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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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アルシェーラの古代森

「狩りつくせたって……それほどヤバかったんです? その『悪食の森』っていうのは……?」

「ヤバかったな。一夜にして村の一つを飲み込み、アンデッドの大群を吐き出していた。詳しく知りたいのならここを出てから聞くといい」

「……そうします」


 ラーシャーさんとアルトが剣を構える。話している間にも歩いていたし、周囲に意識を割いていたからこその反応だ。

 僕はと言えば話しながらも地図魔法を確認していたから、既視の相手ならマーカーに現れたはず。

 それが無いという事は未知の敵ということだろう。


「ふむ、土や草木に擦り付けて臭いをごまかしているが、僅かに獣の匂いがするな。恐らく四足獣だ」

「足音はかなり殺されているね。猫科のしなやかさと歩法に共通する、狩る側の技巧を感じるよ」


 ラーシャーさんとクゥナリアさんが獣人としての能力をいかんなく発揮したよ。

 狼の鼻と梟の耳。なるほど、これほど索敵に向いた能力はそうそうないと思うよ。


「数は二匹……こっちと、そっち。たぶん、時間差で来るよ」

「正解だアリーチェ。まったく教え甲斐があるな」

「えへへ、ありがとうカッシュさん!」


 僕は未だに気配というものを探れない。いつかは出来るようになれるといいんだけど、先は遠そうだ。

 それまではアリーチェや皆に頼ることになりそうだ。


「ジン、初撃は俺たちが受け止めるぞ。できるな?」

「出来ます」

「よし、なら俺は向こうの奴を抑える。そっちは任せたぞ」


 ジンが油断なく構えて頷いた。二手に分かれての戦闘はあまり経験は無いけど、出来なければ先はない。


 ドガアアアアアアッッ!!


 空気が揺れた、そう錯覚するのとジンの盾に獣が激突したのはほぼ同時。

 衝撃で停止したお陰でそのシルエットが露になったよ。そいつは前世で見た図鑑で見たような姿だった。自信はないけれど、恐らく豹に類する獣だと思う。

 全長で二メートルを優に超す体躯での激突に、僅かにずれ下がった程度で抑え込んだジンはさすがの一言だ!


 ジンの影からアルトとメローネが左右に飛び出し斬り掛かるッ!

 それより早く飛び退いた豹は、着地と同時にしなやかな筋肉を躍動させ、アルトに飛び掛かる。


 それを見越したジンが、重そうな装備からは想像はできないほど速くシールドバッシュを叩きこむッ!


『ギャウウウウウッッ!?』


 横合いからの強烈な叩き込みに、弾き飛ばされ木に激突した豹が悲鳴を上げる。

 チャンスと見たアルトが正面から大振りに剣を振り下ろしたよ。当然、それは避けられてしまう。


 だが。


 本命は死角を取ったメローネだ。飛び退いた豹の脚を斬り、その機動力を削ぎにかかる。

 急な痛みに驚いたのか、もう片足で高く飛び跳ねてしまった豹は、シューゲルの格好の獲物となり下がってしまったよ。


 ドスッ!


 精密な射撃が豹の喉を射抜いていたよ。即応し、構えて狙い、撃つ。この一連の動きを一呼吸で行う技巧を彼は学び続けてきた。その結果一瞬の優位を完全にものにする実力者の仲間入りを果たしたのさ。


 お見事。危なげなく勝って見せた『金の足跡(そくせき)』はそれでもなお、周囲を警戒して見せたよ。


 ラーシャーさん達の方も終わったようだ。警戒しつつ戻ってくると、僕に視線で確認を取ってきたので頷いたよ。


「お疲れさまでした。アルト達もお疲れ。皆いい動きをしていたよ!」

「うんうん! アルトが囮になってメローネが後ろから足を斬ったのは凄いと思った!」

「僕は何もできなかったなあ……。ねえ、エルナー。エルナーならどうしてた?」


 僕なら、か。水と土であの手の相手に出来ることか。


「相手が動いてるときに、目の前に水球を出して一瞬でも意識を逸らすか、地面に凹凸を作って転倒を誘うかな? 軟化させて足を取るのもいいかもしれないね」

「……スラスラと、そういう戦術を思いつけるんだもんね。はあ、エルナーが遠いよ」

「魔王様は別格ですからね。ですがラムダさんも、魔法使いとしては既に一人前と言える水準に達していますよ」


 そう褒められて、照れたラムダが少し頬を染めてお礼を言っていた。


「『風の道』の皆さんもお疲れ様です。こういったフィールドでは、皆さんが最も安心して後方の警戒を任せられるので……。やはり、前に出たほうがやりやすかったりしますか?」

