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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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経験と成長

「お待たせしました。パーティー名変更の手続きが完了しました」


 受付のお姉さんが待合室にいる僕達のもとに来て、連絡をしてくれた。

 これでアルト達は『金の足跡(そくせき)』として活動することになった。目的はともかくとして、僕達と共に在りたいという願いが嬉しく思うよ。


「ありがとうございました。エルナー、アリーチェ。これからもよろしく頼むよ!」

「うん、よろしくね」

「皆よろしくね! 楽しんでいこうね!」


 楽しんで。良い言葉だね。緊迫感のある状況も、戦闘中の駆け引きも。全てを楽しめる余裕を得るには実力が要る。アリーチェもそんなことは承知しているし、決して軽い気持ちで言った訳ではないよ。


 信じているし、頼りにしているんだ。『金の足跡(そくせき)』の皆が僕達と一緒に経験を積み、一緒に成長していく。それを楽しみ、冒険者として実力を築き困難を超えた時の喜びを分かち合って楽しむ。


 楽しんでいこう、この短い言葉にはそんな意味合いを詰め込んでいるのさ。


 『金の足跡(そくせき)』の皆も、それが分かっている。だから皆笑みを浮かべてしまうんだ。信頼されるという事、それはヒトが成長に臨むための糧になる。


「さあ、今日はゆっくり体を休めよう。明日からは秘境だから、訓練は今日はもう無し。疲れを残さないようしっかりと休むのも冒険者として必要な事だよ」

「それを、エルナーが言うの?」

「ねえアリーチェ。僕良い感じにまとめられたと思うんだけど……」



  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 次の日、四パーティー全員が集まったのを確認して転移を実行する。


「おおおお! すげぇ! 本当に一瞬で移動した!」

「エルナー! これどういう魔法なの!? あとで教えてくれる!?」

「ラムダ、落ち着いて。僕の固有魔法の『地図魔法』で出来ることの一つだよ。そういえば、皆に見せるのは初めてだったね」

「固有魔法! 詳しく――」


 ラムダの顔に手が生えた。

 正しくはメローネのアイアンクローが決まっているんだよね。足が若干持ち上がっているとか、本気の悲鳴だとか、僕は何も関与しないことにした。


 僕からはあえて何も言わない。はしゃぐ気持ちは良く分かるんだけど状況を把握できなければここから先は危険かもしれない。『雷牙』も『風の道』も、静かに五人を見つめているよ。


 ジンは実にスマートだった。静かに秘境側に移動し、五人を護れる位置に立ち、警戒しつつ彼らを見守っている。

 シューゲルもまた、すぐに我に返ってジンとは反対側の警戒、それと上空の確認を行っていたよ。


 メローネはさすがジンの妹、と言っては彼女に失礼か。アルトとラムダのはしゃぎっぷりを止めるため青筋立てて二人にアイアンクローをキメていた。


「いってー……メローネ、いきなり何するんだ……」

「そうだよ、エルナーのしたことは魔法使いにとっては絶対に知りたい事なんだよ?」

「ここは、どこだと思う?」


 ただ静かに放たれたその言葉は、二人に状況を飲み込ませるのに十分な威力を持っていたようだ。

 はっとしたように周囲を見やり、ジンとシューゲルの立ち位置と視線から、自身がいかに油断していたかを悟ったようだ。


「すまん、舞い上がってた」

「ここはまだ安全だから大丈夫。これも経験だよ」

「そうだ。経験を積ませることと、心構えを改めるためのテストのようなものをさせてもらったぞ」


 想定外に遭遇した時、いかに冷静に動けるか。これは冒険者にとって必須条件ともいえる。

 特に、これから入る秘境において油断などしていたらあっという間に死んでしまう。


 地図魔法で敵対マーカーは確認できる。しかし未確認の敵に関しては自力で探るしかないため、周囲の警戒は怠ってはいけない。


「今回、アルトとラムダは警戒を怠ってしまったが、ジンとシューゲルがフォローした。それでいい。助け合い、補い合ってこそパーティーを組む意義になる」

「ボクも最初はラムダ君みたいに好奇心に走ってたからねー。自制が利かないと迷惑かけることになるから、直すように!」

「アルトも、冒険者をやっていれば自分の想定外な事は多々あるからな。そのことばかりに意識を持っていかれるなよ?」

「些細なことで全滅の危機に陥った、なんて例がぁ、残念ながらたくさんあるのよねぇ……」


「「気を付けます……ッ!」」


 僕らの中で一番ランクの高い、英雄と呼ばれるBランクパーティー『雷牙』の面々に注意やアドバイスを貰ったからか、二人は神妙な面持ちで頷き、それらの言葉を飲み込んだようだ。


