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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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二年間

 それからの二年間は怒涛の如く、という表現が相応しいかと思う。

 まず東の街道近くの森に出向いた討伐隊には、『風の道』の全員が出向いた。

 ラーシャーさんが大剣を扱う為に森での行動は制限がかかり、今回は冒険者ギルドの待機役を依頼された。


 僕達『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』は、僕が倒れた翌日の為見送り。というかアリーチェに絶対駄目だと言われていたので仕方がない。


 その点、『風の道』ならば小回りは利くし、なによりも二人が現状の森の様子を多少は把握しているし、集落と思われる位置も知っている。

 案内役、戦力共に揃った討伐隊は揚々と出立し、日が暮れる頃にボロボロになって帰ってきた。


「いや、ゴブリンロードがいるとは思ってなかったんだよ……」


 とは『風の道』のリーダーが家でぼやいた言葉だ。お疲れ様です。


 運ばれてきたゴブリンロードは、二メートルほどもありがっしりとした筋肉の鎧が盛り上がっていた。

 その亡骸に刻まれた無数の傷跡が、その戦闘の激しさを物語っているようだった。

 止めとなったのは恐らく、右目に深く突き刺さった矢が脳を壊したのだろうと予想したよ。


「出立前に、魔王様から享楽鳥(ワンダーバード)が居ないかの確認をしていただけたのも大きかったです。上空に気を配りながらだと、恐らくこちらの被害も相当に大きかったかと」

「おおよその数を出してくれたのも助かったな。先が見える討伐は安心感が大きかった」


 そんな形でしか貢献できなかったけれど、討伐隊の為になったのならば何よりだ。


 アルト達五人は別宅に住まうことになった。とはいえ、メローネはよくアリーチェの部屋に泊まりに来ていたけれどね。

 そんな彼らは僕達と用水路の浄化作業をしてくれるそうで、アリーチェが嬉々として彼らに身体強化を教え込んでいたのが記憶に新しい。

 ギュッとして、ふわっと包んで、ガーって今聞いてもまるで分からない。なのに、


「こうだね!」

「メローネ凄い! できてる!」


 なんで? そんなことを思ったのは僕だけじゃないらしく、男性陣は仲良く疑問符を浮かべていたよ。


 そうそう、彼らが初めて家に来た時にレイス達を見てびっくりし、彼らの境遇と優しさに触れて涙した。

 そしてガードさんを見てびっくりし、生前のその生き様と覚悟を知ったアルトとジンが尊敬し、三人が拳を軽く打ち合わせていた。青春だね!


 そして最後。お辞儀をして顔を上げたタナカさんを皆がチラリと見やり、次に驚愕の様相で二度見をしていた。その様子に僕とアリーチェは大いに笑ったよ。

 タナカさんがお道化た様子で挨拶をし、バウ茶を給仕し終えた後に触れた彼女の人柄がそうさせたのか、メローネが一瞬で懐いた。

 その様子をジンは優し気に見つめ、シューゲルとラムダに質問攻めをされた僕は、タナカさんのその在り方を、気配りの妙を、そして誰よりも優しいその心根を説いた。


「魔王様、その、そろそろ勘弁してください。さもなければ、嬉しさのあまり暴走しますからね?」

「あはは、それならそれでいいですね。タナカさんがそうしてくれているから、僕達はみんな笑顔でいられるんですよ」

「タナカさん、貴女には尊敬と感謝を。妹共々、どうぞよろしくお願いしますね」

「えっと、あれ? ねぇガード、助けてくれませんか?」

「タナカは良い奴で凄ぇ奴だからな。仕方ないってもんだ」


 ピシリ、と固まるタナカさんが、アリーチェとメローネに、助けを求めるように見つめると、


「うん! タナカさんはとっても凄くて、とっても可愛い人なんだよ!」

「そうですね! タナカさんの事は少ししか分からないですけど、それでも尊敬できる人って凄い事ですよ!」

「私を辱めて楽しいですか!? 楽しそうですね! 人体模型じゃなかったら私、今頃顔真っ赤ですからね! だらしなく、ニヤけてますからねぇ!? そんな無様を見たいんですかあああ!?」


