別れ
拠点で夜を明かし、タナカさんが作った朝食をみんなで食べて落ち着いた頃、『風の道』のリーダーさんが申し訳なさそうに話し始めた。
「あー、その、すまないんだが……。故郷からの連絡で、どうしても外せない依頼があってな。俺達『風の道』はここで離脱することになりそうだ」
「え、そうなんですか……。なんだか寂しいですね」
とはいえ仕方ないと思う。僕だって村が大変なとき、転移してでも駆け付けたからね。故郷は大事だよ。
「その、僕たちも何か手伝えますか?」
「いや、魔王様たちは小人の国へ行ってくれ。アルシェーラ様も急ぐように言っていただろう?」
そうなんだけど。それでも、僕は彼らに対してなにかしてあげたい。これまで散々手伝ってくれていたんだから、お礼の一つもしないといけないと思うんだよね。
「本当にいいんだ。俺たちは、魔王様と黒姫様の冒険を邪魔したい訳じゃないんだ。危険も多いと思うが、楽しんでくれるのが一番うれしい」
「そうです! 魔王様のご威光を世界に知らしめるべきなんです。私たちの事でその一歩を止めることなど、あってはいけませんよ!」
「うん、落ち着け。あと話がこじれ……てもないな。前半はともかく、後半はまともな事言ってたな。まあ、つまりはそういう事だ」
その気遣いがとても嬉しい。普段は悩まされてばかりの女の人も、僕たちの事を思ってくれているのは分かる。
うん、無理言って困らせるのは良くないよね。
「あの……、また、会えますよね?」
アリーチェがおずおずと尋ねたよ。その心配はしていなかったけど、可能性としてはあったのか。
「もちろんです黒姫様。途中の合流は、たぶん難しいでしょうが、必ずお会いできますよ」
「……そっか!」
輝かんばかりに笑うアリーチェに、弓術士の男性はデレデレとしている。
僕も学んだのだ。この人はアリーチェの幸せをこそ望んでいる。だからしばらく会えなくなる彼のその表情を許そう、けれどジト目になるのは許してください。
「それで、出発は僕達と同じくらいになりますか?」
「ああ、そのつもりでいるよ」
「なら、もう少し話せますね!」
彼ら『風の道』は、他国の出身らしい。同じ人族だけど、その国ごとに人種が分かれている訳でも無いのは、知識としては知っていた。その人種が多いというだけで、実際にそこに住まうそれ以外の人種も多い。
けれど実際にこうして聞くと驚きしかなかったよ。
そのため、移動には結構な時間がかかるらしい。向かう方向が逆方向だから、せめて別れる時間までは一緒に居ようと、相談して決めたようだ。
それを聞いて僕もアリーチェも笑顔になったよ。誰かに受け入れてもらえるというのは、とても嬉しい事だからね。
そしてそれが、尊敬する人達だったらなおさらだ。彼らの連携は見てるだけでも学ぶところが多い。それに、同じ弓術士のシューゲルなんかは誰よりも彼らの世話になったためか、さっきからずっと目が赤いままだった。
弓の握りや咄嗟の時の動きなど、一切を聞き逃さないぞ、という剣幕だったよ。
それでも、時間と言うのは非情だった。あっというまに出発の時間を迎えてしまっていたよ。
「そろそろ門に向かいましょうか」
僕の声にそれぞれが応じ、どこかゆっくりとした動作で動くから、思わず笑ってしまった。
「エルナー?」
「いや、ごめん。みんな動きがとてもゆっくりになってたから、つい」
アリーチェが不思議そうに聞いてきたから、理由を口にした。それに納得したのか、皆苦笑いを浮かべていたよ。
門までの道中でも、話は尽きなかった。まだまだ話足りないけれど、時間が足りないし、道中の距離も短かった。
「名残惜しいです……。また、会える日を楽しみにしています」
「ああ、また会おう。冒険話、楽しみにしているからな?」
「ああ、魔王様、魔王様……。リーダー、私やっぱり、って痛い!」
剣士の女性が、弓術士の女性の耳を引っ張っている、確かにあれは痛いと思うよ。
「馬鹿な事言ってないで。『雷牙』、皆をよろしくね?」
「もちろんだ。一度叩きのめされたからな、もう迷わんさ」
ラーシャーさんの返事に、ならいいけど、と言って笑っていた。
