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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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南の秘境・3

 勢いに任せて大きな家を買ってしまったけれど、後悔はしてない。

 今一番嬉しいのは金庫がある事だ。これで今ギルドで預かってもらっている大金をここで保管できるようになる。

 ウキウキしながら金庫のもとへ向かうと鍵が置いてあった。不用心だとは思うけど、まぁあのゴテゴテした装飾のユーレイさんが番犬代わりになっていたんだろう。

 そう思うと問答無用で祓ってしまったのは早まったかな? とも思うけどあの感じでは碌なことにはならなかったよね。


 ともあれ金庫だ。鍵を差し回して戸を開ける。すると中にはなんと大きな金庫の戸があった!

 二重扉? しかも今度はダイヤル式……。


 祓った彼を呼び戻す事ってできないかなぁ……出来ないよね。


「金庫破り出来る知り合いとか居ませんかねぇ……?」

「さすがに居ないな……」


 いかにベテランパーティー『風の道』であっても金庫破りの知り合いはいないか。


 さて、どうしようか。ここであまり時間を使いたくないし、ちょっと力技で済ませてしまおうか。


「ちょっと危ないので退いてくださいね」


 剣を抜いて『炎舞』を使う。僕が出しうる最大の熱量まで上げてダイヤルに押し当てる。

 ほんの僅かにだけど刃先が沈んでいくのが分かる。けど、時間がかかりそうだ。

 もっと熱量を上げればいいのだけど、そうすると魔力の保護が足りなくて刃が溶けてしまうのだ。


「私も手伝うね!」

「あ、助かるよ。僕一人だとまだまだかかりそうだからね」


 二人分の最大熱量で刃が沈む速度が増したよ!

 五分くらい押し当てていただろうか、不意に感触が軽くなった為剣を引いて『炎舞』を解く。

 風で冷まして戸を開けば、一部屋まるまる使ったかのような大きさの金庫だった!

 周りは全て鉄のようだ。どれだけお金をかけたのか想像がつかないが、これから使う身としては非常にありがたい。

 その金庫の中には何やら資料やお金や宝石や……無造作に保管されていたよ。


 元の持ち主だった商人がどんな人間だったのか、あとでギルマスさんに問い詰めよう。

 とりあえず金貨を突っ込んで金庫の中にマーカーを設定。空き容量の表示は……よしよし、できた。

 一枚目の戸を閉めて、鍵をかけて……鍵を金庫の中へ転移ッ!


 合鍵が無い限りは最高のセキュリティではないだろうか。あとで二枚目のダイヤル部分埋めておこう。

 まぁ、あのユーレイ……商人のレイス? の見た印象からすると合鍵は無さそうだ。


 一先ずはこれで安心だ。早速村へ転移して用事を済ませたことを伝えたよ。


「息子がいきなり金持ちになってしまった……。しかも家って……」

「その家の金庫の中に如何わしい宝石とかお金とか色々あったよ」

「お願いだから真っ当に生きてね? じゃないと母さん、なにするか分からないわ……」


 ……怖ッ!


 愛想笑いを駆使して母さんを宥めてから『雷牙』と合流するために小屋へと向かう。

 途中、南から避難してきた方々が何やら慌ただしかった。


「こんにちは、どうされたんですか?」

「ん? あぁ、エルナー君。君たちがアンデッドの群れを退治してくれたからね。我々は南に戻ろうと動いているんだよ」

「え、でも村の家はもうボロボロになってますが……」

「そう聞いているよ。けれど、真っ新な状態からじゃあない。ならやりようはあるもんさ」


 ちょくちょくこっちに世話になるかもしれないけどね、と笑って言えるのは素直に強いなと思うよ。


「僕に出来ることがあれば協力させてくださいね。といっても、秘境を踏破した後になってしまいますが……」

「ははッ! それは心強い。あぁ、そうだ。改めて南の村一同、君たちに心からの感謝を。ありがとう」


 そう言って僕に頭を下げ、周りの人たちも口々に感謝の言葉を乗せて頭を下げた。

 謙遜すべき? いいや、違う。受け止め、そうして捧げるんだよ。僕はかの英雄たちの名を継いだのだから。


「Dランクパーティー『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』エルナー、皆様の安寧の為に頑張ります」


