享楽鳥
享楽鳥と思われる鳴き声に反応し、即座に上空を睨みつける。
けれどその姿を確認することはできず、一瞬呆けてしまう。
「――ッ!」
ビュオオオオオオオオッッ!
咄嗟に強風で五人を無理矢理押し退け、反対側に飛びのくッ!
ズザザザザッッッ!!!
「ッ!? チィッ!」
一瞬の後、地面が切り刻まれて抉られる! 想像していたよりもよほどに危険な威力に思わず舌打ちをしてしまう。
吹き飛ばされた五人は状況が読めずにただただ呆然としている、あのままだと的になってしまう!
「全員退避! 森から離れてッ!」
『神経喰らい』を使い、咄嗟に強風を放った影響か。どうにも頭が痛む。
けれども、姿を見せない相手に立ち止まるなどという愚は冒せない! 無理矢理にでも足を動かしてどうにか森から離れたところで、とうとう縺れてしまった。
「うあ!? ……痛っ」
「エルナー大丈夫!?」
「大丈夫、ただ、ごめん。魔法は使えないかもしれない」
ズキズキと痛みが増すなか、体を起こして答えるよ。もちろん油断なく森の上空を睨みつけながら。
僕達が離れたためか、ようやくその姿を目にすることに成功した。
白い羽毛に覆われたそのシルエットは首の長いカラスと言ったところだろうか。
享楽鳥が空を飛び、ちょうど雲と重なる位置に移動したところで理解する。
輪郭が見えづらい。白い雲の保護色となるその羽毛は、一定の高さまで飛ばれると認識しづらくなってしまっていた。
「厄介だね。飛ばれているとこちらからはどうしようもない。弓で射れる?」
「無理だな、遠すぎる。それに、ああも輪郭を掴みづらいと狙いもつけられん」
参った、打つ手がない。このままじゃ一方的に攻撃されるだけだ……ッ!
『ケケケケケケッッ!!』
不可視の刃が放たれる! 全員が咄嗟に大きく飛び退いて何とか無事だった、けれど。
足元が抉られていた。行動を予測している?
「小人の国ではどう対処しているかわかりますか!?」
「すまん! 魔法で対処しているって事しか分からん!」
「ラムダ、いける!?」
「む、むり! あんなところまで届かないよ!」
『『ケケケケケッッ!!』』
んん!? 今二重に聞こえなかった? っておおおお!?
強風で動きが制限されて……やばいッ!
「風下に跳べええええッッ!!」
ズガガガガガガッッ!!
少し前まで立っていた地面が抉られるッ!
このままじゃジリ貧でやられてしまう。成功率は怪しいけれど賭けに出る……?
幸いにして、僕の地図魔法は固有魔法として扱える。固有魔法とは魂に根付き、扱うのにコストがかからない。多少のエネルギーは必要だけど、それは手足を動かすのと同じだ。
享楽鳥を視認するよ。マーカーに示して確認すればほとんど移動していない。
であるならば。
「ラムダ! 水球、なるべく大きいのを生成して! ジンはラムダを護って!」
「えっ!? わ、わかったよ!」
「了解しましたッ!」
アクションを起こしたラムダ目掛けて不可視の刃が降りかかるも、頼もしいジンという盾が全てを防ぎきっている!
享楽鳥のマーカーは二つ。その片方の上方に転移の座標を設定する。
「エルナー! 準備できたよ! どうするの!?」
「五秒数えてそのまま落として! アリーチェ!!」
「ッ!?」
――信じる。信じて。
「エルナー!?」
口の動きだけ、声に出すより早く僕は駆けていたからね。
これは賭けだ。魔法が使えず、体も徐々に動きが鈍くなっている。頭痛もひどい。
だからこそ、僕が身を挺して勝機をもぎ取るんだよ……。もう片方の真下へとまっすぐ駆ける。
五秒。ラムダの水球が地面に落ち、吸い込まれていく。そうしてそれは転移座標を通って享楽鳥の片割れに降り注ぐのさッ!
