武具店
串焼きでお腹を満たして散策を再開すると、武装した人が店に入っていくのが見えた。
なんとなしにその店を見やるとそこは武具店のようだ。
僕の剣は父さんの予備の剣を貰ったものだった。けれど『悪食の森』で骨の化け物と戦った際に酷い刃毀れをさせてしまった。
今は数打ちの剣を使っている。魔法が主体とはいえ、近接も行う為一度見ておくのもいいかもしれない。
「アリーチェ、そこの武具店に寄っていかない?」
「武具店? ここにあったんだね。うん、寄っていこう」
店に入ると店主らしき人と武装した人、二人の視線を受ける。
僕が帯剣している剣に目を向け、鼻で笑われた。まぁ、数打ちだもんね。
次にアリーチェの剣に目を向け、今度は驚いたように目を見開いていたよ。
アリーチェの剣も父さんが譲ってくれたものだ。ちなみに家にはあと四本もあったりする。
店内はカテゴリー別に分けられており、随分と探しやすい作りになっている。
剣のエリアに立ち寄り品定めをするよ。ただまぁ、僕に剣の良し悪しはまだよくわからないから、魔法を使わせてもらう。
(『マテリアル・サーチ』)
土の場を作り、金属組織を調べる。結合の度合いなんかを見て、父さんの剣を見本に確認していくよ。
今見ているのは所謂捨て値の剣だ。新人が主に買っていくものなんだけど、僕が持っている数打ちの剣よりよほど質が良かった。
「すごい。ここにある剣、みんな僕のこの剣より上等だよ」
「歪みもないし、刃も整ってるのにどうしてこんなに安いんだろうね?」
「そりゃあ、無名の職人が練習で鍛えた物だからだよ」
声の方を向くと店主さんが口を開く。
「練習作とはいえ、新人の冒険者や傭兵にとっては生命線だ。数打ちも使えなくはないが、鍛えてあると無いではまるで違う。少年も剣を使うなら多少高くても鍛えてあるのを買うべきだ」
「そうですね、本当にそう思います。簡単に歪んでしまうので心許無かったんですよ」
巨大ムカデに『岩杭』を使っただけで少し歪んでしまったからね……。怖くてなかなか使えなかったんだ。
「そこに置いてあるもので目利きを鍛える意図もある。一本だけその中でもまともなのが混じってる」
「これですね」
「なっ!?」
鋼の結合にムラが無い。強度だけで言えば文句なしだろう。
「幅が広い。厚みがあって刃渡りは短め。普通の剣とは少し違うね?」
「たぶん、分類的にはグラディウスになるんじゃないかな?」
「ほう、よくわかったな? 数打ちを帯剣してるから素人かと思ったが」
「素人ですよ。僕は魔法が主体ですし」
よく分かっていない顔をしている。魔法使いが帯剣する訳ないだろう、といった感じだろうか。
両親の教育方針で剣もある程度は仕込まれているけど、本職には敵わないよ。
「これ、売っていただいてもいいですか?」
「あ、ああ。魔法使いなのに剣を持つのか?」
「ええ。護身程度には嗜んでます」
「そうか。一応店の裏手で試しに振れるが、どうする?」
「是非!」
ということで裏手に回る。武装した人も付いてきたけど、まぁ魔法使いが本当に扱えるのか気になるんだろうね。
店の裏手はちょっとした広場になっていて、中央には木人があったよ。
「ここだ。あの木人は斬ってもいいぞ」
「分かりました。では少し振らせていただきますね」
普段の素振りから行う。まずはゆっくりと刃筋を意識して丁寧に振り下ろす。
重心は良い感じだ。腕の負担も慣れはあるけど僕には合ってると思う。
徐々に速度を上げ、仮想敵を描いて剣舞を踊る。うん、遠心力が乗ってとてもいい。
身体強化を使えば止めるのも苦にはならないだろう。これは良い買い物かもしれない。
木人目掛けて駆ける。芯を見据えて横から一気に振り抜くッ!
ザシュウウウウウッッ!!