「いや、後方の警戒を任せてもらえるなら全うするさ。大事な役割って言うのは分かってるし、いざという時サポートにも入れるしな」


 リーダーさんにそう言ってもらえたなら、気も楽になるというものだ。

 ありがとうございます、とお礼を言って移動を再開。地図魔法で索敵を行っていると、マーカーに変化が現れた。


「ん? エルナーどうしたの?」

「地図魔法のマーカーにちょっと変化があってね。さっきの豹、『アルシェーラ・パンサー』って言うみたい。他にも巨大毒蜂は『アルシェーラ・キラービー』、巨大蜘蛛は『アルシェーラ・ハントマンスパイダー』だって」


「「アルシェーラ!?」」


 ルルゥさんとクゥナリアさんが同時に叫んだ。この二人が反応するとしたら、もしかしたら星詠みの塔にあるって言う、資料関連じゃないだろうか。


「ねえ、クゥ? アルシェーラって言ったら、使徒様の一柱よね?」

「そう、だね。ボクたち獣人にとって始まりの使徒様はキアラ様だけど、そのキアラ様は、他の使徒様について言及があった。その一柱がアルシェーラ様だったはず……」


 うん? 使徒様の名前が何故ここで出てくるんだろう?


「あの、その土地固有の生き物に、その名前を付けたりするのは分かるんですが、それがここに出てくる理由って分かりますか?」


 記憶を辿るように、じっと虚空を見つめていたクゥナリアさんが、その目を大きく開いて瞬いた。


「使徒にしては珍しく、動くことの敵わぬ身。されどその身は奇跡の森を守護する大木となろう」


 それはつまり。

 この秘境の主は使徒様で、その名はアルシェーラ。太古より今までを守り通してきた偉大なる守り神。


「アルシェーラの、古代森」


 地図魔法に、そう記された。

 そして『雷牙』全員が狼狽えてしまった。


 それはそうだ。彼ら獣人は使徒を信仰している。そんな彼らが今足を踏み入れているのはどこだ。

 過去より現存する使徒が一柱、アルシェーラが守護する森だという。その森に存在するもの、その名を頂く者たちを屠っているのだ。


「落ち着いてください」

「エルナー! お前は人族だから分からないだろうが! 俺たちにとって使徒様はッ!」

「落ち着いてください」

「落ち着いてなどいられるかッ! 使徒様の領域を侵害してしまった――」


「落ち着け」


「――ッ!?」


 らしくもない。不甲斐ない。信仰するあまりにヒトとしての尊厳をかなぐり捨ててしまったのだろうか?


 だとしたら、キアラ様。貴方は救い方を間違えたのかもしれませんよ。信仰とは全てを投げうってでも果たすものではなく、その教えを敬う為にあるのだろうに。


「『雷牙』の皆さん、いいや、『雷牙』。あなたたちはキアラ様を信仰し、同じ存在である使徒様を敬っているのは分かりますが。敬うあまりあなた達は、自ら使徒様の奴隷となっていませんか?」


「あなたたち自身が、キアラ様の想いを冒涜していませんか?」


「「「「――ッ!? ――――ッッ!!」」」」


「ええ、僕は人族です。だから皆さん獣人がどれほど信仰しているのかは、正直分りません」


 尊敬する人達に、人族だから、などと差別されてしまった僕は。


「そんなに狼狽えるならば帰ればいい。送って差し上げますよ。アルシェーラ様の領域での殺生を拒むなら、邪魔でしかない。それになにより、差別などされて僕は機嫌が悪い」


 怒りのままに、罵倒する。


「そんな人たちが、くーちゃんに仕えるなどと。許しは、しない」


 怒りに感応した魔力が吹き荒れる。暴力的なまでに膨れ上がった黄金の魔力が、一帯を埋め尽くすほどに。


「差別を嫌うあなた達獣人が、誰よりも差別をしているなどと皮肉ですね。それをキアラ様が望んで無い事など承知でしょうに」


 言うべきか言わざるべきか。僅かに逡巡したけど、構うもんか。どうとでもなれ。


「あなた達は言いましたね? 僕の事を『神の愛し子』だと。ええ、確かにそういう話ですね。エリカお姉様は僕の事をそう言ったらしいです。レスター兄様も僕を愛してくださっています」


 『雷牙』の面々が震えている。使徒の上位に位置する存在、まさしく神と呼ばれる者達と繋がりを持つことを今、明言された。


「この地図魔法も、レスター兄様から与えられたものですから。規格外でしょう? ねえ――」


 選んでもらおう。くーちゃんに仕えるという覚悟を。キアラ様の想いを受け継ぐ覚悟を。


「妄信でないと言えるなら。確たる信念があるのなら。あなた達の、『雷牙』の覚悟が薄っぺらい物ではないと、示してください。僕達の誰でもなく、ここの主、アルシェーラ様に」

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