情報共有
受付前はあまり並んでおらず、数分程度で僕の番となった。
「すいません、これテーブルの修理代です……。うっかり罅入れてしまいまして、申し訳ないです」
「ありがとうございます、助かります……。ここの所よく破壊されますので、ギルドの予算が徐々に削られていたんですよねぇ」
少しばかり声が大きいような気が。ちらと皆のほうを見やれば、多くの冒険者が気まずげに視線を逸らしていた。
力自慢が本気で腕相撲なんかすれば、歪んだりへこんだりはするのか。そういえばさっき、メローネが叩きつけた所はどうなっているんだろうかね。
視線をメローネに移すと、身振り手振りを使いながらぶんぶんと顔を横に振っていたよ。
どうやら無事らしい。受付のお姉さんに向き直ると、なぜか口に手を当てて笑っていた。
「『リリックサンク』について、何か情報とかは入っていますか?」
「情報網が途絶えてしまったので、最も新しい情報としては、秘境の霧が王都近辺にまで広がってしまった、という話ですね」
小人の国『リリックサンク』が抱える秘境の特徴には、霧が多くを占めている。その霧が何かしらの影響を人体に与え、最悪死に至ってしまうのだという。
影響を受けない、受けにくいという人もいると言うけれど、それでも大半はその影響を受けてしまうのだとか。
「そう、ですか。ありがとうございました」
そう言って会釈し、皆の元へと戻る。アルト達も冒険者の方々から情報を得ていたようだけど、なんとも微妙な顔をしていたよ。
「エルナー、とりあえず訊けるだけは聞けたと思う」
「そっか、じゃあ一先ず『雷牙』と合流して、そこで共有しようか」
地図魔法から『雷牙』の位置を特定し、その方角へと歩いて行くも、なぜだか周囲をぐるぐる回っているだけでたどり着けない。これは裏路地に入っていくタイプの店なのだろうとあたりを付けて、適当に選んだ道から入っていく。
国境近くとなると人が集まるのだろうね。そのうえで商機に、幸運に見放される人もいるのだろう。
この路地には、そんな人たちがたむろっていたよ。子どもと差がほとんどない年齢の僕達が入って行けば、当然とばかりに彼らの目に陰険な光が立ち込めていた。
武装していても、彼らには飾りにしか見えないのだろう。僕達の前に立ち塞がって、ニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべていたよ。
その中の一人が口を開く前に、水の場を風で激しくかき乱し雷を生み出すよ。誰にも当たらない場所に発現させて、小さく空気が爆ぜた。
バチリ、と音が鳴り、同時に閃光も見えたのだろうね。引き攣った彼らの表情からは、先ほどまで感じていた侮りの感情は無くなっていたよ。それでも僕達の前に立ち塞がっているのは意地かプライドか。
「申し訳ありません、この先に酒場はありますか? もしくは近くにあれば教えていただきたいのですが」
狭い道幅なため、慎重に僕たちを避けて前に出たジンが彼らに訊いた。盾士ということもあり、多くの傷跡とその屈強な肉体に、半ば呆然としていた彼らは、猛然と首を振っていたよ。
肯定の意味だ。ならば話が早いとばかりにジンは続けるよ。
「この先に酒場がある、ということで合ってますか?」
揃って縦に首を振っている。声に出してくれた方が僕達としても楽なんだけど、どういう訳か全く話さない。
まあそれは良いとして、そこを退いてくれない限り僕達が進むことが出来ない訳で。
「その酒場に用があるので、退いていただけませんかね?」
僕が言うと、壁に張り付くように飛び退いていた。その間をジンが先頭に進んでいき、僕が最後尾について進んでいく。すると途中、アリーチェとメローネに不逞の手が伸びたのを確認し、魔力を絞った雷を迸らせるよ。
「「ギャアアアアッ!?」」
驚いたように表情を引きつらせる者、痛みに悶えながら風で壁に押し付けられる者。その両者が僅かな間の後に僕を見やるから、微笑みを意識して牽制するよ。
「僕が見ている限り、僕達に手を出そうものなら……わかりますね?」
全力で首を縦に振る様子に、思わず脳が揺れたりはしないのだろうかと心配になってしまった。
怪我をさせないためにも、脅しを使った身としては随分と身勝手とは思うけどね。
無事に通り抜けると、『雷牙』の面々が一軒の店から丁度出てくるところだった。僕達が裏通りから出てくるのを見て目を丸くしているのがなんだかおかしかったよ。
「ちょ、お前らなんでそんなところから来てるだ?」
「道が分からなくて、適当に選んだ脇道をまっすぐ来ました」
僕の返しに呆れた表情となるラーシャーさん。どうやら僕達が進んできた道は、ここに繋がる中でも一番治安が悪い道だったらしい。
「まあエルナーだしな、仕方ないか」
「そうだね!」
アルト、僕だから仕方ないって何? アリーチェも即座に肯定しないで?
