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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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魔法も万能ではなく

 祝いの席も終わりに近づいた頃になって気づいてしまった。


「あの、父さんと母さん、あと『風の道』の皆さんってどうしたんですか?」

「あ、そっか。エルナー君気を失ってたから知らないよねー。レナとレックスはあの後、そのまま支援物資と人手を護衛しながら村に帰って、『風の道』は今宿に居るよー」


 南の村に詰めていた秘境を監視する兵が、伝令として一部襲撃があった際に出ていたらしい。その都合で直ぐに手配が付いたそうだ。

 『風の道』の皆さんは、ここに移り住むためにも宿に置いてある荷物をまとめるのだという。

 今日一泊して宿を解約し、まとめた荷物と一緒に来るそうだ。


 ならば、明日彼らにも報告しないといけないね。


「……少し、不安がありますね」

「大丈夫よぉ、彼らも祝福してくれるわぁ」

「あ、エルナーをいっぱい持ち上げてる人の心配だね?」

「そう、そうなんだよアリーチェ! それともう一人いるんだよね……」


 アリーチェに対して不穏な視線を送る弓術士の男性……。反応次第では戦争かな?


 ともあれ、今気にしていても仕方がない。

 残った料理を楽しみ、他愛のない話を楽しんだよ。


 フラフラと覚束ない足取りのタナカさんとレイスの子達が片づけに入ってきた。

 手伝おうと思ったけど「私たちの仕事だからダメッ!」って怒られてしまったので、お礼を言ってお願いした。

 あえて、タナカさんを見なかったよ。たぶん笑ってしまうからね。



  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 目覚めは快調だった。世界が輝いて見える、というのはさすがに言いすぎかな。

 ベッドから降りて身支度を整える。

 漫画だとこういう時に誰かが入ってくるのだろうか、そんなことを考えながら着替えを済ませるとノックの音が響く。


「エルナー、おはよう。起きてる?」

「おはよう。起きてるよ」


 入るね、と一声かけてから扉を開けて入ってくる。こういったマナーを当たり前のように出来るようになってるのを見ると、成長しているんだなと実感するね。


「どうしたの?」

「ううん、何でもないよ。今日も一日よろしくね、アリーチェ」

「うん! よろしく!」


 訂正しようと思う。やっぱり世界は輝いて見えるね。


 購入したこの屋敷は広い。本宅だけでもそう感じるのに別宅まである上に庭も付いている。

 そのうえ本宅は三階建てだ。部屋も多くちょっと管理が大変そうだけど、その辺りは子ども達がやる気なので任せようと思っている。


 今のところ万能なメイドのタナカさんもいるし、困ったことには早々ならないだろう。

 そう思えるほどに僕は彼女を高く評価しているよ。


 だからさ、リビングのドアを少し開いてこちらを見るのは止めてくれませんかね?


「おはよう、タナカさん。清々しい朝だね」

「タナカさんおはよう! 今日もよろしくね!」

「……おはようございます。朝食の準備はできておりますよ。ウフフフ……」


 タナカさん料理も上手だから楽しみだね。

 アリーチェも同じなのだろう、僕と同じく笑顔だったよ。


「「おはようございます」」


 リビングには既に『雷牙』が揃っていた。僕達の挨拶にそれぞれ答えてくれたよ。

 まだ所定の位置というのは無いのだけど、なんとなく僕とアリーチェはいつも隣同士だった。


 タナカさんを始め、子ども達がそれぞれ料理を持ってきてくれた。

 重くならないよう、けれど品数は多め。健康管理まで完璧だ。ちょっと万能が過ぎる気がする。


「タナカさん、都合がついたときにでも料理教えて?」

「黒姫様が? あぁ、なるほど。愛する魔王様に食べていただきたいんですね!」

「うん!」

「ばかな……強い、強すぎる……ッ!」


 何をやっているんだか。それにしてもアリーチェの手料理……楽しみだね!


「おかしいな、美味かった料理が甘ったるく感じるぞ」

「あはは、慣れたほうがいいよー」


 カッシュさんとクゥナリアさんも、大概仲が良いのにどうして進展させないのだろうね?