半ばから跳ね上がり木人が地面へと落ちる。凡そ想像通りに動けたので満足だ。
振り返るとアリーチェは満面の笑みではしゃいでいたよ。
「すごいすごい! 動きが前よりずっと良くなってるよ!」
「なんだか僕に合ってるみたい。これは良い買い物だね」
「そうだね! ねぇねぇ、私も振ってもいいですか!?」
「あ、ああ。構わんが……」
やったー、と言って僕からグラディウスを奪っていく。僕と同じように軽く素振りをして感覚を掴み、木人目掛けて駆ける。
コンッ、と軽い音がした。立っている木人はさらに短くなっている。
数秒の後、落ちてきた木人の断面は非常に滑らかだった。
「凄いなぁ、さすがアリーチェだね。僕とは比べ物にもならないや」
「もうちょっと薄かったら音は小さくできたと思う! 私もまだまだだよ!」
アリーチェは一体何を目指しているんだろう。最強の剣豪とかだろうか。
「……君ら、何者だ? 少年の方は魔法使いにしてはベテラン並みの技術だし、そっちの女の子はもはや達人の域に達しかけている」
「えーっと。僕の父、レックスに剣を教わりました。彼女は父の弟子として七年間研鑽していましたからね」
「『鉄鬼』かッ!」
おお、びっくりした。武装した人が興奮気味に父さんの二つ名を叫んだ。
「そうか、どこかで見た剣だと思えば『鉄鬼』のだったか! あいつめ、素晴らしい後継が出来たみたいだな!」
「父さんと知り合いですか?」
「ああ。昔傭兵と冒険者とでチームを組んで洞人の国までな。剣に生きる者同士意気投合したんだよ」
洞人の国! たしか『ティータラース』だったかな? 行ってみたい国の一つだ!
「その頃から、レックスさんって強かったんですか?」
あ、それは気になる。
「あぁ、強かった。洞人達にも『鉄鬼』のファンは多くいるんだぜ。なにせ、あの国で二つ名が付いたからな」
「「そうなの!?」」
もっと行きたくなったよ。父さんのファンたちに当時の事を聞いてみたい。
ああ、楽しみだよ。今じゃ化け物じみた強さの父さんが何をして『鉄鬼』と呼ばれるようになったのか。それを現地の、それも当事者たちに訊けたなら。きっと熱い物語を聞かせてくれることだろう。
だから。何があったのかは訊かないでおいたよ。
「当時を知る、現地の人に訊いたら楽しそうです……!」
「クククッ! それはいいな! もし、君たちが洞人の国に行く予定が付いたなら傭兵ギルドに声をかけてくれ。当時のメンバー集めて道案内してやるよ!」
「そうですか! 楽しみです、その時はよろしくお願いしますね!」
「よろしくお願いします!」
素晴らしい出会いに高揚しつつ、グラディウスを購入して腰に佩く。
数打ちの剣は用途を思いついたのでそのまま持ち帰ることにしたよ。
ちなみにこのグラディウスは銀貨五枚の所を、二枚で売ると店主さんが言ってくれた。けれどそれは断らせてもらったよ。
練習とはいえ実用に足る物だし、何よりも職人さんへの支援の意味もある。
僅かでも彼らの為になるならば惜しむ事はしたくない。
まぁ。莫大なお金を持っている安心感も多分にあるのだけれども。
外に出ると意外と時間が経っており、いい気分のまま帰宅の途についた。
そうして帰るなり、夕食までの時間を費やして金庫前で作業をすることに。
そう、ダイヤルを壊してしまった為、手前の錠を開けたら簡単に金庫に入れてしまう。だからまずはダイヤル部分を魔法で熱して溶かし、塞がったら冷やす。これで穴から中を覗くことを防ぐ。
次に数打ちの剣を熱し、金庫の隙間に流し込んでいく。
『炎舞』の熱量を上げていき、満遍なく溶接していく。完璧だ。これで完全なる密室である。
換気の問題は地図魔法でごり押しだ。風を金庫の端から端に流れるよう出入りを設定すればいい。
いや、疲れた。疲れたけどとても気持ちがいい。
あとはタナカさんの料理を食べて、汗を流せば気持ちよく眠れるだろうね。
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