「気持ちは切り替えられたみたいだね。それじゃあ、行こうか」


 二年間、魔法の訓練や剣の特訓を続けてきた。この秘境の森の住人達に後れは取るまい。

 とはいえ、解消されていない疑問もあるんだけどね。


 森の中へ一歩足を踏み入れる。


 ザアアアアアアアァァァァァ――。


 目の前に異常な光景が広がった。左手前は先ほどまで見ていた森が。右手前には一面の草原が。

 綺麗に二つに分かたれていた。


「なっ……」

「これが、秘境……?」


「エルナー、どう思う?」

「……これはたぶん、どっちを進むか選べってことだと思うよ。まあ、考えるまでもないよね」

「そうだね!」


 アリーチェもやはり同じ考えのようだ。そうだよね、森と草原だったら選ぶ方なんて一つだ。


「って、おい! 二人ともなんで森に進んでるんだよ!?」

「「え?」」

「え? じゃなくて! 草原だったら見通しもいいのになんでわざわざ困難な方に行くんだよ!?」


 まったく。アルトは分かってない。


「この秘境の本質は森だよ。この森が幻覚なのか草原が幻覚なのかは分からないけれど、ここはかつて、確かに森だった。妖精の棲まう泉を護る、守護の森。だからこそ、森を進んで会うのが彼らに対する礼儀なんだよ」

「それに、森で戦えないようだったらここ以外の秘境なんて、とても足を踏み入れることはできないよ」


 エリカお姉様が魔王だった時代において、秘境と化した自然。そうなるに足るコンセプトが確かにそこに在り、それを理解したうえで通らねば踏破したなどとは言えない。


 秘境を理解し、秘境を通して未知を求める。それが僕達の冒険の在り方でもある。


 それでも楽がしたいというのなら、残念だけどここでお別れとなるだろう。寂しいけれど無理強いはしないよ。


「まだ、どこか甘さがあったか。すまん、理解した!」


 『金の足跡(そくせき)』の皆も同意したようだ。


 森に入ると、草原だった場所は森に戻った。

 

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッッ!!!


 どうやら僕達を歓迎してくれるようだよ。いつぞやの不吉な羽音が戻った森から聞こえてくる。

 草原だった時には無かったマーカー。森に戻ってこれほど多く現れた。

 つまりこの秘境の発する幻覚は、世界そのものを欺く精度という事か。


 一つ知れた。そのことに牙を剥くよ。アルト達を見やれば緊張からか、少し力が入っている。


「アルト。これから来るのは大きい毒蜂の群れ。僕達より(・・・・)は速くない」

「――ッ! ……ふぅー……」


 深く息を吐き、上手く力を調整したようだ。それでいい。


 羽音が近くなり、その重低音が森の空気を震わせる。それはまるで、超えてこいと言われているかのようで。

 かの樹木は、僕の事を福音と呼んだ。そう期待されているのならば応えたい。


 だから。彼らの歓迎を真っ向から受け止めて示さないといけないのさッ!


「『風錬』ッ!」


 森の中での『風錬』は危険だった。速すぎるが故に事故を起こしかねないからだ。

 ならばなぜ使ったのか。


 危険だったのなら、克服すればいい。二年もあったのだ。弱点を克服するには十分すぎる!


 木々を足場とし、真正面から飛び込みすれ違い様に斬りつけるッ!

 音はない。蜂の体躯にも傷一つない。けれど彼らには致命的なダメージとなるだろう。


 翅を斬り落とした。勢いの付いた蜂はそのまま墜落し、後ろに控えていた誰かにトドメを刺されていくよ。


 僕以上に、この二年で剣というか魔技を高めたのはアリーチェだ。

 アリーチェは『風錬』など生温い、とばかりに『雷迅』によるまさに電光石火を物にした。


 飛べなくなった蜂の脅威度は大きく落ちる。それを確認したアリーチェは多くの蜂を墜としていくッ!


 ああ、成長を感じるよ。見える、動ける、対処できる!

 木の幹に着地し、一瞬姿を留めたアリーチェと視線が合うよ。


 頬を吊り上げる。僕もアリーチェも二年の成長がこうして結果を成したのだ。

お読みいただきありがとうございます!

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