冒険者ごっこ
本日2話目です。
ちょうどいい感じの木の枝を持って練り歩く。時々獲物を探すように周囲を見渡すと丁度僕たちが隠れられる大きさの岩を見つける。その岩からアリーチェの黒く長い髪が風に揺られて見えた。
ふむ、待ち伏せか。ならばやることは決まった。僕は勇んでそこへと走る!
「ぐぎゃ! ぐぎゃぎゃー!」
「っ! たぁー!」
僕は正直にまっすぐ進んで襲い掛かった! だがアリーチェは反対側に回り込んで剣(木の枝)で斬りかかってくる!
「ぎゃっ!? ぐぎゃー!」
「たぁ! たぁー! えいっ」
「ぎゃ……ぎぃ……」
容赦なく斬られた僕は力なく倒れる。木の枝とはいえ結構痛いが仕方ないと諦める。
「ごぶりん、つよい……! でも、かった!」
そう、僕はゴブリン。たった今討伐されてしまったのだ。
これは戦闘訓練という名目の遊びである。モンスター役と冒険者役で別れ少し離れてお互い隠れてから始まり、接敵即戦闘となる。今回、ゴブリン役だったのであまり考えない行動を心掛けたがよくできていたと自負している!
「えるなー、だいじょうぶ?」
「大丈夫だよアリーチェ。反対側から出てきて攻撃は凄かったね!」
「でも、たおせなかったよ……」
「ううん、それで倒せなくてもいいんだよ。僕をびっくりさせて、アリーチェの有利に動けてたもん」
「……そっか!」
何度かこの遊びをして、アリーチェは徐々に戦術のようなものを掴んできたようで、日に日に戦い方が巧みになってきた。
ちなみにこの遊び、僕が冒険者側になることもある。その場合アリーチェを叩くのを躊躇っているうちに斬られて僕が死ぬことになる。そう、この遊びにおいて僕は未だにアリーチェに勝てていないのだ!
「えるなー、こんどはぼうけんしよっ!」
「うん! 今日はソウドリの秘密を探ろうか?」
「そうどり? うん! さぐろう!」
ということでやってきました、ソウドリを放っているエリア。健康のための適度な運動ができるよう広いそこにはおよそ二十羽ほどいる。
いくら広いといっても、こうも巨大なソウドリが二十羽もいると圧巻でしかない。
そんなソウドリだが、実に温厚な性格をしている。人間が触れても特に怒ることもなくむしろ身を寄せてくるのだ。その性格を利用して僕たち人間は彼らを搾取している。なんて業が深いのか。
「えるなー、そうどりちょっとこわい……」
「大丈夫だよアリーチェ。ソウドリは優しいから僕たちが虐めたりしなければ怖い事にはならないってここのおじさんが言ってたよ」
それでも不安そうにしているが、まぁ分からなくもない。自分よりずっと大きく、言葉が通じない相手は怖いものだ。
だからだろう。僕に引っ付いて歩いていたせいでアリーチェが足を取られ、釣られて僕も転んでしまった。
「いたっ……あ、えるなー、ごめんね……?」
「あはは、いいよアリーチェ。怪我はない?」
座ったままぺたぺたと自身の体を調べるアリーチェを眺めていると、ソウドリ達が僕たちの様子に気づいたのか集まってきた。それに気づいていないのか、アリーチェが満面の笑みを浮かべて怪我はないよ、と報告してくれた。
「アリーチェ、僕たちを心配してソウドリが集まってきちゃった」
「え? ……っ!?」
「え、アリーチェ?」
僕に抱き着いて震え、薄っすら涙も浮かんでいた。さすがにずっと大きいソウドリに囲まれると怖いよね……。僕もちょっと怖い。
そんな僕の不安を悟ったのか、か細い声で僕の名前を呼ぶアリーチェを宥めつつ様子を見る。
すると、一羽のソウドリが近寄り、僕たちに背を向けた。
「クークック。クー」
ソウドリ達が静かに解散していく?え、なにこれ?
