ギルマスの用件
やることは大体決まったと思う。
南の村の支援については父さんと母さんに丸投げすることにしたよ。僕じゃ何が必要なのか、どこに頼むのかなんていうのは分からないからね。
早速行動を、と呼びかけようとしてふとハルトギルマスさんに視線を向けた。
そういえば何でここに居るんだろう。丁度良かったとか言ってなかったっけ。
「ギルマスさん、僕に何か用があったんですか?」
「ん? ……あぁ、そうだったな。こいつらが居た衝撃ですっかり忘れてたぜ……」
そう言って父さんと母さんをジト目で見やる。この三人、いったいどういう関係なんだろう。
「エルナーに是非会ってみたいっていう御仁がいてな。すまんが会ってくれ」
「……どなたですか?」
「まぁ、身分が高いのは確かだなぁ。ただ礼儀とかそう言ったのはあまり気にしない人だ。俺みたいのを相手にしても平然としてるくらいだしな」
「それはまた、剛毅な方ですね」
どういう意味だ! と言いながら僕の頭をグリグリと強く撫でられ、思わず母さんの方に指を向けた。ギルマスさんにのみ見えるように、だけど。
冷や汗が浮かび、手が離れていくのを確認して僕はニヤリと笑う。
「覚悟しておけよ、お前は間違いなく有名になる。面倒なお偉いさん達に気を付けることだな」
「二年後には国を出ることにしますね!」
実際に用水路の浄化が済み、秘境に赴いたら国を出るつもりではあったし。
向かうのは小人の国だ。エリカお姉様に出来れば行ってほしいって言われてるからね。
どういった意図で僕に接触を試みるのかは分からないけれど、僕には大義名分があるからね。
神様から頼まれたならばやらなければいけないでしょう。いや待て、証明できないからダメかな?
うん、考えるのはその時にしよう。いざとなれば転移してしまえばいい。こちとら自由な冒険者な訳だしね!
「先の事は置いておきましょう。それで、その僕に会いたいという方とはいつ頃会えばいいのですか?」
「午後だな」
「は?」
「午後だ」
「いや聞こえてますよ。随分急じゃないですか? もし今日僕が来なかったらどうしたんです?」
ギルマスさんが御仁とか呼ぶ人だし、身分が高いそうだし。そんな人を来なかったから会えないって通用するのだろうか。
漫画において、所謂貴族という人たちは傲慢な感じの人が多かった。一部味方寄りの貴族は常識的だったけど。
「そこは大丈夫だ。来たら僥倖、来なければまた半年後に予定しようって言ってたからな」
「本当に剛毅な方ですね……」
というか僥倖て。僕はあれか、会えたら幸せが訪れるっていう何かか。
「それで、その御仁をここに連れてきてもいいか?」
「僕は構いませんけど……大丈夫なんですか?」
そう言って周りを見回す。あちこち物が浮き、視界の端ではタナカさんがクラウチングの態勢を取っていた。何してんだあの人。
ギルマスさんも周りを見る。やはりタナカさんのあたりで視線が止まったかぁ。
軽く頭を振り、いい笑顔を浮かべる。
「まぁ、いいんじゃねぇの」
「「軽いなぁ」」
おぉ、ガードさん居たのか。
「ガードさん、アレ放っておいていいの?」
「俺は別に、アレの世話係じゃないぜ?」
「でも誰かがアレを制御しないと、アレは絶対止まらないよ?」
「あー、まぁな。でも俺一人でアレを抑えられる自信はないぜ?」
僕も無理だと思う。いつの間にかクラウチングからポーズが変わってるし。左手を胸に当て、右手の手の平を上にして天に差し出している。
ガードさんと見合い、頷く。
「「放置」」
「構ってッ!」
「仕事してください」
「ご褒美は魔王様ですか?」
馬鹿な事を言うんじゃない。
ゆらり、とアリーチェと『風の道』がタナカさんを囲む。そして笑顔で隣室へと招き入れて行った。
その後タナカさんがどうなったかは当人たち以外誰も知らない。ということで。
「とりあえず、お客さんが来ている間は皆おとなしくしててね? 脅かしたりしたら駄目だよ?」
「「「「はーい!」」」」
素直だなぁ、癒されるね。
「あー、それじゃあ俺は連れてくるわ。もういい時間だからな。大丈夫か?」
「はい、お待ちしています」
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
一先ず父さんと母さんに支援の手配をしてもらいに出てもらい、『雷牙』と『風の道』は子ども達関連の資料をまとめているとのことで、僕とアリーチェで会談することになった。
そこで今頃気づいたことだけど、偉い人に会うのに僕達が待ってる側っていうのはおかしくない?
