王都の拠点へ
東の空が赤く色づき始めた頃、家の中がにわかに騒がしくなった。
どうしたのだろう、何かあったのか確認しようと玄関前まで歩いたところで、扉が開いた。
母さんが焦った様子で飛び出てきた。そして僕を見やるや驚きの表情となり、次第にジト目へと移行していった。
「……エルナー。心配するから黙って外に出るのは止めなさい。倒れて帰ってきただけでも怖かったのに、急に居なくなられたら……」
「あ……、はい、ごめんなさい……」
母さんの目にじわりと溜まる涙を見て、考えていた言い訳は吹き飛んだ。
こんな時になんだけど、こうして愛情を感じると心が穏やかになるね。
母さんに促されて家に入る。朝焼けに照らされた自慢の水色の髪が揺れて僕の頬をくすぐった。
「行動が浅はかだぞ、エルナー」
「気になることを優先しちゃうのは、悪い癖だよね……分かってはいるんだけど」
「そういうところはレナにそっくりなんだよなあ」
「魔法使いの性みたいなものよね。エルナーは特に、だけど」
見合って同時に溜め息吐くのは止めてほしい。いやまぁ、僕が悪いのは明白なんだけど。
「もう少ししたら、皆がエルナーの様子を見に来る。それまでは安静にしてろよ?」
「うん、分かったよ。それじゃ部屋に――」
扉をノックする音が響く。早朝だからか力は控えめだった。
母さんが対応して、入ってきたのはアリーチェだったよ。
「エルナー! もう大丈夫なの?」
「うん、心配かけてごめんね?でも、お陰で分かったこともあるから皆が集まったら話すよ」
「わかったよ。あ、これお母さんが持っていきなさいって! レナさん、どうぞ」
「あら、ありがとう。林檎ね、早速食べましょうか」
そう言ってナイフと皿を取ってきた母さんに、ふと思い出したことがあってナイフを借りた。
へたを回すように切り抜き、なるべく等間隔になる様に六等分に切り分ける。
芯を三角に切り取り、皮を真ん中くらいから斜めに二本切り込みを入れ、間の皮を取り外す。
身に残った皮を切り込みのあたりまで剥く。この際、少し厚く剥くのがポイントだ。
両方剥いたら完成、うさぎさん林檎の出来上がりだ。
「かわいいっ!」
「また器用な事するわねぇ……」
前世でよく切ってもらっていたからね。つい懐かしくなってしまった。
「えっと、食べないの?」
「え、食べちゃうの?」
何を言ってるの? 食べないと駄目になっちゃうじゃないか!
率先して食べる。お、甘いなこの林檎。
アリーチェがとんでもないものを見たかのように、僕を見つめる。咀嚼しながら僕もアリーチェを見つめる。
複雑な表情でうさぎさん林檎を手に取り、口に運んだよ。
「……美味しい。けど、フクザツ……」
シャクシャクと小気味のいい音が部屋に響き、あっというまに林檎は僕らの胃に収まった。
片づけを終えて談笑していると、僕以外の三人がピクリ、と反応して扉を見やった。
はて? と思っているとノックの音が響く。父さんやアリーチェはともかくとして、母さんも気配とやらを読めるの? そういえばクゥナリアさんも読めるのか。もしかして未だ気配が分からないのは僕だけ?
気持ち落ち込みつつ、訪れた皆を招き入れようと扉を開いて固まる。
家の中に、あと六人も入らない。
急に動きを止めた僕に、不審な視線が突き刺さる。先頭に居たラーシャーさんを見やり、振り返って家の中を見る。
「あ、そっか。狭くなっちゃうね。そうだ! 王都の家に行こうよエルナー!」
「その手が! 早速跳びましょう」
「私達もお願いね?」
母さんたちも来るの? いや構わないんだけど意図が読めない。
拠点訪問だろうか。買ったばかりで備えついてた家具が置いてあるだけなんだけど。
「秘境近くの村代表ってところだな。エルナーの気づきを聞く権利はあるだろう?」
「あ、なるほどね。てっきり拠点をチェックしに来たかっただけなのかと思ってたよ」
「それもあるわよ」
「あるんだ……」
「あー、漫才もいいんだがそろそろ移動しないか?」
漫才ではないのだけど、気にすると何か負けた気がするのでスルーに限る。
考えても見れば、王都に居る三人にも共有する訳だし丁度いいんだよね。
転移を実行して王都の拠点へ飛び、三人がどこにいるのか地図魔法で確認をする。
拠点の別棟に居たのでそちらへと移動し、扉を開けると同時に声をかける。
「皆さん、いますか? 少し話があるのですが」
「ん? おぉ、お前達戻ったのか。丁度よか……っ!?」
「え? ギルマスさん? なんでここに?」
というか、急にどうしたんだろう。僕の後ろを見て凍り付いた。
うん? 後ろ?
振り返ると父さんと母さんがにっこりと素敵な笑顔を見せていた。
「よう、ハルト。久しぶりだな」
「久しぶりね。ずいぶんと息子が世話になったようで?」
青ざめて戦慄くギルマスさんを見ながらふと思う。初めて名前を聞いた気がする。
筋肉質の強面であるギルマスさんの名前はハルトさんというのか。失礼な事この上ないけれど、今初めてハルトギルマスさんの事を知れた気がしたよ。
けどまぁ、なんだか不穏な状況ではあるのだけれどね。
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