魂の欠片
黄金の羽ピンが僕とアリーチェ、レイスとなった子達に行き渡った。
これが何なのかは分からない。分からないけど妙に安心感がある。
魔法とはまた違った感覚だった。これに近い物を知っているような気がするんだけど、どうにも頭が回らない。
「あ……れ……?」
「エルナー!?」
急に力が抜け、倒れそうになった。アリーチェが支えてくれたから転倒は免れたけれど、なんだかこんなことばっかりだな、という思いを最後に意識を手放した。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
覚えのある感覚に目を覚ませば、予想通りの白い空間だった。
予想と違ったのはエリカお姉様のご尊顔を見上げる形となっている事か。つまりは膝枕。
何に邪魔されることなく見える。これはもしやアリーチェよりも――。
「……懲りないわね、エルナー。そんなにこれが恋しい?」
「痛いッ!?」
はい、落とされました。わざわざ頭を持ち上げてから膝を引く周到ぶりさすがでございます。
「強引に呼び出したから、体の方は急に意識を失って今は眠ってる状態よ。起きたら代わりに謝っておいてね」
「それは良いんですが、いや良くはないんですけどね? 良いとして、何でこんな強引に?」
「それはレスターが来てから話すわ。事情を伝えたからすぐに来ると思うけど」
事情? タナカさん達をレイスのまま現世に留めていることだろうか?
「来ましたよ。それでエリカ。本当なのですか?」
「ええ。残念ながら本当よ。見ていなかったことに驚きしかないのだけど何かあったの?」
「ありましたね。彼らが次の代をとせっついてきました。その対応で遅れてしまいましたが、タイミングが最悪ですね」
レスター兄様とエリカお姉様が深刻な顔をして話し合っている。僕はと言えば土下座の準備中だ。今は正座の状態で構えているよ。
「また面倒なタイミングね……。今はエルナーの事に集中しましょう」
「そうですね。看過できません」
そう言って二人が僕に向き直った。このタイミングだろうか?
「エルナー。今は真剣にお願い。貴方だけじゃなく、アリーチェちゃんや大切な子達にも関わる事なの」
「……分かりました。それで、僕のした何かが良くない事情と生んだという事ですか?」
「良くない事ではないわね。むしろあの子達にとってはあったほうが余程良いわ」
それなら安心だ。状況は未だ飲み込めないけれど皆の為になるというならそれでいい。
「エルナーの魔力で形作られた証。その黄金の羽ピンがエリカが呼び出した原因なんですよ」
「その羽根ピンは、言ってみればエルナーの想いとあの子達の想いを重ねて出来た絆の魔道具。貴方が居る限りにおいて、あの子達は狂気に堕ちることはないわ」
原因とまで言うほどだから警戒していたけど、聞くほどに良い物なのでは、と思ってしまう。
それにしても魔道具か。思い当っていたのは身分証だったか。
「誰かを救うという事は、責任が生じます。レイスとなった子達を救った責任は、考えているよりもずっと重いのですよ」
「レイスは、魂の在り方の一つなの。本来ならいずれ霧散し、ここへと還るのだけど、エルナーはあの子達を救ったわ。それはいいの。あの子達にだって幸せを得る資格はあるのだから」
ではなぜそんな深刻な顔をしているのでしょう。レスター兄様の言葉で不安を持ち、エリカお姉様は褒めてくれているはずなのに更に重さが増していく。
「けれどその行為はね、世界の在り方を変えるという事なのよ」
言葉が出ない。世界の在り方を変える? その意味が全く分からない。
「魂が還り、新たな生命として降りていく。そうして循環するのが生命の在り方よ」
「ですが、その循環が切れてしまったら、生まれて来るべく者が生まれてきません。死産となるか、あるいは形として成り立たないかのどちらかです」
それは、僕が生まれぬ誰かを殺してしまったという事……?
