登城
全ての用水路の浄化が完了した。その為、僕は一つ約束を果たす義務があった。
全てが済み次第登城せよ。実際はもっと柔らかい言い方だったけど、そこはいい。
ルドルフ陛下との会談の後、一度だけハルトギルマスさんに使いが出て、完了の見込みが一か月ほどになったら連絡するようにと伝言があった。
進捗状況から完了予定時間を割り出して連絡を返し、ほぼその予定通りに進んだために偽りなく完了してほっとしていたよ。
冒険者ギルドに入ると、ギルマスさんが待ち構えていた。
「来たか。馬車の用意は済んでる。悪いが、『黄金の誓約』だけ来てくれ」
「分かりました。行こうアリーチェ」
「うん」
馬車に乗り込み、ギルマスさんが頭を下げた。
「用水路、本当に助かった。陳情から感謝の手紙に変わって職員たちにも笑顔が増えた。最近では、用水路近辺で子どもたちの笑い声が聞こえたりするそうだ。それに、今のところ誰もゴミを投げ捨てたりはしてない為か、捨て場の管理者がゴミが増えたって騒いでいる」
「それだけ多くのごみを投げ捨てていたってことですよね」
「城壁の下、格子の所凄かったもんね……」
よく詰まらなかったな、と思うほどに積み重なっていたのだ。
聞けば、時々格子を持ち上げて処理していたのだという。思わず顔が引き攣ったのは言うまでもないだろう。
その話を聞いてからすぐ、残りの三か所を巡って格子に溜まったゴミを早急に焼き払ったよ。
城に着き、馬車から降りると城門の手前だった。ここからは歩いて行くらしい。
城門を護る門兵が声を上げ、重厚な城門が開いていく。そうして門を潜るとその先にはとても大勢の人が集まっていた。
「え、凄い人ですけどこれは?」
「聞く人がいないと意味が無いからな。一ヶ月かけて、今日ここに来る人を抽選したみたいだぜ?」
そう言って呵々と笑うギルマスさんの声が聞こえたのか、近場の人が僕達に気づいたようだ。
その瞬間だった。
見計らったかのように、視線の先にある幾分か高くなった壇上。そこにルドルフ陛下が姿を現した。
僕達を見やり、一つ頷くと隣のギルマスさんが僕達を促して歩き始める。
そうして僕達が壇上に上がると、そこには見覚えのある装備一式が並んでいた。
「『黄金の誓約』のエルナー及びアリーチェ。此度の用水路の浄化、大儀であった」
その言葉が発せられると、観衆のざわめきが一瞬にして静寂に包まれる。まるで一言一句聞き逃すまいとするかのように。
語られたのは浄化した理由だった。あの用水路の水が秘境に至っていた事、『悪食の森』の原因の一つであったこと、それを知った僕達が使命によって浄化した事。それとは別にあの状態だと病気が蔓延し危険だったこと。
それらを聞かせるように語っていく。
「よって、我は二人を我が国、『ラーナスタ』の最上国民に指名する」
最上国民。それはかつて『ラーナスタ』建国時に初代国王と共に切り開いた英雄たちに与えられた。
それ以来誰も付いたことのない国民階級で。
「だが」
まさか陛下は、僕達を国に縛る考えに変わったのだろうかと疑問を感じたところで流れが変わった。
「我はこのエルナーの直の言葉に感銘を受けた。誰も果たしたことのない秘境の踏破こそ、自らの冒険の在り方なのだと。そう言ってのけた」
こんな場で暴露された僕の気持ちを鑑みてほしい。幸い聴衆に背を向けて跪いている状態なので顔を見られる事は無いけれど、とても居た堪れない。
「よって我は『黄金の誓約』を国に封じ込めようなどとは思わぬことにした。それに彼らには、我ら王家の悲願であった、忠義篤き第三騎兵隊『ゴルプレッジ』の遺品を回収し、我々の許へと還してくれた恩がある。我が騎士たちも皆、『ゴルプレッジ』に憧れた者ばかり。そんな恩人を縛る事など、厚顔無恥な王になどなるつもりはない」
騎士たちが話の途中拳を胸に添える最敬礼を一斉に行った。陛下の話を遮る形になってはいたけど、満足そうに陛下が頷いていたので不問とされたようだ。
