決着
集中の深度を深め、相対する『雷牙』の動きを注視する。
向こうも同じように注意を向けているけれど、徐々にではあるがルルゥさんがカッシュさんの影に隠れつつある。
正面から行けば射抜かれる。それが分かる配置ではあったよ。
わざと分かるようにしてけん制しているのだろうか。それならそれで構わない。
その程度の不利くらいは、乗り越えて見せるよ。
二対四と数で負け、経験の差でも負け。それでも僕には絶対的優位があるんだよ。そいつを駆使した戦闘を確立しないといけないけれど、幸いなことに安全で命懸けな実戦で試行できる。
アリーチェが踏み出すよ。『雷迅』によって過剰な反応を見せる脚が、その勢いだけで地面を抉る。
それ程の加速、普通であれば視認はできないだろう。
ベテランに、その普通が当てはまらない。既に経験している速さは即座に対応されるよ。
だから。
アリーチェの姿が掻き消える。そしてカッシュさんの横合いから神速の斬撃が振われるッ!
ザシュウウウウウッッ!!
「ガアッ!?」
……あのタイミングで、咄嗟に身を引けるのか。左腕を浅く斬り裂いただけに留まってしまっていたよ。
「地図魔法……ッ! 厄介すぎるぞまったくッ!」
やっぱり、ネタは分かってしまうよね。けれど問題はないよ。
分かっていても対応が難しい戦術こそ、もっとも有効な攻撃方法だ。数で劣り、経験で劣るならば搦手で挑むだけだ。
「ごめんエルナー、反応されたッ!」
「大丈夫。予想外ではあったけど、向こうの戦力が落ちたことには変わりないよ」
このわずかな会話の間にも、『雷牙』はカッシュさんをフォローする体制を整えていたよ。
ラーシャーさんがカッシュさんの左側に立ち、メイスを持てないカッシュさんの死角を補っていた。
「『炎舞』」
アリーチェが炎を纏い、ラーシャーさん目掛けて駆ける。大剣でアリーチェの剣をいなすも、手数が違いすぎて反撃が出来ていない。そこにカッシュさんがシールドバッシュを仕掛け……なるほど、意図が読めた。
赤い『火精』を召喚する。それらを纏い、ルルゥさん達に突撃するよッ!
「ちょっ!? 自爆する気なのぉ!?」
ドガアアアアアアアアッッッ!!
驚きつつも正確に『火精』を射抜き、大爆発を引き起こす。
その爆発の中に僕はいない。突撃を仕掛けた瞬間に一度上空に転移して、爆発が起こったのを確認したのち、再転移した。
ルルゥさんの背後に。そうして、振り返りの勢いを加えてルルゥさんの首を斬る――ッ!?
「グハッ! ――あぐッ!」
嘘でしょう? 完全に取ったと思ったのに、その瞬間に屈まれたうえにお腹に身体強化込みの蹴りを入れられたッ!
蹴り飛ばされて地面に叩きつけられて……やばい、頭が揺れてる。
せっかく、前衛二人をアリーチェが引き付けてくれているのに失敗してしまった……ッ!
「危なぁ! 気配感じ取れなかったら、危なかったわぁ……」
「ルルゥ! 油断しない! 相手はエルナー君だよッ!?」
「してないわよぉ」
おのれベテラン……僕に煽りは効かないぞ。絶対に勝ってやる。
脳震とうを装って土の場を浸透させる。そしてチラとクゥナリアさんを見やり、左手を向けたよ。
「ッ!」
「『ディグ』ッ!」
「えッ!? きゃあああああああ!」
「んえぇっ!?」
立つ位置を中心に、半径一メートルの大穴を展開させたよ。そうして落ちたのはルルゥさんだ。
手を向けたのはフェイク? いいや、これも意味はあるよ。
「エ、エルナー君姑息だよッ! 殺意が高すぎだよッ!?」
そりゃあ、今殺し合いの最中ですからね。にっこりと笑いかけ、左手の手の平を上に向けクイっと引き寄せる。
『ディグ』によって掘られた土がクゥナリアさんの背後で勢いよく成形されるッ!
ドシュッ!!