 

 朝食を済ませ、食休みをしていると呼び鈴が鳴った。対応した子が『風の道』の皆さんを招き入れてくれたよ。

 荷物を別宅に置いてから再度集まり、早速今日の予定を話し合う。と、その前に。


「皆さん。この度、僕とアリーチェは恋人として付き合う事となりました。どうぞよろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「「おめでとうございます!」」


 懸念してた二人が真っ先に祝福してくれた。予想外過ぎて次の言葉が出てこない。


「いや、驚いたな。二人がとうとうそういう関係になったという事もだが、こいつらのこの反応が一番驚いた」


 全員が同意した。それが不服だったのか、なぜか僕に忠誠心を見せる女性が口をとがらせた。


「私は魔王様の幸福をこそ願っています。お相手が敬愛する黒姫様ならばこれほど嬉しい事は無いんですよ。早速組織に報告せねばなりませんね」


 待って。組織って何?


「そうだぜ、リーダー。俺たち見守りの会は二人が結ばれる事こそを願ってたわけだしな」

「組織とか見守りの会とか。いつの間にそんなの出来てたんだよ……俺も入れるか?」


 リーダーさんは常識人だと思ってたのに。裏切られたッ!


「はぁ。もうどうでもいいや。気にしたところで僕に阻止出来ないしなるようになれ……」

「はは……。まぁ、祝福はしてもらえたんだ。それで良しとしておけばいいんじゃないか?」

「そうですね。皆さんありがとうございます。ただ、やることはきちんとやっていくつもりなので、そこはよろしくお願いしますね」


 それぞれが返事を返し、ようやくミーティングに入ることが出来る。


「さて、それじゃ今日の予定ですが。『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』は可能な限り用水路の浄化を行っていこうかと思います」

「『雷牙』はギルマスの手伝いに行くことにする。要請があったんでな」

「例のぉ、商人の件よぉ」


 なるほど、重要な仕事だね。『雷牙』に向けてにっこりと微笑む。

 『雷牙』も僕達ににっこりと微笑み返した。うんうん、徹底的にお願いします。


「『風の道』はサポートに入る。一人はここで連絡役として残るようにするから何か言伝があったら言ってくれ」


 おぉ、ありがたい。定期的に入れ替わるようローテーションを組むそうで、お互いの進捗が確認できそうだ。


「この中で問題があるとすれば、僕達ですか。どうしても効率のいい方法を見つけない限りは直ぐにバテてしまいますから……」

「魔法に関しては良く分からないんだが、そんなに消耗するものなのか?」


 感覚的な物だから例えるのが難しいけど、なんとか伝えないと分かってはもらえないよね。


「そうですね……。流れの勢い、量、流れの向きを常に考え続けながら支え続ける。これが僕が行う役目です。例えるならば、丸い大岩が坂を緩やかな速度で降るよう、下から支え続ける感じですかね」


 水の流れの勢いが大岩が降りる速度、水の量が大岩の質量、流れの向きが岩の回転する方向とすると、常に意識を向け続けなくてはいけない。

 特に流れの向きが厄介で、僕の場合手を抜くと持ち上げた際、頂点から水が飛び散る危険がある。

 例えた大岩ならば回転に巻き込まれて下敷きになる危険だろうか。


 汚水を被るか、怪我をするか。どちらにしても危険であるのは間違いはないと思う。


 山なりになるように制御する場合、急な角度だと確実に勢いに押されて用水路から飛び散ってしまう。その為にそれなりの距離を緩やかに持ち上げなければいけないのだ。

 精神が摩耗するのも分かってほしい。


 大岩の場合はどうか。大岩の回転がすなわち速度に繋がってしまう。そのため回転を抑えなくてはいかず、道具を用いていたとしてもその摩擦は凄まじい物だろう。


「想像でしかないが……うん、よくそんなことできるなエルナー」

「僅か数分で汗だくになって、へたりこみますけどね……」

「だから私達も、早く正確にヘドロを搔き集めないといけないんだよ。結構深くて、重いんだよね……」

『エルナーはそれに加えて、臭いが周りに漏れないように風で制御してるですの。エルナーの負担が多すぎるですの……』


 そう、だから何か効率のいい方法を見つけないといけない。

 しばらくは探りながら根性で乗り切るしかない訳で……。


「現状ですと、持ち上げた際いかに早くヘドロをまとめることが出来るかが勝負なので、人海戦術が一番なんですよね……」

「それはまた……。いや、すまん。もっと簡単なものだと思ってた。魔法も万能ではないんだな……」

「けれど、やれることは多いです。選択肢が増えるという事は、それだけ可能性を秘めているという事です」


 だからこそ、検証が必要になってくるわけだ。

 さぁ、これから二年の間に全ての用水路の浄化を目指すとしようか。

お読みいただきありがとうございます!

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