長! 大変だ! 霧が近くまで来てるッ!!」


「なんだとッ!?」


 ラーシャーさんの一瞬の目配せで、全員が理解したよ。即座に立ち上がって村の外へと駆ける。

 そうして目にしたのは、異様なまでに濃い霧と、その中に漂う多くの気配。そして上空に感じる享楽鳥(ワンダーバード)の群れ。


 即座に火の場を作り――。


「「場が作れない!?」」


 クゥナリアさんとラムダが同時に叫ぶ。僕も心の中で同じ叫びを放っていたよ。

 ああ、忘れていた。今しがた聞いたばかりじゃないか。この秘境の霧の場において、魔法は使えないのだと。


 グラディウスを抜き放ち、体内の魔力を練り上げる。魔法が使えずとも、体内こそは僕の領域だ。身体強化と『風錬』、そして『炎舞』を行使して、黒い風と赤い風を追いかけるように駆けだすッ!


 場は作れずとも、黄金の魔力を霧に絡ませながら近くのウルフを横に斬り払うッ!


 ザシュウウウウウッッ!!


 妖精の祝福が敵の位置を教えてくれる。前方を半包囲してジリジリと距離を詰めてくる。

 地上の戦闘は頼れる仲間たちと何とかしよう。問題は上空の敵だ。

 地図魔法を展開してみれば、問題なく行使できる。意志のみで操作し、享楽鳥(ワンダーバード)にターゲットを絞るよ。


 まずは、邪魔な対空戦力を削り取ろうかッ!

お読みいただきありがとうございます!

少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一度投票できます。よろしければワンクリックお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