マップでの攻撃はロマン
地図魔法に示されている享楽鳥のマーカーは、森の側に複数みられる。かなり分散しているというのに、マーカーの動きからはこちらに集まってきているように見える。
気になることがあるが、今は享楽鳥の対処が優先だ。
魔力を森に浸透させていく。自身の魔力を伝って情報を読み取り、妖精たちの祝福がそれらを処理してくれている。そのお陰で、地図魔法に森の全容が記されたよ。
冒険の在り方として、あまり好きなやり方ではないけれど。だからといってわざわざ危険に挑むつもりはないよ。
「おかわりって、どのくらいくるんだ?」
「パッと見た感じだと、十数体かな? だいぶ散らばってるけど、こっちに集中して向かってきてる。アルト、遠距離の攻撃方法が無いからシューゲルやラムダを護ってね」
享楽鳥相手に、剣士が出来ることは少ない。せいぜいが、享楽鳥の放つ不可視の刃を防ぐ肉盾だろうか。
対策はしているよ。二年前に遭遇してから、どうにか自衛手段を得られないかと色々試した。その結果、剣に自身の魔力を伝わせることで、不可視の刃も叩けるようになったんだ。
「――来るよ」
ケケケ、とあちこちから聞こえてくる。それに少し遅れて不可視の刃が、空気を割く音と共に降りかかってくるッ!
『風錬』をまとったアリーチェが一歩前に歩み出る。そうして軽快なステップを踏んでふわりと回る。
あまりにも軽やかに、手にした剣と共に回りつつ、剣に宿した風を不可視の刃目掛けて解き放った。
ぶつかり合い、僕達と享楽鳥の間の空間が、轟ッ! と悲鳴を上げる。
享楽鳥の魔法が風ならば、その攻撃の正体もまた限られる。収束した風、これがクゥナリアさんとの研究で分かったことだ。
収束した風に、真正面から同質の風をぶつけてやれば、ただただ拡散してしまう。これも対策の一つだよ。
そして次は僕の番だ。地図魔法に座標は既に設定してある。
ぶつかり合ってほどけた風が荒れ狂うのは、研究していた頃に体験した。その暴れる風の全てを、比較的近い享楽鳥の背後から放出する!
『ケケッ!?』
突然暴れだした風に、享楽鳥は戸惑う事だろうね。
中にはほら、落ちる個体も居るんだよ。脱落した個体は即座に狩られることになる。アリーチェと共にいる時間が長いメローネも、『風錬』を使いこなすんだよ。
黒い風と赤い風が奔る。落ちた享楽鳥はそのまま斬られ、どうにか持ちこたえた享楽鳥は地上を走る風に注意を持ってかれている。
当然、そんな隙をルルゥさんとシューゲルが見逃すはずがない。
ジンとアルトに護られながら、次々と射抜いていく二人の背を眺めつつ、ラムダとクゥナリアさんが着々と準備を進めていくよ。
火と水の合成魔法。高温の熱量を持つ蒸気が、一定の空間に保たれているよ。
触れれば火傷ではすまないそれを、享楽鳥のマーカーに固定して転送をしていく。次々とマーカーが消えていくのが、なんだか少し楽しくなってきた。
「エルナーが笑ってる……」
「あはは……。凄く悪い顔してるね」
いや、まあ。こういうマップでの攻撃ってちょっとしたロマンじゃない?
「なあ、エルナー。地図魔法で剣の転送先を、直接相手に設定とかもできるのか?」
「……。ラーシャーさん、それ暗殺者の発想じゃない?」
「もしそんな状況があったら、真っ先にエルナーが疑われるな」
えー、酷い。
そうしてしばらく、一方的な戦闘によって森に居た享楽鳥は殲滅できた。
「解体……どうします? いくらか森の中に落ちたんですけど」
「近くの享楽鳥だけでも相当いるからな……。森の養分になってもらうしかないか?」
もったいないとは思うけど、数が数だしね。仕方ないかな?
「なあ、エルナー。享楽鳥って小人の国から来る魔物なんだよな? そうすると、位置的に俺たちが来た村を通ってきたと思うんだよ」
「……これだけの数が飛んできた? もしかしたら何かしら被害が出ているかもしれないって事か……」
「その、勝手な事だと思う。けど、出来るだけ持って行ってもいいか? 何か助けになるかもしれないし」
「そう言う事なら、わかったよ。アルトの村、無事だといいね」
冒険者ギルドの支部もあるって話だったし、確かに助けにはなりそうだね。
運ぶ方法を考えよう。全員で持って行くと、緊急時に危険かもしれないからやっぱり魔法が良いのかな。
一度金庫に保管するのもいいけど……、血で汚すのもなんか嫌だ。
「エルナー、地図魔法で倒した享楽鳥をこっちに転送できない?」
「うーん、どうだろう。マーカーが無いから何とも言えないけど……、大丈夫そう。マーカー出た」
<享楽鳥:死骸>
こんな表示が出てきた。それを意識すると僕達が倒した個体のマーカーも出てきたよ。
……ん? ずっと北東の方にもマーカーが表示されてる。位置的に、小人の国なんだろうかね?
