告白
「気を付けてほしいのは、効果の高さに限った話ではないのですよ」
「と言いますと?」
「行使できるのが一定レベルの者である以上、エルナーも我々同様に管理者となってしまう可能性が出てきます」
管理者に? 僕の言うところの神様になるって事? また飛躍した話だね。
「エルナーは世界線という概念を持ってはいませんよね。まずはその説明からです」
世界線。つまるところ世界と呼ばれる存在は、管理する者からすれば過去から現在までの全てが線状に見えるらしい。フィルムなんかが想像しやすいかもしれない。
それはいくつも存在し、それぞれに管理者がついている。
世界線は今もなお増え続けており、レスター兄様が言っていた彼らとは管理者を統括する者の事のようだ。
その彼らが新しい世界線の管理者を求めて催促に来るらしい。
管理者には条件がある。それは一定以上の力量があり、かつ名を遺すような偉業を成し得た英雄であること。
つまり、僕が行ってしまったような『誓約』をラインと定め、何かしらの偉業を達成し認められさえしたら即座にスカウト、というよりも強制的に召し上げられるらしい。
それはアリーチェや皆との強制的な別れとなってしまうのだと教えられたよ。
となれば、僕はすでにリーチがかかっている状態なのだ。まだ十二歳なのに行動の制限をかけられたようなものだ。
僕が困って黙り込んでいるといい笑顔をした二人が言う。
「大丈夫ですよエルナー。私が完璧に隠蔽しますから」
「そうよ。少なくともエルナーが生きている間は私たちが結託して改ざんするから」
頼もしい、頼もしいけど言い方。
ともあれ、あまり『誓約』を乱発されたら隠しきれないから気を付けてほしいとのことだった。
まだアリーチェと一緒に冒険したい。いろんなものを見て、知って、楽しみたい。
だから迂闊な事なんてしていられないよね。
「ふふ、エルナーはアリーチェの事が本当に好きなんですね」
「そうねぇ、けど、あんまり長く気を持たせるのはだめよ?」
「え?」
うん、確かにアリーチェの事は好きだよ。頼りになるし、ちょっとしたことが可愛いし。
アリーチェは僕に追いつきたいと訓練をしているけど、僕だってアリーチェの隣に並び立つのに相応しくなりたい。
けれど、そうだよね。アリーチェだっていつかは誰かに嫁いでしまうのか。それは嫌だな……。
独占したい訳じゃないけど、僕に向けられていた笑顔が他に向くとなると何だか胸が痛い。
……うわ、なんか顔が熱い? え、なにこれ?
「……レスター、この子もしかして今まで自覚してなかった?」
「そうみたいですね。けど、こういった姿もまた可愛いです」
二人の優しい目が余計に刺さるッ! 凄く恥ずかしい! 知らない、僕こんなの知らないよ!? 漫画でだってこんな症状……あったッ!
「まさか……これが、恋……」
「そうね。気づけて良かったわね? 今のエルナーならアリーチェの行動から読み取れるわよね?」
「――ッ!?」
想像しただけで胸が高鳴るッ! うわぁ、なるほど。これは凄いね。
そうか、もし僕が管理者に選ばれてしまったら……。絶対にいやだな。まだアリーチェに想いを告げていないのに、その機会を奪われるなんて死ぬより辛いッ!
「僕、目覚めたらアリーチェに告白するよッ!」
「また、凄いほうに考えが飛びましたねぇ。そんなところが可愛いですよエルナー」
「応援するわッ! 頑張ってッ!」
頑張りますッ!