「違うわ。そうなってしまうのも、残酷だけれど在り方の一つ。私たちが懸念しているのは、貴方が行った救い方なのよ」
「その黄金の羽ピンですが、平たく言えばそれは『エルナーの魂の欠片』なんです」
つまり、あの子達に僕の魂を分け与えてしまった。そういう事なのだろうか。
そのことに関しては僕は気にしないというか、納得している。
「ねぇ、エルナー。在り方が変わるという状況を、エルナーは知っているはずよ?」
「え? そんな状況を知っているはず……ッ!? まさか、秘境ですかッ!?」
「ええ、そうです」
そんな馬鹿な。あの秘境は元から森だったはずだ。たまたま願われ、それを誓ったあの巨大な樹木が主となって秘境と化したのではないのか?
いや待て、秘境で魔力を混じらせたとき何を見た。草原と、青空。切り取られたその場所の周りには当然のように秘境の森が広がっていたはずだ。
「幻覚の、森……。秘境の森は、既にない……?」
「……ええ、そうね。あの森に居た子達も、既に居ないわ」
あの時の記憶が浮かんでくる。様々な生き物達が居た。星詠みの塔に残る資料によれば絶滅してしまった者達。
それをあの樹木が、幻覚として再現したというのか。
それを可能とさせた存在。ああ、今思い出したよ。
どこかで見たような女の人が、今目の前にいるじゃないかッ!
「魔王、様」
「そう呼ばれるのは、随分と懐かしいわね」
落ち着け、落ち着いて状況を整理しろ。
かの樹木にエリカお姉様の魂の欠片を分け与え、そうして秘境となって今も存在している。
森という在り方全てが変わり果てながら。生き物さえも幻覚として、すべては泉を護るがために。
「魂の欠片を与えられた周囲は、秘境となってしまう……?」
「一定以上の魔力が無ければ影響はさほどではありません。世界の自浄が作用しますが、エルナーやエリカ、元魔王ですね。それだけの者ならば、『誓約』という現象が起こります」
――さながら、その黄金の羽ピンは『黄金の誓約』という魔法でしょう。
レスター兄様の言葉が突き刺さるようだ。
『誓約』が魔法? 笑えない。
僕は皆に宣誓した。そうして現れたのはこの羽ピン。
家を護ってほしいと願い、受け入れてもらえた。これはエリカお姉様とかの樹木のやり取りに通ずるのではないか。
つまり、あの家が秘境になってしまう?
「あれ? あの家が秘境になってもさして変わらないような? 既にレイスや動く鎧、気さくな人体模型のメイドまで居るし……」
「最後に変なのがいるわね……」
「盛ってますねぇ」
凄いなタナカさん、ここでも大活躍だ。
「気を付けて、エルナー。魂の欠片を渡すのは効果が大きすぎるの。それは各地の秘境を見ればわかるでしょう? あれらは、私の過ちそのものなのよ……」
「けれど、理由はあった。あの森では妖精の棲む泉の為だったと樹木さんの記憶から知りました」
エリカお姉様は首を振り、悲し気な表情を見せた。
「最初はね、確かに守りたいだけだったの。各地で行動して、いろいろあって感情を含めて魂の欠片を渡して、誓約を行っていった。けれどね、気づいてしまった。私は嫌なことから逃げるために、救いを騙って押し付けていただけだった」
魔王と呼ばれるほど卓越した力を持ち、世界を巡って様々な厄介ごとを解決して回ったことで『調停者』とも呼ばれ、一層の重圧が増したエリカお姉様はそのストレスを押し付けてしまった。そう語った。
だからこそ。僕が救われた言葉をエリカお姉様にも捧げよう。
「何かを想い、誰かを想い、そうした想いを行動によって示し解決へと導いた。それに感謝する者もたくさんいたはずです。エリカお姉様、だからこそ逃げだとか騙ったとか。そんな『陳腐』な事で穢さないでください」
「――っ」
「いいじゃないですか。世界一つ背負う必要なんてないんですから。足りないなら他にも背を借りていいじゃないですか。彼らだって、それを望んで受け入れてくれたのでしょう? でなければ誓約は成り立たないはずですよ」
「そう、ね。ありがとう、まさか十二歳の子に慰められるとは思わなかったわ。それにしても陳腐、ね」
「敵わないですよね、それ。僕もタナカさん、あぁ、例の人体模型のメイドさんです。彼女に言われて救われましたから」
「人体模型の……。何者なのよ……」
それ、僕も知りたいです。
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