小人の国の状況と情報料
多くの人が国境付近まで避難したものの、誰一人として国境を越えようとはしなかったらしい。なぜ、とも思うけれど、どうにも小人族に英雄が誕生したらしいのだ。
その英雄は、僅か十歳で秘境に対抗するための軍に入り、槍の腕と、その目に宿る熱量が周りに存在を認めさせた。そうして十年ほど従軍し、いまでは護り手と呼ばれる者達の隊長となっているそうだ。
銀の護り手。そう呼ばれ多くの国民が支持する英雄が、今なお秘境と対峙し続けている。その事実が、皮肉にも国境を越えず抗う道を選ぶきっかけとなってしまったのだという。
「銀の護り手の名が広まるにつれ、子ども達は英雄に憧れていった。英雄に倣い、僅か十歳で従軍を望む子もいたほどだったよ。けれど、当然ながら実力が伴っていないからね。軍の養成機関で訓練を終えて、初めて護り手になるんだ」
「英雄に憧れる気持ちは、よくわかります。ですが、その銀の護り手は避難してほしかったのではないでしょうか」
「そうだね。けど、国境の村まで避難はしたけど、英雄が愛し、自分達も愛してる国を出てまで逃げようとは思わない。そう友人に言われたよ」
それが、死を覚悟しているように見えたのかな。その銀の護り手がどんな功績を立て、どんな思いで秘境に抗っているのかは分からない。
それでも、一つだけわかることもあるんだよ。
「……銀の護り手は、歯がゆいでしょうね。護る為に抗っているのに、護るべき者達が自分と共に在りたいと願ってしまった。嬉しくて、苦しいでしょうに」
商人の男性も、同じ事を思ったのだろうね。どこか沈痛な面持ちで目を閉じていたよ。
「えっと、『リリックサンク』の人達が国境を封鎖したのって、誰も入ってこないようにって事? それとも小人族だけで徹底抗戦するって意思表示?」
「前者だと思うよ。いや、両方かもしれないけれど……。けどね、お嬢さん。誤解しないでほしいんだけど、彼らは決して僕達人族を信用してない訳じゃないんだ。むしろ、隣人としてとても友好的なんだよ」
小人族の国の問題だからこそ、他に迷惑を掛けたくない。そんな考えが共通認識としてあるみたいだ。けれど、だからこそ頼ってほしいんだけどね。
僕達が困っていれば、きっと駆けつけてくれたのだろう。聞いただけだけど、小人族に悪印象は全くない。むしろ好印象しかないのだけどね。
「うん。やっぱり無理矢理にでも押し入ろう。なるべく早く、銀の護り手さんと合流したいところだね」
「そうだね、皆と合流して早速向かおうよ」
アリーチェとそんなやり取りをしていると、目を丸くした男性が慌てて口を開いたよ。
「えっ、君たち国境を越えるつもりかい?」
「はい。もともと小人の国の秘境に挑むつもりでいましたから」
はっとしたように表情が動き、顎に手をやって少し考え始めた。そうしてすぐ、何かに気づいたのか僕を見やる。
「もしかして、君たち『黄金の誓約』っていうパーティーかい?」
「はい。僕とアリーチェ、それと使徒『聖鳥クーデリカ』の三人で組んでいます。『雷牙』と『金の足跡』というパーティーも同行していますよ」
「なるほど、そうか……。南の秘境を踏破したという、今最も注目されている冒険者パーティーか……。厚かましいと思うが、一つ聞いてもらえないかな?」
妖精の祝福が、男性の感情を読み取ったよ。『助けて』『お願い』が特に多いだろうかね。
笑みをつくるよ。そうして彼の依頼を、僕は勝手に先取りするのさ。
「情報料代わりに、あなたのご友人をお助けしましょう。秘境も踏破するつもりですので、ついでに『リリックサンク』も救ってきますね」
「全力を尽くします」
僕らの勝手な言い分を、男性はぽかんと聞いていた。次第に表情が崩れ、笑い声が店に響いたよ。
「君たちは面白いな。腹の探り合いばかりの職業だから、こんなさっぱりとした言葉はなかなか新鮮だよ。……どうか、友人をよろしく頼むよ」
店を出て合流しようと一歩踏み出し、そのまま止まる。
はて、合流地点はどこだろうか。アリーチェを見ると可愛らしく首を傾げている。くーちゃんも同じように首を傾げていた。可愛い。
仕方ない、地図魔法で皆の位置を探ろうか。近いのは冒険者ギルドに居る『金の足跡』だね。
人通りの多い通りに出てから、冒険者ギルドというかアルト達のいる方向に進むと、思った通り辿り着けた。大抵人通りのある場所に建ってないと、いざという時困るからね。
中に入ると、何故かアルト達が他の冒険者と腕相撲をしていたよ。
「ようし! 勝ったぜ!」
「まじかよ、お前見た目よりずっと力あるな」
アルトは順当に勝っているようだ。メローネも別の男性冒険者と腕相撲をするらしく、互いに構えていたよ。
メローネの後ろにはジンが良い笑顔で立っていた。相手の男性冒険者はわざとジンを視界から外し、メローネに集中していたよ。
「始めッ!」
ダアァンッ!