「か……ふ……ッ!」
地面から心臓を破壊する角度で、クゥナリアさんの胸を土の槍が貫いたよ。足が浮いているのが何とも痛ましく見える。自分でやってなんだけど、やりすぎたと後悔してしまったよ。
ともあれ、こっちはどうにかなった……。遠くにルルゥさんとクゥナリアさんが見える。
「アリーチェ! 今応援……に……?」
……えっと。
アリーチェさん、それ、なんですかね?
アリーチェがロマン装備してる。右手に燃え滾る剣を、左手に氷でできた剣を。いや、本当に何があったの?
片方は『炎舞』なのは分かるんだけど、もう片方の氷の剣はなんだ。ぜひ教えてもらわないといけないね!
それにしても凄まじい。絶え間なく動き回り、剣を重ね、盾と剣の放つ歌が辺りを震わせている。
二剣の為、手数は増えたようだけど、一撃が軽くなっているように見える。それでも一振りする度に最適な動きを模索しているようだ。
剣の天才は、両手に剣を持っていても強くなれるらしい。
赤と青の剣と共に踊る黒き風が。より高みへと至ろうと研鑽を積み上げていくよ。
思わず見惚れてしまう。それ程に、動きが徐々に鋭さを増していった。
「く、そ……ッ! エルナーも大概化け物だがッ! アリーチェも同類かよッ!」
「あはッ! それはッ! 嬉しいです、ねえッ!」
「「褒めてねぇッ!」」
「誰が化け物ですか」
聞き捨てならない言葉に、つい『神経喰らい』を放ってしまった。
「「ギャアアアアアアアァァァァ……」」
「あ……。エルナぁ……」
「……ごめん、つい」
仕方ないなぁ、と苦笑いを浮かべながらも許してくれた。そのことに感謝し、アルシェーラ様に視線を向けると、視界が歪むのを感じる。
明瞭になった視界には、『雷牙』、『風の道』、『金の足跡』の全員が揃っていた。
「Bランクパーティーに勝つとか、どこまで規格外なんだよ二人とも」
「アルト、真っ向から戦ったら僕達じゃ勝てないよ。あ、でもアリーチェは勝ちそうだったね」
「そう! そうだよアリーチェ! さっきの青い剣なに!? どこに隠し持ってたのッ!?」
僕の言葉を引き継ぐようにメローネが捲し立てる。
「前に、火魔法なのに熱を操作することで凍らせてたことがあったでしょ? 『炎舞』でも同じことが出来ないかなって思って、こっそり練習してたんだ」
照れくさそうに答えてくれたよ。そっか、そんなことをしていたんだね。
「ただ、上手くいかなかったからくーちゃんに力を借りたんだけどね」
くーちゃんを見やると、可愛らしく長い首を傾げていた。思い当ることがあったから、くーちゃんに触れて視線を向けさせ、首飾りを軽く握ったよ。
あらゆる温度の調整を行える魔法の首飾り。理解したくーちゃんはどこか嬉しそうにパタパタしていたよ。
「私の剣を見ながら空気を冷やして、を繰り返してやってたらね、出来るようになった!」
「天才って怖いね」
思わず声に出た僕の言葉に、『金の足跡』の全員が頷いたよ。
それが不満だったのか、矛先が僕に向いた。
「エルナーだって、ルルゥさん落としてクゥさん串刺しにしてたよね? その発想が怖いよ!」
『金の足跡』……も含めて全員が頷いていた。何故だ。
「俺たちは『神経喰らい』だったか、あれは、思い出すだけで痛い……」
「わかるぜ、ラーシャー……。お前の雷撃見るたび思い出しちまいそうだ……」
「やめろ、言うな。使えなくなる……」
こっちもやりすぎたのだろうか? ここは話を逸らしてしまうに限るね!
「まあまあ。それで、『雷牙』の皆さん。示す覚悟はこの程度でいいんです?」
「……煽ってくれるなよ。足りる訳が、ないだろうがよ?」
カッシュさんが牙を剥いて答えるよ。他の三人も同じようだ。特にルルゥさんとクゥナリアさんの、僕を見る目が怖い。
『元気よの。若者はそうでなくては。満足するまで付きあおうぞ』
そうして、全パーティーによる戦闘が夜遅くまで勃発してしまったよ。
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