魔法使いの性(さが)
「それで、俺たちは村に入ってもいいのか? それともここで享楽鳥を引き取るか?」
ハッとしたようで、勢いよくラーシャーさんに向き直った職員さんが、コクコクと頷いている。
「いや、頷かれても分からんぞ。入っていいのか?」
「あ、ああ。入ってくれ。支部長もそろそろ手が空くころだから、報告なんかは直接頼む」
職員さんは、負傷した冒険者たちのケアだったり、解体の手配だったりと忙しくなるとのことだった。
村に入ると、アルトとシューゲルがそわそわしだした。この村は二人の故郷だから、きっと心配事もあるんだろうね。
「アルト、シューゲル。二人はご実家を見てくるといいよ。こっちは任せて」
「すまん、そうさせてもらうわ。エルナーありがとうな!」
「行ってくるね!」
二人を見送って、僕達は冒険者ギルドの支部に向かいながら、村の様子を見やる。建物の至る所に破損個所が見られる。
木材を釘で打ち付けて、塞いでいる為にあちこちから、カンカン、トントンと修繕の音が響いていたよ。
状況が状況じゃなかったら、アリーチェは今にも踊りだしそうだった。音が響くたびにそわそわしているのが、見ていて面白い。
「……むぅ、なんかエルナーに笑われてる……」
「あ、あはは。そわそわしてるのがおかしくて、ごめんね?」
そうして着いた冒険者ギルドの支部だけど、やはり建物は傷だらけだった。
「よく来てくれた。支部長のランビルと言う、よろしく頼むよ。『黄金の誓約』の話は聞いているよ。君たちに会えて光栄だ。私は、かの第三騎兵団『ゴルプレッジ』のファンなんだ」
ランビルさんが言うには、享楽鳥の群れが五日前に飛んできたそうだ。通りすがりに襲われ、村の家畜の多くが食い殺されたという。
それから度々、数羽が襲撃してきて、村全体が疲弊しているのが現状なのだそう。
僕たちが享楽鳥を殲滅し、こうして村に寄付の形で渡したことを殊のほか喜んでくれたよ。
ソウドリほどではないけれど、可食部位は多く、特に首周りの肉がおいしいのだそう。羽毛も手触りがよく、服飾関係に人気が高く、いい資金源になると教えてくれた。
「木材や大工の手配、それと医者か。それらを手配できるだけの資金は得られそうだ。本当に感謝しかないな」
呵々と笑うランビルさんに案内された倉庫に、享楽鳥を降ろしていく。
積んだ時も思ったけど、こうして並べてみても壮観だよね、言い方は悪いかもしれないけど、慣れていないとちょっと気味悪いかもしれない。
支部の方に戻ると、アルトとシューゲルが来ていたよ。
手を軽く上げて、お帰りの意を示すと二人も同じようにしてくれた。
「俺の家は、親父がちょっと怪我したのと、母さんが襲撃があった初日に驚いて、転んで腰を痛めてた」
「うわ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ……。親父が、母さんを護るんだってはりきってたから……」
なぜかゲンナリしている。両親の仲が良いのは良い事では?