開始の合図とともに、男性の手がテーブルに叩き付けられた。悶絶する男性に対し、メローネが冷たい目を浴びせながら口を開いたよ。
「いいものは見れたかしら。随分と胸に視線を集中させていたみたいだけど、勝負の前に随分と余裕があったみたいね?」
瞬間、周囲に居た女性冒険者達の視線の質が変わった。主にメローネの相手に対して。彼、今後の冒険者生活大丈夫だろうか。
アルトが僕達に気づいて手を振ってくる。僕とアリーチェも手を振り返して近づくよ。テーブルに手をついて、アルトと軽くじゃれてると不快な声が僕の耳に届いた。
「嬢ちゃんも可愛い格好してるねー、今腕相撲が流行っててね、俺の相手してくれない?」
アリーチェに対してのその言葉。
声の質が、視線の質が、無遠慮なその近さが。全てが僕の神経を逆なでする。こいつ、僕のアリーチェに何をしている?
ミシリ……。
その男を視界に収める。なんてことはない、その辺の悪漢と同じような力量だろうか。なにやら急に震えだしたけど、一体どうしたのやら。
ミシリ……。
とりあえずその視線を止めろ。アリーチェから離れろ。
「エルナー、エルナー! 漏れてる、なんかやばそうなの漏れてる!」
「うん? アルト、それにラムダもどうしたの?」
「目、なんか目がヤバい。魔力が揺らめいてて視線で殺しそうな印象があるよ」
なにそれ、魔王みたいじゃないか。
「あ……あ……、ま、『魔王』……ッ!」
ミシィッ!
「――あ?」
「落ち着いてエルナー、なにもされてないし、何かされても対処できるから大丈夫だよ」
……それもそうか。悪漢ごときにアリーチェが後れを取る訳が無いよね、うん。
落ち着いてきた。そうしてようやく、魔力が溢れていることに気づいたよ。黄金の魔力が陽炎のように揺らめいて、確かにヤバい演出になっていた。
「あー……、まあいいや。それよりなんで腕相撲なんかしてたの? 情報は?」
「怒るなよ、腕相撲が流行ってるって言うのは本当みたいなんだよ。それで、勝ったら教えてくれるって言うから乗ったんだ」
「ちなみに、今のところ『金の足跡』は全勝だよ」
ラムダとシューゲルも勝ったらしい。ジンは見た目からして不戦勝とのことだ。
アルトはともかくとして、メローネはワンピース姿なため、極寒の視線にさらされている彼に目を付けられたようだ。
「なるほどねえ……。僕達の方は手に入ったから、合流しに来たんだけど。もう少し遊んでくの?」
「遊んじゃいないが……、全員勝ったし簡単に聞き取りして『雷牙』の所に行こうか」
『雷牙』の名前を出した途端、何人かの肩が跳ねた。ここでもネームバリューは大きいようだね。
アルト達が聞き取りを始めると、それはもうスムーズに進んでいたよ。やはり有名パーティーが控えていると皆協力的になるんだね。僕に対して怯えのような感情が伝わってくるんだけど、きっとそれは気のせいに違いないし、そのせいではないはずだよ。
「ていうかさ、このテーブル罅入ってて危なくない?」
「そうだな、危ないな。やったのエルナーだけどな?」
……思い当る節があるね。ちょっと受付のお姉さんに弁償代払ってくる。
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