 アリーチェとメローネが見合い、僕に視線を送ってくるので一つ頷く。


「「「可愛いと思うよ?」」」

「にゃああああああああぁぁぁぁぁ……」


 人は見た目じゃないって言うけれど、そのいい例だと思うんだよね。

 そんなことを、頽れたタナカさんを見つめながら考えていたよ。


 こうして、この家の一員として暮らすことになった五人だけど、彼らにとってはとても恵まれた環境のようで。

 『雷牙』や『風の道』といったベテラン達と共に過ごせることを凄く喜んでくれていたよ。

 時間があれば五人が望めば訓練し、特に層が厚い弓術士のシューゲルは彼らの技巧を間近で見て興奮していた。


 五人以上に嬉しそうだったのはカッシュさんだ。初めて同じ盾を扱う、それも後輩だという。そしてジンはカッシュさんを知っており、二つ名である『移動要塞』の逸話だけで技巧を磨いてきたのだと聞いて、継承するのはジンしかいない! と意気込んでいた。


 ジンも嬉しそうに師匠(せんせい)と呼んでいたので、彼もしばらくすれば化けることだろう。


 アルト、メローネはアリーチェと同じメニューを(こな)すと言うけれど、そう簡単ではない。

 ただの素振りにしても、二人はアリーチェからダメ出しを受け続けている。それでもめげずに続けているので感心していると、アルトとメローネが呆れたように僕に言うのだ。


「あのな、魔法が主体のエルナーが俺たち以上にやれるんだ。挫けるわけにはいかないだろう」

「そうだよー。どうして同じ年齢なのにこうも差があるんだろう?」

「ボクとアリーチェは父さんに五歳の時から剣を教わってるからね。その分やれることが多いんだよ」


 七年間の積み重ね。それが今の僕とアリーチェの技巧のすべてだ。

 ならば七年間を費やさないと追いつけないのか。いいや、違う。この技巧を伝え吸収してくれるのなら、基本を共にすれば時間などいくらでも短縮できるのさ。

 基本こそ技巧の根底なんだ。それを伝えることで、彼らの意識は明確に変わったよ。


 剣の訓練ではガードさんも交じっていた。この家を護るという使命を自らに課し、そのために学んでくれているんだ。

 そしてそれは、何もガードさんに限った話じゃなくこの家にいるレイスの子達も同じことが言える。


 僕とクゥナリアさん、そしてラムダの三人で魔法の訓練をしていると、子ども達がやってきて教えを乞うてきたのだ。嬉しくなったよ。彼らもこの家を大事に思ってくれていると、そう知れたから。


 レイスは魔力体だ。ならばと同じ魔力体であるくーちゃんが立候補し、彼らに魔法を教えてくれた。くーちゃんが先生ならば、彼らもすぐに一人前の魔法使いになれることだろう。


 ラムダ。彼は始めこそ呆然としていたよ。わかる、わかるよ。あの難解な魔力的エントロピーが、実は『場を作る』という言葉で収束されてしまうなんて思っても見なかっただろう。

 物事は多角的に見ることで、その真価を知る。それを知れる一例だった。


「エルナー。いや、魔王様。僕を弟子にしてください」

「嫌です。友達でいてください」

「あははははは! ボクもラムダ君の気持ちは分かるよー。でもね、友達だからこそ気兼ねなく教えてくれると考えたほうが楽だよー?」


 こうして僕は見事に弟子を取るイベントを回避したんだ。


 そして肝心の用水路の浄化だけど。享楽鳥(ワンダーバード)戦を思い返して思いついた方法があったんだ。

 体調を戻して行った時、倒れたことを心配してくれた皆さんに謝り、思いついたことを実行したんだけど、結果を言えば大成功だったよ。


 その方法は、地図魔法による転送だ。入り口が浄化済みの用水路で出口はそこから十メートルほど上空。進行方向と同じ向きに設定している。なぜ先の方に出口を設定しないのかとも思うかもしれない。けど少し考えてほしい。

 既に水が流れている所に更に水を追加してしまったら、溢れると思うんだ。それを回避するためにと考えて上空にした。

 落水時に飛び散るだろう。だから風で押さえつけている。特に下方は注力しているよ。

 水流の勢いが強いのが幸いして以外と距離を稼げるし、何よりも疲れない!

 だから僕もヘドロ集めに参加できる。肉体労働で体を鍛えられ、上方から弧を描いて落ちてくる水が飛び散らないように風を制御。訓練が出来て作業が進むので、なんだか楽しくなった。


 しかしながら僕はいいけれど、ヘドロ集めは本当に大変で……。今度は集める側が疲労困憊になってしまった。

 ただ、処理速度は倍以上になった為に皆の表情は明るい。


 そうして、余裕をもって浄化作業を終えることが出来たのだ。約束の二年。


 間に合いましたよ。お待たせして申し訳ありません。

 けれどこれで、胸を張って会いに行けます。ああ、楽しみだ!

お読みいただきありがとうございます!

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