「目の前で両親がいちゃつき始めて見ろ、目も当てられないぞ……」
「……ごめん、僕の両親わりとそんな感じなんだよね……」
父さんと母さん、凄く仲が良いからね。僕やアリーチェが見てる前で、普通にキスとかしてたから、僕たちはそういうものなんだな、という認識だった。
「僕の実家も大丈夫だったよ、というか、はぐれた一羽を仕留めたみたい」
シューゲルの父親が狩人らしく、弓を教えてくれたのが父親なのだとか。
さすがと言うか、何ともたくましいね。
自慢げに仕留めた享楽鳥を見せられ、つい自分達も殲滅してきたことを口走ってしまい、嘘を吐くなと怒られたそうだ。
というか、倉庫の入り口の柱に手をついて、項垂れてる人がシューゲルのお父さんなのかな? シューゲルとアルトが苦笑いを浮かべて頷いた。
「ジンとメローネは別の村からだったよね、ラムダはアルト達と一緒じゃないの?」
「あー、僕は北の村出身なんだ。魔法学院を修了して、なるべく近い所で冒険者登録したところで、アルト達と会ったんだよ」
魔法学院か。そういえば母さんも教える側に誘われていたそうだけど、すごく嫌そうな顔で、断ったことを教えてくれたっけ。
急ぐ旅だから寄らないけど、一度行ってみたいんだよね。『魔法使いの父』の足跡を見てみたい。
「魔法学院はここから北北西にあるよ。周りには、なんにもないけどね」
「え、街にあるとかじゃないんだ?」
「エルナー君、ボク達の訓練や研究でわかると思うけど、広い場所じゃないと周りの安全が取りづらいんだよ。だから、何もない平野に建てたそうだよ」
なるほど、街中で爆発とか突風とか、危険極まりないもんね。
庭で享楽鳥の魔法の研究してるときに、木を数本へし折ってタナカさんに無言の圧を掛けられたのを思い出した……。
「エルナーなら分かると思うけど、新しい構成とか思い浮かんだら、すぐ試してみたいでしょ? 魔法学院の教員も当然魔法使いだから、僅かな移動も省けるぶん、凄く活き活きとしてる場所だったよ」
良いように言っているのに、なんで顔をしかめているのさ。
「その研究成果を生徒に見せるために、外に連れ出して、大抵が失敗するんだよね。それの後始末を僕達がやってたんだよ……」
「……連れ出すのって、後始末要員だったんじゃないの?」
かもしれないねー、と弱弱しく笑うラムダに、思わず同情してしまったよ。
同時に、母さんが嫌がった理由がなんとなくわかった。
同じ経験をして、いざ教員となった時同じことをしてしまうかもしれない。その可能性を捨てきれないから、嫌だったんだね。僕だって同類にはなりたくないもん。
「まあ、そんな場所だからエルナーには合うかもしれないね」
ラムダ君、ちょっとオハナシしたほうがいいのかな?
ラムダの対応は、残念ながら移動中にすることにする。ランビルさんが支部から出てきたからね。
「簡単にだが、手続きは済ませてきた。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう」
「いいさ、有意義に使ってくれよ」
「もちろんだ。少しでも早く、村を復興させるためにも、無駄な事はしないさ」
ラーシャーさんの言葉に、ニッと笑いながらランビルさんが表明してくれたよ。
急ぐ旅だからということで、僕たちはすぐに発つことにした。薄暗くなるくらいまで進み、これ以上は危険という事で一度家に転移することに。
「ん、魔王様お帰り。何も問題は起きなかったぜ」
「おつかれ、ガードさん」
玄関横に立つガードさんと、肩の高さでハイタッチをする。ここしばらくで根付いた挨拶のようなものだ。
ノリでやり始めたのを、アリーチェとメローネが面白がって真似し、それが波及してしまった結果だった。
まあ、挨拶は当然するし、スキンシップの一環と思えば悪くないとおもう。僕たちは主従ではなく、対等な友人同士なわけだしね。
レイスの子達にわちゃわちゃと寄られるのも、もはや日課だよ。何があった、こんなことをしたと話すととても喜んでくれる。僕もアリーチェも、こうした日常と化したことを、とても大切に思っている。
「はいはい、皆そこまでですよ。夕食の準備が出来ました。皆さん食堂へどうぞ」
いつもながら美味しいタナカさんの料理をいただき、しばらく休んでから、ラーシャーさんとカッシュさんを連れて庭に出る。
「それで、なんだって外に?」
「ええ、ちょっと台車で思いついたことがありまして。ただ、慣れるまで危険かもしれないので手伝ってもらえたらなと」
不思議そうに首を傾げている。まあ、台車で危険があるとは思わないだろうけど。
「ちょっと、僕吹き飛ぶかもしれないので、受け止めていただけたらと」
「待て、本当に危険なやつじゃないか!?」
「おいエルナー、早まるな!」
「いきますよー!」
「「待てえええええッ!!」」
明後日の方向に吹き飛んだ僕の視界の端に、ラムダが映る。
そして奇跡的に、ラムダの呟きが聞こえてしまったよ。
「ほら、やっぱりエルナーと魔法学院の教員、やってる事同じじゃないか」
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