自然環境における魔力的エントロピー
「自然環境下において、魔力の濃度は均一ではないの。私たちに個人差があるように自然内にもそれぞれに適応した魔力があって、それらに偏る性質でね? 分かりやすい例を挙げれば川ね。水の魔力が特に濃いの。草木は水と土ね。他にも様々な物に応じた魔力があって、周りの魔力が動いてるの」
近くの山で考えてみよう。地形からまず土の魔力が濃いと予想できる。木々も生えているから水の魔力もある。他に何があるだろうか……あ、石とか岩とかもかな。とすると土になるのかな……あれ?
「母さん、質問いい?」
「えぇ、いいわよ」
「えっと、近くの山で考えてみたんだけど水と土しか思いつかないんだ。他にも風とか火とかあるはずなのにどうにも考え付かなくて……」
「ふふ、ちゃんと気づいたのね。えぇ、間違ってないわよ? 基本的に人が住める場所では水と土の傾向が強いわね。エルナーが気づいた風と火は、実は水と土の魔力と同様のものでもあるのよ」
なんでも、魔力というものはそれぞれが持ち合わせる魔力の質に移ろいやすいのだとか。
だから空気中をあちこちへ寄せられるように動く魔力は風の性質になるらしい。
では火はどうだろう。答えは実に簡単だった。
「理論上では、生き物は皆火の魔法を扱えるのよね。けれどこれは得意不得意の分野になってしまっているの。生きていれば体温調整で自然と火の魔力を使っているのだけれど」
「体温調整?」
「えぇ、火の魔力は血に宿るの。全身に巡り活動できるように無意識下で調整してるのよ。これを意識して行えるようになると極寒の地でも熱砂の国でも苦も無く過ごせるのよ」
「え、すごい!」
え、すごい! なにそれ夢しかないやつだ!
「話が逸れたわね。火は他にも太陽に影響を受けて変質しているわ。他は今は置いておきましょう。それで最初に言った自然環境における魔力的エントロピーね。魔力的エントロピーというのは今ここ、周りにある魔力と捉えて頂戴」
勉強においてはこの周りだけでいいとのこと。実戦では相手との距離やその周囲まで意識するんだとか。
「私が得意なのは風と火なのだけど、今のままだと即座に魔法が使えないの。何故だと思う?」
「えっと……風と火の魔力が周囲に少なくて、家の中だからたぶん水の魔力が一番強いから、かな?」
「凄いわエルナー! 正解! それじゃあ魔法を使うにはどうすればいいのか。それがこのお勉強の一番大切なところだからちゃんと聞いてね?」
「はい! 母さん!」
魔力的エントロピーという分かりにくい専門用語をざっくりまとめると、その場の特定の魔力の総量となる。
魔法を使う範囲に自分が使いたい魔法の魔力を放出して周囲の魔力を変質させる。母さんの場合はその状態がバンバン魔法を使える状況になるのだとか。その際、変質させた周囲と母さん自身の魔力の質が同じとなり、今は風で満たしているため風の魔法に関して言えば使い放題なのだとか。
「今この状態のことを、魔力的エントロピーの増大と言って、風魔法使いに有利な状態ね。それじゃエルナー、今この時自然環境はどうなっているかしら?」
「え、風の魔力に満たされているけど徐々に他の魔力に変質していくんじゃ?」
「エルナー、風の魔力で満たされてるまでは合ってるわ。けれどその後が違うのよ。例えば、これが水の魔力だったら?」
ふむ、水の魔力で満たされていると。でもやっぱり周囲に影響受けて……え?
水の魔力で満たされてる状況。つまりは水そのものということ。ただ、現象として現れていないだけ……。
「……水の魔力が覆っていてその場の自然が成り立たない」
「……正解よ。それが、自然環境における魔力的エントロピーの減少。長く続けば自然が破綻するの」
これってすごく大事な事じゃない? 使い方によっては人が住めない場所になるわけで……。
「だから、完全に満たしてしまったら散らさないといけない。散らすにはより強い魔力をぶつけて逃げ場を作るか、周囲を別の魔力で覆ってゆっくりと魔力的エントロピーの減少を誘発するの」
「えっと……強い魔力でぶつけるのは穴をあけて水を逃がすイメージで、覆うのは……えっと、あ、そっか! 覆った魔力は別のだから変質は起こりえるのか……」
その後もぶつぶつと考察を続けていたら満面の笑みを浮かべた母さんがいた。
「あ、ごめんなさい楽しくなっちゃってつい……」
「いいのよ、ふふ。聞こえてたけどやっぱりエルナーは天才なのかしらね?」
「あう……恥ずかしい……」
楽しそうに笑いながらゆっくりと抱きしめられる。前世でもそうだったけど、抱きしめられて安心を覚えるのって母さんの愛情を感じるからなのかな。
「今日はいきなり難しい勉強になっちゃったわね、ごめんなさいね?」
「楽しかったからいいよ。大事な事だったし早めに教えてくれて嬉しい」
「そう、ならよかった。お昼ご飯を食べたら外で遊んでらっしゃい?」
「うん! そうするよ!」
お昼を食べた後少し休みながら地図をぼんやりと眺める。
以前レスター兄様と話した時のことを思い出す。
(要はイメージ次第でなんだってできるってことなんだけど……大人になって自分で責任とれるようになるまで使うのは我慢かな)
だってさ、マップ転移とかマップ内の物質転送とかマップ攻撃とかロマンがありすぎて歯止めがね。
レスター兄様のプレゼントだからきっと規格外になってるんだろう。これも漫画にあったチートってやつなのかな?
食休みも済んだから外へでる。ここは人口三十人程度の小さな村で、畜産で生活している。育てているのは豚もどきと鶏もどきである。
豚もどきはトンガと言って、サーベルタイガーみたいな牙を持っている。その牙は錬金術師や装飾職人に卸しているそうだ。肉も美味しいので小さな村だけど力を入れて育てているんだとか。
そして鶏もどき。僕が赤ちゃんの頃窓の外を通って驚かせてくれたやつである。でかい。どれくらいでかいかというと、目測だけどたぶん百八十センチメートルはある。
ソウドリと言って、捨てる場所がないまさに奇跡のような食材、ではなく家禽である。
肉や羽はもちろんだが、内臓は薬師に卸すそうだ。眼球は珍味らしい……僕は食べない。
骨は頑丈らしく、なんと建築に使われるそうだ。加工して釘として使うという。打ち込んで乾燥するとささくれ立って抜けにくくなるそうだ。凄いねソウドリ……。
村の収入は畜産だけではなく、父さん率いる狩猟隊もそうなのだとか。村人で食べる山の食材や獣を解体して生活の足しとしている。トンガとソウドリで村の税は十分なのでこの村は相当に豊かなのだ。
飼料に関しても自足している。表作で麦を、裏作でクローバーという二毛作だった。
漫画で内政チートとして農耕に焦点を置いた物があったけど、なんだかこの世界、悉く打ち砕いている気がする。魔法だってなんかすごい難しい事になってるし……。
さて、僕の遊び場は川辺である。正確には僕たちのであるが。
「えるなー! おそーい!」
「ごめんねアリーチェ。お母さんに魔法の勉強教えてもらってたら遅くなっちゃった」
「おべんきょー? えらいねー!」
にこにこと眩しい笑顔を見せてくれるこの少女。なんと僕と同じ五歳である。
前世とエリカお姉様のプレゼントで言葉の差が酷いが、可愛いので良しである。
「今日は何して遊ぼうか?」
「えっとね、ぼうけんしゃごっこ!」
「うん! やろう!」
ぼうけんしゃー!
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