五人の新人
『風錬』に僅かに火を宿し、魔技を流れるように変更していく。
手に取ったグラディウスはバチリ、と唸りその牙を剥くよ。
魔技版『雷蛇』。そいつを組み立てて手前のゴブリンに叩き込むッ!
「『神経喰らい』ッ!」
バリイイイイィィィッッ!!
「グギャアアアアア!? ……グギ……ッ!?」
『神経喰らい』を叩きこまれたゴブリンは痙攣を起こして動きが止まる。
全身の神経を焼かれ、喰われてしまうのだ。当然ながら心臓にも影響が出るだろう。
こいつの恐ろしい所は。伝染するのさ、この神経を喰らう蛇は。
ただし、それには今のように密集している、あるいは密接している必要がある。
魔力を伝うという性質を持たせることで、空気中では容易に霧散してしまうのだ。
だがしかし、『神経喰らい』が見事にハマればこれほどに驚異的な集団制圧が出来てしまう。
目の前には生命活動を瞬時に終わらされたゴブリン達の死骸。奥の方に行くほど生きてるのは多いが、それも仕方ない。
どうしても減衰してしまう。こればかりはどうしようもないけれど、それでも現状では十分すぎるさ。
動きが鈍っている奥のゴブリンを始末しようと、私怨多めに向かおうとしたところ、アリーチェが何やら動いていた。
『炎舞』を纏い、構えを取って振りかぶる……え?
ここは普通の森だ。炎上したらかなり拙い。
慌てて止めようとするより早く、アリーチェは振り下ろしてしまった!
「はああああああッ!!」
ゴオオオオオオオオゥッッ!!
やっちゃったと思うも、どうにも様子がおかしい。
ゴブリンの死骸や、奥のゴブリンは焼かれていく。けれど森の木々は無事という訳の分からない状況に、僕の頭上にはきっと疑問符が大量に浮かんでいることだろう。
「やった! 上手くいったねくーちゃん!」
『ですのー!』
首を傾げていると、機嫌良さげにくーちゃんを頭に乗せたアリーチェが駆け寄ってくる。
「エルナーを真似してみた!」
「え、僕の真似?」
どういう事?
『私がゴブリン以外を保護して、アリーチェが焼き払ったですの。エルナーの『雷蛇』や用水路の浄化の時の私の魔法から、着想を得たみたいですの!』
「おお! 凄いよアリーチェ!」
アリーチェは本当に天才だと思う。着想を得たからと言って易々と出来ることではない。
一人ではできなくとも、それを可能とする誰かの助力を受け入れられる。願い出ることが出来る。
これだって、必要な能力だと思い知らされるね。
「す、すげぇ……」
周りを一時的に一掃したため、若干の猶予が生まれた。その時に聞きなれない声がしたためそちらを見やる。
生存者の一人が呆然と僕達を見つめて、思わずと言った感じで呟いていた。
「これが、『黄金の誓約』……。同じ新人だからって思い上がってたけど、間違ってたな……」
「そうだね……。死ぬ、ところだった」
見たところ、僕達と同じ年代だろう。男性四人の中に女性一人の紅一点。未だ少年少女と呼べる彼らは、どうやら慢心からここまで深く森に入り込んだらしい。
「たまたまです。ただ、今度は間に合ってよかった」
「そうだね……。間に合ってよかったよ」
「「「「「今度は?」」」」」
簡単に説明をしたよ。二年もの間気づかれず、間に合わず死んでしまった子達がいたことを。
それを聞いた五人は悲しそうに口を噤み、涙を浮かべていた。
彼らは善良だろう、短い間だけどそう思える。それ程に彼らは純粋だった。
「あの、私たちは東の村で知り合ってパーティーを組み、この森に入ったのですが、ここがどの辺りか分かりますか?」
「王都からの街道から入ったから、たぶん王都寄りかな?」
少女の問いにアリーチェが答えると、動揺したのか彼らが騒めいた。
「俺たち、随分深く入っちまっていたんだな……」
「反省は後にしましょう。今は直ぐにここを発つべきです」
その通りだね。ここは未だ敵地だ。現に地図魔法では、まだ九十近いゴブリンが残っているし徐々にこちらへ寄ってきている。
こういうとき、ベテランの冷静さって言うのはありがたいし、見習うべき点だと思う。
