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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
霧の世界は誰が為に
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情報収集(デート)

 一度離れて、耳にしたことをみんなと共有することにした。

 僕の表情からなにか、良くないことを聞いたのだと理解しているのか、皆の表情もどこか固い。


「まず、小人族の国は『リリックサンク』という事で間違いはないですよね?」

「ああ、間違いない。そこのでかい川の先が、小人族の国『リリックサンク』だ」


 ラーシャーさんの答えに一つ頷き、皆を見据える。


「国境を渡る橋が封鎖されているようです。どうやら、もう『リリックサンク』はまずい、と噂が広がっているようですね」


 あくまで噂でしかなく、事実かどうかは分からない。けれど、先にある橋の様子を眺める人々は、封鎖された事実から良くないことが起きていると考えているようだった。


「だが、ここ以外に国境を超える手段は無いぞ? いや、あるにはあるが、遠目に見える山脈を超える必要がある」


 そう言って南を見やれば、『アルシェーラの古代森』より続く長大な山脈が聳えている。どのくらいの標高があるのかは不明ではあるけど、白化粧されている部分が多く占められているため、結構な高さがあるのだと思う。


 さすがにこの山脈を超えるのは無理だろう。見たところ、この川の流れは穏やかだし渡し船とかは無いのだろうか。


「気が急くが、まずはここで情報収集としよう。何が起きているのか少しでも情報を仕入れて、国境はまあ無理矢理にでも超えさせてもらおう」


 僕を含めて全員が頷き、ひとまずの方針が決まったよ。


 気づけば、集まっていた人たちがそれぞれの生活に戻りつつあった。その流れに乗って、『雷牙』が酒場に、『金の足跡(そくせき)』が冒険者ギルドに、僕達『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』が市場で情報を集めることになった。


 アリーチェと手を繋ぎ、僕の肩にくーちゃんが小鳥の姿になって止まったまま、適当に捕まえた人に市場の場所を尋ねると、意外と近くにあったためお礼を言ってすぐに向かった。


 周りからの視線が温かい。少しばかり気恥ずかしいけれど、アリーチェは楽しそうにしているから気にしないことにした。


 そうして到着した市場では、川魚を焼く匂いが鼻を楽しませてくれている。賑やかで、不規則な雑踏はこの市場において最も似合う音楽だろう。

 ある所では値切り交渉が白熱し、ある所では小さい子がお店の手伝いで呼び込みをして、お年寄りに可愛がられている。


 こういった日常を見ていると、何の憂いも無い時に来たかったな、という思いが過るよ。さっきの噂の通り、『リリックサンク』が落ちた場合、次はきっとここになってしまうかもしれない。


 それは、避けるべき事態だよ。だからこそ、浮ついた心はねじ伏せて情報を仕入れて予測を立て、対応を考えないといけない。


「ねえ、エルナー! あそこの屋台からいい匂いがするよ!」

「本当だね、ちょっと寄って行こうか」

「うん!」


 ……まあ、少しくらいはいいよね。うん。


 並んでいるのは数人だったため、すぐに僕達の番になった。


「おじさん、二つちょうだい!」

「あいよ! 見ない顔だがデートにでも来たのかい?」

「そんなところです。本当は『リリックサンク』に行きたかったのですけどね」


 デートと言う単語に、びくりと肩を震わせたアリーチェに代わって答えると、屋台のおじさんの渋い顔がさらに渋くなった。


「あー、小人の国は今かなり厳しい状況らしいからな。向こうに行ってた行商が急いで国に帰るようせっつかれたらしい」


 ちょうどストックが切れて魚を新しく焼いている間、屋台のおじさんは僕達の話に付き合ってくれている。

 その行商人が戻ってきたときに、『リリックサンク』側から危険だからすぐに帰ることを勧められた、と話した結果、先ほどの噂が流れたらしい。


 焼き上がった魚を受け取り、代金を支払いながらその行商人に会いたいと訊いてみれば、向かいの通りにある赤い建物に店を構えていると教えてもらえた。


 さすがに焼き魚を持ったまま行けないために、川沿いにあったベンチに並んで座り、そこで食べてしまう事にしたよ。

 くーちゃんが突風に備えてくれるというので、落ち着いて食べることが出来そうだ。

 いただきます、と声を揃えてから串に刺さった焼き魚のお腹に齧りつくと、口の中にじゅわあ、と脂が広がった。その身の美味しさもあるけれど、掛けられていた岩塩がより味を引き締めていてとても美味しい。