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
「ん……」
「エルナー! よかった、よかったよぉ……」
アリーチェが縋り付いて泣いている。あぁ、僕が急に倒れたから心配してくれているんだね。
胸が温かい。これまでもこの感じはあったけど、理解してからはどこか気恥ずかしい。
それでも。頑張ると決めたんだ。アリーチェの手を握り、目を見つめて告げるよ。
「アリーチェ、好きだよ。これからもずっと、僕のそばに居てほしい。僕と共に冒険してほしい。僕と共に、幸せになって欲しい」
「……え? ――――ッ!?」
目に見えて真っ赤になった。今なら分かるよ。とても恥ずかしいんだよね。でも、僕の気持ちのすべてだ。どうか受け取ってほしかったんだ。
「おおおお! エルナー君が起きて早々に告白したよ! ボクまでちょっと恥ずかしくなった!」
「きゃー! きゃー! エルナー君ってばぁ、やるぅ!」
クゥナリアさんとルルゥさんが手を取り合って飛び跳ねている。
「先を……越された……ッ!?」
「これが若さか……」
カッシュさんが驚愕し、ラーシャーさんは苦笑いだ。
「おー、魔王様大胆だなぁ」
ガードさんはしきりに頷いているよ。その隣のタナカさんはおとなしい。
「エルナー、いいの? 私で、いいの? 剣を振る女の子、嫌じゃない……?」
「アリーチェじゃないといやだよ。アリーチェの隣に立つ資格を、僕にください」
「うん、うんっ! 大好きだよ、エルナー!」
満面の笑みを、涙がそっと彩っていた。それがどうしようもなく美しく感じるよ。
恋は盲目。それは果たして誰が言い始めたのだろう。今なら理解できる。ラーシャーさん達の事が、まるで気になどなっていなかったからね。
「今晩は、お祝いですね! 腕によりをかけましょう! さぁ皆も手伝ってください、魔王様と黒姫様、お二人の素晴らしい日を彩りますよ!」
レイスとなった子達の、特に女の子の歓声が響いたよ。
そうして始まった僕達のお祝い。
予想外と言ったら失礼かもしれないけど、タナカさん料理も出来たのか。本当に何者なんだろう。
そんな思いでタナカさんを見やっていると、袖を引かれる感覚があった。
アリーチェを見るとちょっと膨れていた。何この可愛い生き物。
「ぷすぅー。もう! エルナー!」
思わず指でつついたら空気が漏れた。恥ずかしかったのか勢いで怒られてしまったよ。
「くっ、酒が甘く感じるぞ……ッ」
「あはは! 二人とも全開だもんねぇ。でもよかったなぁ、アリーチェちゃんずっと悩んでたもんねぇ」
「そうねぇ。でも何があったらぁ、起きてすぐに告白したのかしらぁ?」
ちょっと夢の世界で自覚しまして。頑張りましたよ! あとカッシュさん、お酒は甘くなってませんしあまり飲み過ぎないように。
ふとくーちゃんを探す。起きてからずっと触れていない。
入り口付近で静かに見守っていた。手招きして呼ぶとアリーチェも続いてくれた。
『お邪魔じゃないですの?』
「邪魔なはずないよ。僕達はもう家族みたいなものじゃない」
「家族ッ! う、うん。そうだよくーちゃん!」
アリーチェは一体何にそんな慌てているのだろう?
「料理が、甘ぇ……」
「ラーシャー、ちゃんと美味しいわよぉ?」
「うぅ、ぐす。俺だって、俺だっていつかはなぁ……ッ!」
「はいはい、ちょっと飲みすぎだね。ボクお水貰ってくるから大人しく泣いてるんだよ?」
大人しく泣いてろってなに? 甘ぇ、甘ぇって言いながら酒を煽って泣いてるカッシュさんを放置するの?
「クゥナリアさん、僕が水出しますよ?」
「あ、本当? 助かるよ。ここまで酔う事ってないんだけどねー。余程エルナー君達の事が嬉しいみたいだよ」
「次はクゥさんとルルゥさんだよ! 頑張って!」
応援するアリーチェをニコニコと見守るよ。それにしても、女性陣と随分仲良くなってたみたいだね。呼び方がとても自然だったよ。
あ、ルルゥさん咽た。空いたコップに水を生成して注いでおいた。ラーシャーさんの近くに。
にっこり笑ってサムズアップをキメたよ!
「……ルルゥ、ほら水だ。飲んで落ち着け」
「あ、ありがとぉ。ケホッ」
ゆっくりと水を飲んでいくと、アリーチェがふと何かに気づいた。
「あれ、それってラーシャーさんが使ってたコップ?」
「ンンッ!? ケホッケホッケホッ!」
「おぉい!? 大丈夫かまったく……」
そういって背中をさするラーシャーさんはさすがのポーカーフェイス。しかし狼の耳がピクピク動いているのが惜しい。
対してルルゥさんはと言えば、息苦しさから顔を真っ赤にしながらもアリーチェに対し、サムズアップを向けていた。もちろんラーシャーさんからは見えない位置だ。
「お待たせしました! こちら最後の料理です! おや、だいぶいい感じですね、素晴らしい!」
「タナカさん、ありがとうございます。あとはガードさんとゆっくりしていてください」
「んっ!? 魔王様なんだか急に一皮むけましたね。いきなりの告白と言い、なにがあったんです?」
そっか、確かに急だね。倒れて起きて、すぐ告白だ。
「僕達は、いつ何が起こるか分からないから。思い残すようなことはしないでおきたくてね。特に、大切な想いは告げておきたかったんだ」
「おぉ……確かに魔王様ってば倒れてばかりみたいですからね!」
「……痛いところを突くね。さすがタナカさんだよ。さ、ガードさんの所に行っておいで」
お道化ながら文句を言いつつ、足取り軽く部屋を出て行ったタナカさん。覚悟しておくといいよ。
このお祝いが始まる前に、こっそりガードさんに伝えておいたからね。
たぶんだけどタナカさんは褒められるのに弱いから、褒めちぎると効果的だよ、ってね!
お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!