戻りは疲労がたまっている五人がいるため、慎重に進んでいく。
相変わらず『風の道』の二人は正確な射撃で近寄らせない。
進路上どうしても躱せない魔物に対しては僕とアリーチェが対応し、安全確保に努めていったよ。
「外だ……」
「よかったぁ……」
無事街道に出ることが出来て安心したのだろう。疲労も手伝って彼らは座り込んでしまった。
事情を連絡してきます、と女性の方が駆けて行ったため、僕達は周囲を警戒しつつ彼らと話をする。
「では、東の村にはギルドの支部があるんですか?」
「ああ。南には無いのか?」
「ないですね。秘境が近い分あってもおかしくないんですけど、なぜでしょうね?」
普通なら脅威になる場所が近い所にそういった組織が無いと拙いんじゃないだろうか。
「なあ、歳もそんなに違わなそうだし、それに何より二人は俺たちの命の恩人だ。砕けた口調に出来ないか? その、落ち着かなくてさ」
そんなことを考えていたら、気まずそうに言われてしまったよ。
「そうですね、いや、そうだね。そうしようか」
ほっとしたように笑い、自己紹介が始まった。
「俺はアルト。剣士を目指してる」
「僕はシューゲル。弓が得意だよ」
「僕はラムダって言います。水と土の適性があるので魔法使いとして勉強中です」
「私はジンと言います。妹に請われて冒険者になりました。盾で皆を守る役割を担っていますよ」
「私はメローネです。私も剣士を目指してます。兄と村を出てきました」
随分とバランスがいいように思う。特にジンさんは体格がとても恵まれているので彼らの信頼は大きいのではないだろうか。
「僕はエルナーです。魔法が主体で剣も自衛手段として嗜んでいます。こちらのアリーチェと幼馴染で、恋人です」
「アリーチェです! エルナーのこ、恋人です! 剣士として日々努力してるから、メローネさんとは特に仲良くしたいな!」
「アリーチェさんの剣、とても綺麗でした! ぜひ仲良くしてください!」
凄い、一瞬で仲良くなった?僕に突き刺さる視線をどうにかしてほしいんだけど。
「恩人、相手は恩人。嫉妬、よくない……」
「魔力的エントロピーを増加させるためには……ああ、雑念が……」
「二人とも……。ごめんなさいエルナー」
「私たちは皆恋人がいませんからね。羨ましいのでしょう」
申し訳なさそうに謝るシューゲルと、にこにこと他人事のように言い切ったジンに思わず苦笑いが浮かんだ。
「いえ、アリーチェを護る為にも初めに言っておいた方がいいかと思いましたので」
「エルナーさんは、アリーチェさんの事が本当に大切なんですね。妹とも仲良くしていただいてますし、私としては好ましいのですが」
「ええ。アリーチェの事は大好きですよ」
笑顔で言い切る僕。絶望に伏した二人。ここに格差が生じていた。
「クククッ! お前ら、あんな状況だったのにずいぶん元気じゃないか。若いってのは良いな」
「あはは……。そういえば皆はいくつなの? 僕とアリーチェは十二歳になったばかりだけど」
「「「十二歳ッ!?」」」
「おや、妹と同じですね。私たちはメローネ以外みな十五歳ですよ」
同性で、同じ年齢の友達という事で、アリーチェとメローネがさらに盛り上がっていた。
確かに同年代の友達って居なかったもんね、それは嬉しいだろう。
「皆成人していたんだね、おめでとうございます」
この世界線に置いて、成人となる十五歳は祝われる。
かつて自然の脅威に脅かされていた時代、子孫を残すためにも成人者は望まれていたが故の風習だそうだ。
「ありがとう。ああ、それにしても君たちは本当に強かった。歳ばかりが上で、つい憧れてしまったよ」
「僕達は少しばかり特殊ですので……。そうだ、王都に行ったら是非カッシュさんを紹介します――」
――ケケケケケケッッ!!
全てを言い切る前に。その不吉な笑い声が僕とアリーチェ、そして『風の道』弓術士の男性を臨戦態勢に突き動かしたよ。
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