普通こっちから会いに行くのが礼儀なのでは、そんなことを考えていると玄関が開く音がした。
「待たせた。二人だけか?」
「えぇ、時間は有限ですし」
ギルマスさんがこちらへ、とその人を席に誘導する。
長い銀髪をオールバックで整えており、服装は着崩しているけど上等なものだと思う。年齢は四十代くらいで威圧感のようなものを肌に感じる。
扉から一番遠い席にその人が座り、ギルマスさんは斜め後ろに立ったままだ。
「ハルト、君も座りなさい」
「いや、しかし」
「良いから座りなさい。この場では私も楽にしたいのだ」
君たちも座りなさい、と声をかけられたので座ることに。やばい、なんか緊張する。
「早速だが君たちが、かの『ゴルプレッジ』の遺品を回収してくれた冒険者だね?」
「はい。僭越ながら彼らの想いと共に在りたいと願い、『黄金の誓約』というパーティーを組んでおります。申し遅れました、私はエルナーと申します」
「アリーチェと申します」
「私はルドルフだ。よろしく頼む。それでだが――」
はて、どうされたのだろう。扉の方を凝視して固まっている。ギルマスさんもこめかみの辺りがぴくぴくしてる?
すっ、とお茶を出された。これはバウ茶か。いや待て。
「「「「…………」」」」
「おや、どうされましたか? このお茶、バウ茶というらしいですが美味しいですよ! 私は飲めませんが!」
「「「「…………」」」」
「いやー、そんなに熱い視線で見つめられると私照れてしまいますっ!」
「ハウスッ!」
「わんっ!」
そそくさと退室していくタナカさんの背を見送る。
ぐぬぬ、やりよった。ルドルフさんの反応を見るのが怖いんだけど。
「ほう、バウ茶だったか。これは落ち着くな」
「あれ? 動じてない?」
「ハルトから聞いている。ここの持ち主だった男の被害者なのだとか。君たちが救い、幸せに働けているのならば、彼らもこの国で庇護すべき子達だろう」
この人、ルドルフさんはどうやら本気で言ってるようだ。
秘境での経験で感情を探る程度には使えるようになった、魔力を混ぜ込む技法を使っているけど揺らぎが全くない。本心という事になる。
ここの子達の事を心から言っているのであれば、信用に足る人物と言えるかな。
「それでだが、君たちは秘境の攻略を進めていると聞いてね。目途がついているのかが聞きたかったのだ」
「えっと、申し訳ありませんが攻略は致しません」
「どういうことかな?」
「私はあくまでも、踏破を前提としています。手中に収めるのではなく、秘境という未知を知りたいという利己的な行動です」
「攻略できれば秘境の脅威は去り、豊かな資源が手に入ると思うのだが?」
そういう考えが一般的なのは理解できる。できるけど納得はできないんだよね。
秘境の実態を知れば尚更だ。だからルドルフさんにも情報を提供しよう。
脅威の原因がこの王都にある事、それらを解決するため動こうとしている事。
秘境の成り立ちや終の泉に棲む妖精の事も話した。
その度にルドルフさんの眉間に皺が寄っていくのが見て分かるほどに真剣な表情をしていたよ。
「そう、か。全て、我々の業か。これは、堪えるな」
しばらく手で目を覆い天を仰いでいたルドルフさんが、再度僕達に視線を合わせる。
「訊きたい。君たち『黄金の誓約』は何故秘境に挑もうと思った?」
「私は、冒険に憧れていました。未知や無知を、既知に変える喜びを求めていました」
僕と同じ名前の男の子が年老いた猫と出会うことで始まった冒険の絵本。僕はそれに憧れた。
「『悪食の森』では憎悪がありました。超えた先に広がる秘境には、純然たる生存競争がありました」
困難がそこにあった。それを乗り越えた先にある景色に恋焦がれた。
「その先はきっと、誰も見たことのない出来事があるだろうから。僕は、それが見たい。それが知りたい」
湧き出る情熱が、僕の口を勝手に動かしていく。もはや言葉遣いなど意識から外れていたよ。
「南の秘境の主と意思を通わせたことで、僕の中で確信が生まれた。僕の望む形がそこにあるのだと」
隣に座るアリーチェが、僕の熱を手の平で受け止めてくれている。だから僕は笑って宣言するんだ。
「誰も果たせなかった秘境の踏破こそ、僕の求めた冒険の在り方なんだ」
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