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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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商人の闇の残骸

 父さんと母さんが、震えるハルトギルマスさんを連行して行ってしまったので、『風の道』の三人に拠点に居た訳を聞いてみた。


「買い出しとはいっても、それで一日が潰れるわけでもないからな。時間はかなり余るし、それならここを整理しておくかってな」

「それはありがとうございます。助かります」

「ああ。それで一つ相談なんだが、俺たちもここに住まわせてもらってもいいか? ここ、いろいろと便利でなあ」

「もちろんです。商人らしきレイスを祓ってしまったので家の警備がちょっと不安だったんですよ」


 それに、僕とアリーチェ、くーちゃんの三人だとここは広すぎるから。『雷牙』と『風の道』には是非とも居てもらいたい。


「そうそう、その商人なんだが……良くない噂がある人物だったそうだ。違法の商品を取り扱っていたとかで衛兵にも睨まれていたそうだが、証拠がなく検挙できずにいたそうだ」

「違法の商品、ですか?」


 ああ、と苦い表情で答え、吐き棄てるように告げる。


「――ヒトだ。攫ったのか孤児なのかは分からないが子どもたちを『奴隷』として扱っていたそうだ」


 この場に居た全員から怒気が漏れる。部屋全体が軋んだかのような錯覚さえ覚えた。

 この国、いやこの世界と呼ぶべきか。奴隷は禁止されているはずだ。

 それも子どもを? あぁ、祓ってしまった事が悔やまれる。そんな奴に慈悲など勿体ないではないか。


「確か、金庫に書類があったと思います。……これですね。調べてみましょう」

「そうだな……ああ、必要ない。あったぞ」


 ラーシャーさんが一枚目で告げる。どうやら売買記録のようだ。

 禁止されている奴隷を買うという事は、法に触れるという事だ。つまりこの商人、売った相手の弱みを握ったことと同意である。


 子供たちの入手経路もあった。スラムから攫うのが最も多く記されていたが、『雷牙』がその怒気をさらに膨らませる最悪の所業も行っていたようだ。


 “獣人は好事家に人気が高く需要が多い為、獣人国『コーカトリア』への行商の際、身寄りの無い者を丁稚として雇う事”