ひとまず、倒した享楽鳥を近くに転送し、その数を数えると、なんと十四羽だった。
稀に来るっていう話だったのに、僕達はもう二年前と合わせて十六羽と遭遇したことになる。やっぱり、秘境の異常が影響しているのだろうか。
本当に急がないといけない気がする。この数は明らかに異常だよ。
「さて、これだけの数どう運ぶか……。うん? エルナーどうした?」
「あ、うん。ちょっと考え事してたよ。そうだなあ、量を運ぶなら台車かな。でも車輪が無いし……」
筐体は土魔法で作れるんだけど、車輪の構造とか分からない。軸と輪っか?
うんうんと唸ってると、涼やかな風が僕達を撫でる。
こういうありふれた自然を感じるのもいいよね、と少しばかり逃避して、ふと閃いた!
「そうだ、風だ。吹き上げて浮かせばいいんだ」
ちょうど魔法使いが三人。僕とラムダで台車の箱を作って、クゥナリアさんが下から強風を吹き上げさせる。うん、なんかいけそう。
高さを低く、底の面積を大きくとり、蓋の無い箱状の物を土魔法で生成する。
「ラムダ、このくらいのを作れる?」
「やってみる。…………、どうかな?」
「うん、完璧。クゥナリアさん、この箱の下を満遍なく、強めの風を吹かせて浮かせられる?」
「ん-……、二つ同時は、ちょっと難しいかなー」
箱をもっと大きく作る? それで僕とクゥナリアさんで吹き上げる。
けど、大きくするとラムダの負担が大きいんだよね。なら僕が自分で台車と風を制御する……? アリーチェやくーちゃんに怒られそうだ。
『エルナー、私がエルナーの箱を浮かせるですの』
「あ、それは嬉しいかな。あとは、実際に享楽鳥を乗せて、動かせるかだね」
みんなで箱に積んで、クゥナリアさんとくーちゃんが風を使って持ち上げる。
箱が浮くと、皆が歓声を上げていたよ。
アリーチェとメローネが、僕の方の箱台車をそっと押すと、非常に滑らかに動いた。
「凄い! エルナー、これ凄いよ! 全然力入れなくても進む!」
「なんか面白いねー! 魔法を使わないと出来ないのが残念だなあ」
はしゃぐ二人を見て、思わずほっこりしてしまう。僕だけじゃなくて、みんなが笑顔だったよ。
そうして進む事しばらく、ようやく村が見えてきた。
期待もむなしく、被害はかなり大きかったみたいだ。それでも、動く人たちに悲壮さが無いのが救いだろう。
「……ん? なんだあれ……ッ! あ、おい! アルトー!」
「ただいま! やっぱ、被害があったんだな」
冒険者たちが体を張って守ったおかげで、怪我人こそ多いものの、死者は出なかったらしい。
原因となった享楽鳥を、僕達が倒して持ってきたことに驚いたようで、すぐに冒険者ギルドの支部の人を呼んできてくれた。
「待たせた。……本当だったのか、これだけの享楽鳥を……。すまん、助かった」
「気にしないでいい。それより、この享楽鳥の解体を頼めるか? 旅の身でな、あまり荷物を増やしたくない。取れた素材は寄付しよう。冒険者証だ、確認してくれ」
代表してラーシャーさんが対応してくれた。慣れた感じが格好いい。僕もいつか、こうなれるだろうか。
「『雷牙』か! なるほど、さすがBランクパーティーだ」
「俺達だけじゃさすがに無理だ。ここに居る全員の力があってこそ、だ」
そう言って僕らを誇らしげに見やる。それに応えるように、僕達も胸を張るんだよ。
探るような視線を浴びる。僕とアリーチェはもちろんだけど、『金の足跡』もまた不快さに魔力がうごめいた。
ギルドの人間であるならば、分かるだろう。僕たち全員が魔技を扱う。それがどれだけの戦力であるかなど、計れない訳が無いのだからね。
冷や汗を額に流す職員に、僕たちはニコリと微笑むよ。
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