「皆には見えぬだろうが、今ここに『ゴルプレッジ』の遺品たる装備が並んでおる。その傷一つ一つが、我には愛おしく思う。その彼らの名を踏襲した二人に対し、我は後援することをここに宣言しよう」
歓声が、湧いた。ビリビリとした振動が僕達を纏い、言い知れぬ高揚が身を包んだ。
陛下が腕をすっと上げると歓声は徐々に収まり、それを確認した陛下が続く。
「そこでだ。我が彼らに対する援助として、まずは法整備から行う。集まった者の顔を見れば心配は無かろうが、今後一切、用水路への投棄を禁ずる法を発足する。これに違反する者は、秘境に害意を持ち我が国を貶める事と同意である」
これで今後投棄されることは無いだろう。軽い気持ちで棄てればそれは重罪だという事になった。
「『黄金の誓約』よ、今後の活躍楽しみにしている。世界を存分に周って参れ」
「「はっ! 寛大な配慮幸甚に存じます!」」
締めの言葉はギルマスさんに教えてもらった。とりあえずこう言っとけ、みたいな軽い感じで。
けれど、本当にありがたい話だった。憂いはほぼ消えたと言ってもいい。
「それで二人とも。これは我個人の頼みなのだが、南の村が襲撃された際、二人はそれは美しい剣の舞を舞ったそうだな。それを見て見たいのだがよいか?」
思わずアリーチェと目を合わせる。良いも悪いも、陛下に言われたら断れない。
「えっと、陛下の安全を確保していただけるのならば……」
「もちろんだ。我は下がるし信頼のおける騎士たちもおる。ハルトもな」
小声でのやり取りだ。言うなり陛下はさっさと奥へ下がってしまう。
かなりアドリブが利いているけれど、まあいつもの訓練に『炎舞』を加えたようなものだろう。
アリーチェと共に苦笑いを浮かべ、だいぶ広いこの舞台にて炎の魔力を練り上げる。
騎士たちもこの流れを聞いていたのだろう、興味深げに観覧している。陛下の始めよ、の言葉で僕達はいったん距離を取って剣を抜くッ!
「「『炎舞』」」
炎を宿した鋼が動きの軌跡を残して舞台に踊る。
長いサイドテールが動きに合わせて上下し、炎の光に照らされて艶やかに輝く。
陛下は舞を、と仰った。だから僕達は円を基軸に魅せる動きで踊るよ。
水平に剣を上下で交わせ、回転し正面に互いを捉え同時に突きを放つ。当然あてないし熱量も控えめ、けれど観衆は騒めき興が乗る!
「『火精』」
火炎の蝶をいくつも飛ばす。安全のために一定範囲で、それでいて爆発の効果は消してある。
これで暗ければ舞台としては完璧だけど。現状でも十分見栄えはするだろう。
時折剣を交わせて高い金属音を響かせる。僕達の足音、剣が空を切る音、そして剣戟の歌。
タナカさんとアリーチェが一緒に作ってくれた黒いハーフマントを靡かせて、駆けて回って炎の軌跡を描いて踊るッ!
演目はなんだろうか。金髪の魔王と黒髪の勇者たるお姫様の炎舞? であるなら僕はこのあと倒れ伏すのがお決まりだろうかね。
まあ。そんな事はしないよ。この世界の魔王とは世界を愛する、ちょっと強いだけの優しい女性が始まりだ。討伐なんてされてない。
だから。『炎舞』を解いてアリーチェとすれ違い、お互いに背を預けて剣を収める。
僕のハーフコートとアリーチェの長い黒髪が、ふわりと舞う勢いで振り返って笑みを交換したよ。
「エルナー。あの夜の再現なら、あの人達にも捧げよう?」
「そうだね、そうしようか」
視線の先には見覚えのある装備。尊敬する『ゴルプレッジ』の遺品。
黄金の魔力を練り上げる。そうしてその魔力を薄く、広く伸ばしていく。
それら魔力を起点とし、彼らに届けと想いを乗せて紡ぐ。
「『神々の寵愛の焔』」
城と門を繋ぐ広場が黄金に染まる。
それを見た騎士たちが、最敬礼を遺品に捧げていたよ。
ご覧ください。貴方たちの後輩騎士たちは、世代を超えて貴方たちを尊敬していますよ。
黄金の世界が消える頃、騎士の多くは涙していた。きっと、憧れの存在に触れたんだろう。
僕が大好きな優しい神様たちを模した魔法は、そういう優しさに溢れていると信じているからね。
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