 指示書だろう、その中の一行だった。

 怒りのせいで震える指をどうにか抑え、別の書類を読む。

 それは商品、つまり攫った子達の居場所についてだった。

 本宅と別棟の間に位置する簡易な小屋。そこの床板を外すと地下へ続く階段がありその奥の牢に居るとある。


 悪い予感しかしない。場合によっては――。


「おい! 殺気が駄々洩れだぞ、何があったッ!」

「ハルトギルマスさん、聞きたいことがあります」

「ッ!? な、なんだ?」


「ここの商人が死んだのは、いつですか?」


 息を呑む音が響くほどの静寂の中、ハルトギルマスさんが残酷な答えを示したよ。


「……二年前だ」


 後から聞いたことではあるけど、この時の僕から金色の魔力が溢れ出て、陽炎のように立ち込めていたそうだ。

 母さんとクゥナリアさんはその魔力から、怒りと嘆きを感じたと言う。正しく想いが乗ったなと、そう思った。



  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



「エルナー、この下にその子たちが居るの……?」

「うん、気持ちのいい状態じゃないだろうから、アリーチェはここに残っててもいいんだよ?」

「ううん、行くよ」


 床板を外した瞬間、強烈な()えた匂いが一瞬にして立ち込めた。

 怒りの度合いが強くなる。こんな残酷が、何故ここにあるのだ。


 階段を降り、地下空間が広がる場所に出ると怒りが抜けて、代わりに悲しみが突き抜けた。


 牢の数が、多い。見る限りでは全てに死体があった。


 四肢の一部を切断された白骨、深い絶望に囚われたままの屍蝋と化した子、開けた場所で丸太に縄でくくられて晒されたままの死体……。

 牢の中の壁には引っ掻いた跡が無数に残っていた。爪が剝がれる痛みなどよりずっと恐ろしい場所なのだと分かってしまう。


 地下の魔力は淀んでいたよ。当たり前だ。

 淀んだ魔力はそれぞれの形を成していく。きっと生前の姿に近づこうとしているのだろう。


 魔力を混じらせるよ。秘境で行ったように、彼らに想いを重ねるのさ。


「遅れて、ごめんね。君たちさえ望むならすぐに神様の許へ送ってあげる。神様はね、とても優しくて慈悲深い女性(ひと)だから、皆にもきっと優しくしてくれる」


 無数の声なき声を感じるよ。嫌だ、怖い、憎い。――会いたい。


 形を成そうとしている魔力たちが僕に集まってくる。皆が動こうとしたのを手で制し、彼らになおも語るよ。


「僕には君たちの痛みを知ることが出来ない。僕にできるのは君たちを誘導するだけ」


 とうとう形を成した魔力はレイスとなって顕現する。未だあどけなさを残すような子までいる。


「一部では、魔王なんて呼ばれちゃったりしていてね。ならその名前に傷をつけないように振舞わないといけないと思うんだ」


 黄金の魔力を彼らに手渡すように浮かせて見せる。レイスとなった子どもたちがそっと手に取っていくのを確認したよ。


「その魔力が、君たちを神様の許に送ってくれるよ。ここの残酷から君たちを開放するのが僕の役割だと思うから」


 目を閉じて、祈るように両手で魔力を胸に当てている。


「僕が勇者だったなら、君たちが生きているあいだに間に合ったんだろうね。でも、僕は魔王と呼ばれているから今の君たちと出会った。残酷を知った君たちを救える存在と成れるのなら、僕はそれを全うしたい」


 彼らが笑ったように感じたよ。ありがとう、という感情までも伝わってきた。

 あぁ、頬に涙の感触を感じるよ。


「さぁみんな。次に生まれてくるときは、幸せに過ごせることを心から祈るよ。『神々の寵愛の焔(ゴッド・ブレス)』」


 黄金の世界が優しく彼らを包み込み、その抱擁を以て彼らに救いを願ったよ。



  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 それでこの状況はいったいどういう事なのだろうか。

 本宅に向かった僕達が目にしたのは、掃除道具やら家具やらがふわふわと浮いたり動き回ったりしている状況だった。


「あ、おかえりなさい! 魔王のお兄ちゃん!」

「あ、はい。ただいま。……あれ? 神様の所に行ったんじゃないの?」


 すう、と現れた猫の獣人の女の子のレイスが元気に挨拶をしてくれたので、思わず返してしまった。

 すると家の中のポルターガイスト現象が一気に止まり、静かに元の場所に戻ると地下の子達のレイスが一斉に現れた。


「「「「おかえりなさいっ!」」」」


 アリーチェと見合い、状況の認識を共にした。次第に心から湧き上がってくるものがある。それを我慢することなく彼らに返事を返そうッ!


「「ただいまっ!」」


 わちゃわちゃと集まる彼らに話を聞けば、『神々の寵愛の焔(ゴッド・ブレス)』を使った際、どうも僕にお礼がしたいと皆が想ったそうなのだ。それが作用してか、アンデッド特有の怨念のみが消えて自由意志が残り、こうして家の掃除をしてくれていたのだそうだ。


 アリーチェは女の子のレイス達とお喋りをし、父さんと母さん、ハルトギルマスはレイス達のまとめ役らしい子から商人について聴取していたよ。

 『雷牙』は獣人の子達を集めて、気づけなかったことを涙ながらに謝っていた。

 その子達は『雷牙』を知っており、有名人に会えた興奮で気にしていないことを簡単に伝え、そんなことよりも、と訊きたいことをひたすらに訊いていた。


 おかげで『雷牙』の皆も笑顔になっていたね。


 『風の道』? あぁ、彼らならそこで僕に対して跪いている。本当になんなんだこの人達。


 その様子を備えついていた椅子に座って眺めていると、横からテーブルに紅茶が出された。


「あぁ、ありがとうござい――ッ!?」


 そこに居たのは人体模型だった。前世における人体模型と同じである。それが動いて、紅茶を出していた。


「ごゆるりと、魔王様。あ、申し遅れました。私は地下で唯一肉体が蝋として残っていた者です」

「ご、ご丁寧に。その、その姿はいったい……?」

「これですか? その、お恥ずかしながら一目惚れでして」


 一目惚れって何だっけ?

お読みいただきありがとうございます!

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