「すごく美味しいね、村で捕った魚を焼いたときは凄く苦かったのは何だったんだろう」

「あ、同じこと考えてる。私も苦いと思って覚悟してたんだけど、全然そんなことなくてびっくりしちゃったよ」


 美味しい焼き魚を食べながら雑談をしていると、妖精の祝福がとある単語を拾ってきたよ。

 『魔王様』と『黒姫様』という二つの単語。思わず振り返ると、少し驚いたようにした後、何故だか嬉しそうに手を振ってくる二人組の男女がいた。

 頬が引き攣るのを感じる。それに気づいたアリーチェも振り返り、彼らに笑顔で手を振り返していたよ。


 まさかとは思うけど、『風の道』が言ってた組織とやらって王都だけじゃなくてあちこちに広がってる? いや、まさかね。


 怖い想像を追いやって、食べ終わった串をどうするかとしばし思案する。

 捨て場の場所を知らず、かといって適当に捨てるわけにもいかない。いっそ魔法で燃やしてしまおうか。


「アリーチェ、食べ終わった串ちょうだい」

「――えっ!?」


 何をそんなに驚いているのさ?

 疑問に思いつつ渡すよう手を出すと、何故だか頬を赤らめておずおずといった様子で渡してくれる。ますますわからない。要らない串を渡す事に何の意味を持つんだろうか。


「『火精(イフリタ)』」


 緑の『火精(イフリタ)』を一体発現させる。内部で燃焼するこの緑の『火精(イフリタ)』は、何もしなければ周囲の酸素を喰らって持続する。今は魔力を多めにしたために無事ではあるけど、長く出すのは悪影響があるかもしれない。

 だから、すぐに行動するよ。不要となった串を緑の『火精(イフリタ)』に放り込む。飲み込まれた串は、即座に燃え尽きてしまっていたよ。


 その様子を、アリーチェは愕然と見つめ、次第に真っ赤に染まっていくと、横を向いて小刻みに震え始めた。


「えっと……、アリーチェどこか気分が悪いの?」

「なんでもない、なんでもないの。私の勝手な思い違いだから、お願い、今は何も聞かないで……」


 急に悶え始めた理由が本当に分からない。こうなってしまった前後を思い出してみようか。確か――。


『エルナー、そっとしておくですの。アリーチェを想うなら、それ以上はダメですの』

「あ、うん。わかったよ。いやまあ分かってないんだけど」


 温かい目で見守られつつ、アリーチェが回復するまでそっと寄り添って、穏やかな川を見ていたよ。


 そうしてすぐにアリーチェは落ち着いたらしく、若干赤らめているものの普段通りとなっていた。

 疑問を浮かべるとくーちゃんの翼が僕の後頭部をぺたぺたと叩くので、もう疑問は追いやることにした。


 教えてもらった赤い建物を見つけ中に入ると、どうやら日用品を扱う店のようだった。


「いらっしゃいませ」


 カウンターに座っていた男性が、例の行商の人だろうか。一礼して、彼に近づいて尋ねてみることにしたよ。


「すいません、あなたが『リリックサンク』から戻ってきた行商人の方ですか?」

「ん? ああ、そうだよ。その様子だと、何か聞きたいのかな?」

「はい。『リリックサンク』の直近の状況を知りたいんです」


 商人らしく、人の行動や目の動きから、相手の求めるものを見出す能力が高そうだ。探り合いなどせず、直球で訊いたよ。


「……国境は、私が帰ってすぐに封鎖したらしい。小人族の友人が国境を越えてすぐの村に居るのだが、彼らはどうも……死を覚悟しているように見えたよ」

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