『ケケッ!?』
水球に包まれて享楽鳥が墜落していくよ。そのまま地面へ叩きつけられ……衝撃は水球を伝いその身を激しく打ち貫いたことだろう。
マーカーは消えてはいないが、これは想定内だ。ベテランならば、きっと念のために止めを刺してくれるだろう。
問題は僕の方だ。もう片割れが逃げてしまうならば失敗に他ならない。
享楽鳥は思っていた以上に危険だから、ここで駆除しないといけない。
さあ、怒ってくれ。そうして僕に襲い掛かってくれるならば――。
『ケケケケケケッッッ!!!』
ああ、確かに怒りを感じるよ。
番か、仲間か。どちらかは分からないけれど大切だったのだけは理解できる。
わかるよ、僕だってアリーチェが痛めつけられたらどうにかなってしまうだろう。
分かるからこそ利用させてもらうよ。恨んでくれていい。それでもこれは僕達の生存のためなんだよ。
足がもつれて倒れる演技をする。狙い通り、享楽鳥は急速に降下してくる!
仰向けになり、迫ってくる享楽鳥を見やってタイミングを計るよ。
ニヤリと牙を剥く。ヒトの表情は分かるかい? 僕には君の驚愕がよく分かるよ。
僕は十メートルほど転移したのさ。目測が途端にずれるなど思いもよらないだろうさ。
享楽鳥、君の誤算はそれだけじゃないんだよ? ほら、気をつけろ。
黒い風はさらに加速して、雷と化すのだから。
「『雷迅』」
無音の斬撃。音を忘れたその必殺はその長い首を落としている。永遠にそのことに気づけはしないだろうさ。
「お見事」
「もう、無茶しすぎ!」
あはは、怒られちゃったね。
「享楽鳥は他に居ない……はぁー、終わったー」
くーちゃんが僕に覆いかぶさってくる。温かい……ふわふわ……って駄目だ駄目だ。
「魔王様っ!? いったい何が……ッ! これは、享楽鳥ですかッ!?」
弓術士の女性が戻ってくるなりこの状況に戸惑っている。
応答したいけど、頭が割れそうなんですよー。
「エルナーがまた無茶して倒れたの。家で休ませたいから、一度戻ろう?」
面目次第もありません……。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
「魔王様、また倒れたんですか? 懲りないですねー。はっ!? まさかそういう趣味なんですか!?」
ベッドで休むなりタナカさんに弄られています。助けてガードさん。
「倒れ属性ってなんですかね? どう受け入れたらいいのです? あ、バウ茶飲みますか?」
「いただきます……。ごめんね、タナカさん……。ノッてあげたいけど、今は辛くて。ごめんね……」
「え、なんですかこの可愛い生き物」
温かいバウ茶が体に染み入るようだ。
子どもたちのレイスが次々とやってきては僕を励ましてくれる。彼らと話していると頭痛を少し忘れることが出来るからとてもありがたい。
「エルナー、ただいま」
「おかえり、アリーチェ。どうだった?」
「至急討伐隊を組織して、ゴブリンの集落を落とすみたい。実行は明日だって。享楽鳥については後日改めて話し合うとして、とりあえずよくやったってハルトギルマスさんから伝言だよ」
「そっか。わかった。それとアルト達はどうするって?」
「メローネの希望で、ここに来たいって。いいかな?」
階下からにぎやかな声が聞こえてくる。もう来てるんじゃないかな?
「えっと、エルナーならいいよって言うと思うから……駄目だった?」
「あはは、いいよ。大歓迎だよ」
「ありがとう! 伝えて来るね! あ、エルナーは絶対安静だからね?」
「……はい」
挨拶に行こうとしたのを察知されたのだろうか。それとも日頃の行いだろうか?
……どっちもかな。
ともあれ、この家も賑やかになってきた。
今日の事はきちんと反省しないといけないね。常時依頼だからと甘く見ていたからこんな状態になったんだし。
……いや、常時依頼の範疇から外れてるよね。明日討伐隊が出る事態になってるし、滅多に来ないらしい享楽鳥が二匹も出てきたし。
ああ、考えると駄目だね。色々巡ってしまう。
バウ茶を飲み干して、一眠りして体調を戻さないとね――。
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