「元気でね!」
「黒姫様も!」
「みんなも、でしょうに。シューゲル君、皆のサポートは任せるからね? 分からないところは、ルルゥさんに訊くのよ?」
「は、はい! 皆さんからのご指導、無駄にならないよう頑張りますッ!」
ウインクしながら言われたためか、シューゲルの顔が赤い。
それに気づいたメローネが剣の柄で後ろからツンツンしている。危ないからやめなさい。
「この二年、本当にありがとうございました。もっと一緒に冒険したかったけど、無理は言えませんからね。故郷を大事にしてください」
「ああ、ありがとう。俺達もいい経験を積ませてもらったよ。お陰でまた一つ、冒険者として上を目指せそうだ」
呵々と笑い、僕の頭をポンと叩く。弓術士の女性の視線がどうにも怪しいけど、気にしてはいけない類の物だろう。
リーダーさんも視線に気づいたようで、お互いに苦笑いを交わしたよ。
「それじゃあ、行くか。またな!」
「ええ、また!」
西に去っていく『風の道』を少しばかり見送って、僕達も東へと踏み出した。街道沿いに進むと国境に至るらしいので、迷わずに済みそうだ。
しばらく歩いていると、ずっと思っていたことがつい、口に出てしまった。
「結局、最後まで皆の名前教えてもらえなかったなぁ」
隣を歩くアリーチェ以外、皆が立ち止まった気配を感じた。
「『風の道』は、名乗らないことで有名でもあるんだよ。どういった意図があるのかまでは分からないが、名乗らなくても不都合があったわけではないからな」
「まあ、確かに見て受け答えすれば大体伝わりますけど……」
とはいえ、不自然ではある。何か特殊な理由がない限りは、名前は教えるものではないだろうか?
前世のように、詐欺に使われるといった事は無いだろうと思う。そう思いたいだけかもしれないけれどね。
「考えられることとして……。信用されていない、もしくは相当におかしな名前の可能性……」
「エルナー。あまり人の名前を詮索してやるな。次に会ったとき、その辺りを聞けばいいだけだろう?」
カッシュさんに窘められて、ずいぶん失礼な事を考えていたことに気づかされたよ。
「そうですね、邪推するのは良くないですね。とりあえず、今は進みましょうか」
しばらく歩くと、アルト達『金の足跡』と出会った森が見えてきた。
いろんなことがあったなあ、と思わず思い耽ってしまっていたよ。
――ケケケケケケッッ!!
「――ッ!!」
全員が即座にバックステップを踏む。
僕とアリーチェが立っていた場所より、少し後ろの地面が抉れた!
地図魔法を見れば、享楽鳥のマーカーが森に入って少しの所にある。
地図魔法を俯瞰視点に変え、享楽鳥の位置を特定。それをシューゲルに見せる。
「――シッ!」
ヒュンッ! …………ザシュッ!
地図魔法からマーカーが消えたのを確認し、シューゲルを見てニヤリと笑うよ。
「お見事!」
「先輩方のご指導の賜物だよ! あと、エルナーが一をしっかり教えてくれたからね!」
それでも、ここから森までは随分離れている。それに直視できないのに当てるなど、控えめに言っても神業ではないだろうか。
『金の足跡』の皆も大いにはしゃいでいたよ。二年前の難敵を、こうもあっさりと倒して見せたのだから。
「『黄金の誓約』といい、『金の足跡』といい。有望な新人が揃い踏みだな……」
「というかぁ、エルナー君に関わった人みんなぁ、結構な実力を得たよねぇ?」
「だな、ジンも俺の動きを吸収していってるから、パーティーのバランスもかなり良くなってると思うぜ」
「ラムダ君も、ボク達と訓練してるから生成から発動までが相当早くなってるよ。エルナー君の発想も取り入れたりしてるから、一番化けそうだね」
『雷牙』がうんうんと頷いて『金の足跡』の評価をしている。確かにこの二年で相当力を付けている。僕達も負けじと頑張っているけど、成長率で言えば彼らに軍配は上がると思う。
さて、喜んでいるところ悪いんだけどね。
「さ、みんな! おかわりが来るから気を入れ直してね!」
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