「えっと、とりあえず川まで移動しましょう。そこで得た情報の共有をして、国境を越えてしまいましょうか」
「言葉だけ聞いていると、犯罪じみているよなあ」
「実際、封鎖されている国境を無断で超える訳だから、犯罪と言えば犯罪なのかな?」
「違いないな!」
あっはっは、と笑い合う僕とアルトを他所に、皆が川に向けて歩き始めていた。慌てて僕とアルトも追いかけることに。
川の近くのちょっとした広場で、情報の共有をするべくラーシャーさんが切り出す。
「残念ながら、俺たちのほうは情報らしい情報は無かったな。唯一まともと思われるのは、小人の国の英雄、銀の護り手の話だ」
小人族には珍しい、銀髪の持ち主で僅か十歳で従軍、槍の使い手で多くの障害に打ち勝ってきたという。英雄の人生は悲しみに溢れ、得た幸せは全て秘境に奪われたのだとか。
初めに両親と友人を奪われ、仲間を奪われ、そして恋人を奪われた。
それでもなお抗い続ける姿に、小人達は英雄を慕い、国境を越えない判断をした。
「俺たちの方も似た情報だったな。あとは、秘境の霧は人を壊すって聞いた」
その情報についてはもっとよく聞きたいところだけど、首を振るアルトを見るに、ダメだったようだ。
それにしても、人を壊すか。霧が秘境の正体という訳でもないのだろうけど、いささか脅威度が高くないかな。
「秘境の霧については、影響を受ける人、受けにくい人がいるみたいです。恐らくは……、あ、いえなんでも」
幻覚の森発言の傷が疼く。
その一瞬の躊躇がよくなかったのか、皆が困ったような笑みを浮かべていた。
「あー、エルナーのアレはまるで見当違いって訳でも無かっただろう。そもそも前情報が無さ過ぎたし、違和感からあれだけ導き出せたのは素直に凄いぞ?」
「ありがとうカッシュさん元気出た……」
気を取り直そう。改めて皆を見やり、考えを述べるよ。
「恐らく、体内の魔力操作が大事なんだと思います。通常の霧は吸い込んだところで害をなしませんけど、秘境の霧は人を壊すとのこと。外的に破壊されるなら、影響を受けにくい人、というのはおかしい。ならば内面から何かしらあるんだと思います」
「つまり、秘境の霧もまた、『悪食の森』のような魔法による存在という事か」
そう、ラーシャーさんの言う通り、『リリックサンク』が抱える秘境の霧というのは、何者か、いや、アルシェーラ様の言うシャルナスなる者の魔法と思われる。
ただ、『リリックサンク』において霧は珍しい事ではなく、気づくのが遅れたのだろう。急にそこまで牙を伸ばしてきたシャルナスは、かの魔王の影響が薄らいで狂っているのかもしれない。
「身体強化が、自衛の要かと思います。身体の保護としても有効ですからね」
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