「クー?」
「えっと、僕たちを守ってくれたの?」
「クー」
「あはは、ありがとう。ほら、アリーチェ。このソウドリが僕たちを助けてくれたよ?」
「……ふぇ? ……あ、ありがと……?」
「クー」
ソウドリが座り、頭をアリーチェにゆっくりと擦り付けている。アリーチェはビックリしてるようだけど徐々に笑顔に変わっていったね。
「あ、あはは。くすぐったい!」
「あはは、アリーチェ、撫でるチャンスだよ! 優しくなでてみようか!」
「うん!」
そっと触れてみる。おぉ、ふわふわしてる。ちょっと抱き着いてみよう。おぉ、これは……。
「ふわぁ……」
気の抜けた声が聞こえた。そちらを見やるとアリーチェも抱き着いていた。そうだよね、ソウドリ温かくてふわふわしててこれ滅茶苦茶気持ちいい……。
はっ。しまった眠ってしまっていた!? え、ちょっと日が傾いてる!
「ア、アリーチェ起きて! もうそろそろ帰らないと!」
「……ふぇ? ふあぁ……」
「アリーチェ、もう帰らないといけない時間だよ!」
「……えっ!? あ、ほんとうだ!」
「クー」
「あ、ごめんね、抱き着いたまま眠っちゃって……」
「クー、クックックー」
「わっわっくすぐったいって、あはは」
ソウドリに謝ったら構わないよ、とでも言うように頭を擦り付けてくれた。
「今日はありがとう。僕たち、もう帰らないとだから……」
「クー」
「くーちゃん、またね! ばいばい!」
「くーちゃん? 名前つけたの?」
「うん!」
どうやらアリーチェもこのソウドリ、くーちゃんに懐いたようだ。
とても名残惜しいけど帰らないと心配させてしまう。
「今日の冒険は大成功、かな?」
「うん! そうどりのひみつは、やさしくって、あったかい!」
「あはは、そうだね!」
それぞれの家路について今日のことを考える。
あの場にいたということは、くーちゃんもいずれはそうなるということなのだ。その時のことを思うととても辛いし、アリーチェはきっと泣いてしまうだろう。
あぁ、前世で畜産を営む人たちは名前を付けないって知った時はどうしてだろうと思ったけれど、こういうことなのか。これはたまらないなぁ……。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
「おう、おかえりエルナー、っておぉ? どうした?」
……無言で抱き着いたからびっくりしたよね。でも今日は許してね……。
「アリーチェとね、ソウドリの秘密を探ったんだ」
「そうか、どうだった?」
「温かくて、優しくて、気持ちよくて。僕も、アリーチェもそのソウドリが好きになっちゃって。アリーチェがね、そのソウドリにくーちゃんって名前を付けたの」
「……そう、か。それでエルナーがそんな感じなのは、先のことを考えちゃったんだな?」
「……うん。これ、苦しいね」
「そうだな。エルナー、その気持ちを忘れてはだめだぞ。命を扱う彼らが名前を付けないのは理由があって、辛くならないように、だ。それを知れた。経験だよ、エルナー」
「うん……」
後ろから母さんが抱きしめてくれる。あぁ、願わくば少しでも長くくーちゃんと過ごせますように。
自室でぼんやり地図を眺める。丁度ソウドリが放たれていたあたりを中心に見ていると無意識に地図に触れていた。
「……え?」
地図の端にくーちゃんの文字。恐る恐るそこに触れる。
―――ポンッ。
地図にマーカーが付いた。そのマーカーはくーちゃんの位置情報だろうか。そうか、こんなことも出来るんだ。
それからは僕と特に近い人のマーカーを入れていった。他にも何かできないか色々試していると気づいたら寝落ちしていた。
翌朝、地図を確認する。よしよし、くーちゃんは無事なようだ!
朝食を食べ、父さんが仕事に出るまでまだ少しあるので試しにお願いしてみた。
「父さん、少しいい?」
「ん? どうした?」
「えっとね、くーちゃんのこと」
「……いいぞ、言ってみろ」
「うん、えっと、くーちゃんの番になった時、僕たちに少し貰えないかなって。羽でも骨でも、形として持っていたいんだ」
家禽である以上出荷は免れない。羽なら二枚くらいなら大丈夫だと信じたい。
「……わかった、飼育担当に聞いてみるよ。くーちゃんだったか? 特徴は何かあるか?」
「ん-、そういえばちょっと顔つきが凛々しかったかな?それとなんだかソウドリのまとめ役みたいな感じだった」
「ッ!? ……そうか、わかった。何とか話を通してみるよ」
「……? うん、お願いします」
なんだろう、嫌な予感がする。
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