 拳を胸に当てて宣言する。驚いたように僕を見やる皆さんに笑いかけると、明るい笑い声がいくつも上がった。

 宣言を嘘にしないためにも必ず秘境を踏破しなければいけないね。

 そうして気づく。『雷牙』の皆がこちらを見てニヤニヤしている。アリーチェも僕が気づいた為か、拳を胸に当てて笑っている。


 南の村の皆さんに別れを告げて合流すると、カッシュさんが腕を組みながらしきりに頷いている。


「いや良い宣言だった。さすがは英雄サマだな!」

「クゥナリアさん、カッシュさんがイジメてきます」

「あはは、駄目だよカッシュ?」

「おま、何でクゥに告げ口を?」


 言っていいんです? と視線で尋ねると、絶対言うなっていう厳しめの視線が返ってきた。


「さぁ、おふざけはこのくらいにしてそろそろ行きましょうか。今度はあえて中央から入って転移準備します。少しでも地図を埋めていく感じで進めていきましょう!」


 それぞれ「応ッ!」と了承を得たので早速転移をするよ。蜂のマーカーが相変わらず多い事この上ないけれど今回に限ってはそこは問題とならない。

 目下の所未確認の生き物との遭遇が特に危惧される。分布も分からないしね。


 僕を中心に五十メートルまで拡大した地図と転移用の村を含めた地図の二つを用意し、森に入った途端蜂に知覚された。

 即座に西端に転移し周囲の把握を行う。


「見える範囲ではぁ異常なしねぇ」

「音は……すまん、あちこちで虫やら鳥やらが反響してて分からん」

「臭いも駄目だな。分かってはいたがごちゃごちゃしすぎてる」

「警戒しつつ進みましょう」


 周囲の警戒を任せつつ僕は周りをしっかりと確認して地図を埋めていく。

 順調に進んでいたのは二キロメートル程だった。ラーシャーさんの耳がピクリと動くと瞬時にその方向へ注意を向けた。


「多数の足音、速度はかなり速い。来るぞッ!」


「ッ!? ヒィィッ!?」

「アリーチェ! 落ち着いて! 気持ち悪いのは分かるけど落ち着いてッ! ただのでかいムカデだよッ!」


 ただのでかいムカデ。そうは言ってみたものの、この森の生き物大きさ間違ってない?

 僕の腰ほどまで高さがあり異常なほど長い。硬質な体が木々に擦れ森が悲鳴を上げるッ!


 ギギイイイィィィィッッ!!


 こちらを餌と見なした巨大ムカデが高速でこちらに突っ込んでくるッ!

 カッシュさんが一瞬で前に出て正面から盾でぶつかるッ!


「ウルアアアアアァァァァァッッッ!!!」


 ドゴガアアアアァァァァッッ!!


 衝撃で仰け反った巨大ムカデを横目にラーシャーさんが叫ぶ!


「エルナー今のうちに逃げるぞ!」

「わかり……ッ!」


 ふと、昨日の事が脳裏を過った。逃げてばかりじゃないか? あぁ、今更ながらムッとしてきた。

 剣を引き抜き魔力を練り上げる。刃先を地面に滑らせて木々を蹴って巨大ムカデの胴体部分の真上に跳ぶッ!


 まっすぐ落ちるよう調整して枝を蹴り、その勢いに腕力も乗せて魔技と共に振り下ろすッ!


「『岩杭』ッ!」


 刃を滑らせた地面が捲り上がって、追随する軌跡を描いて巨大ムカデに突き刺さるッ! 練り上げられた魔力に呼応した土は、押し固められ岩にも劣らない硬度に至るッ!


 ガギャアアアアッッ!!


 森に悲鳴を上げさせていた巨大ムカデの硬質な体が叫ぶッ! その堅牢な護りを穿たれるのはさぞ堪えることだろう。


 巨大ムカデの胴体を地面に縫い付けることに成功した。のた打ち回る勢いで、森が傷を負っていく。

 地面に降り立った僕は続けて剣に『炎舞』を纏わせる。アリーチェも応じて反対側に回り込み同時に脚を斬り落としていくよッ!


 支える脚が無ければ動けまい。生き延びるために残酷になるよ。

 ベテランパーティー達も動いていたよ。眼を射抜き、節足部分を斬りつけダメージを与えていく。


 とどめはカッシュさんだった。仰け反ったままだった頭が落ちてきてまず盾で防ぎ、衝撃で僅かに浮いた巨大ムカデの頭を利き手に持ったメイスが下から叩き潰していた。


 沈黙した巨大ムカデを見やる。改めてその大きさに驚愕するね。


「エルナー。なんで戦おうと思った?」


 僕はチラリと『風の道』の二人を見やる。彼らは思い至ったのか、頷いてくれたよ。


「昨日王都で補給をしてくれている三人に報告したとき、逃げてばかりだと言われてしまったので、つい」


 ほう? と薄っすら笑いながら目を細める『雷牙』を見て、彼らの命運を祈るばかりだ。

お読みいただきありがとうございます!

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