褒賞と拠点
日が暮れてきたので王都のいる『風の道』の三人の下に跳び状況を伝えた。
蜂や蜘蛛にドン引きし、ツチノコで呆然とした後放った一言が痛烈だった。
「逃げてばかりだな……」
あんまりだと思う。思わず項垂れた僕の後ろからとんでもない殺気が溢れたよ。
今回僕と一緒に跳んできた残りの二人だ。
「リーダー、俺たちがどれだけの恐怖を味わったと思ってやがる……今からでも放り込んでもらうか?」
「それはいいですね。魔王様を侮辱した罪は重いです。今からでも秘境の森に送ってもらいましょう」
「お願いやめてあげて? 僕が居なかったら確実に死んじゃう」
思わず素で言ってしまった。けれど全く飾らなかったのがよく働いたのか三人が目を見開いて僕を見やる。
「エルナー、その、蜂についてだけ詳しく教えてくれるか?」
「……まず大きさは赤ん坊くらいですね。それが群れてます」
それだけで顔が引き攣るなんて覚悟が成ってないですね。
「口は凶悪なまでに太く鋭く、お尻の針はまるで杭のようでした」
剣士、弓術士の二人の女性が身震いする。
「クゥナリアさんとルルゥさんが、獣人国『コーカトリア』の星詠みの塔で閲覧した記録によると、太古の生物に似たような『毒蜂』が該当するそうですよ」
「俺が悪かった、それは危険すぎる……」
「ふっ……勝ちました!」
「おめでとうございます、魔王様!」
何かの勝負に勝った僕は今回の補給は置いていくことにした。何も消費していないからね。
そこで王都組から、ギルマスさんから僕に用があると伝えてほしいと頼まれたと言う。
なので今から冒険者ギルドに向かうことになった。
「来たか。なんだ、今日はアリーチェ嬢ちゃんはいないのか?」
「村に残ってますよ。なんですか? アリーチェに何か用でも? それともギルマスさん……あなたもしかしてロリコンですか!?」
「違うわッ!」
ゴンッ! といい音を立てて僕の頭に拳骨が落とされたッ!
待合室の方から女性の悲鳴と、アリーチェが居ないことに落胆した野郎どもの声が聞こえてくる。
痛む頭を押さえてギルマスさんを見やる。
「元第三騎兵団『ゴルプレッジ』の遺品回収、ご苦労だった。陛下も甚く感動しておられた。照合の結果全て本物、現騎士団が責任をもって保管するとのことだ」
「それを教えてくれるためでしたか。ありがとうございます。彼らも古巣へと戻れてさぞ嬉しい事だと思います」
「褒賞を渡したいから登城するよう申し付けられ――」
「まだ秘境の探索がありますのでこれで村に戻りますねッ」
口早に述べて身を翻し颯爽と出口へ……肩が万力で掴まれたかのようにギリギリと音を立てるッ!
「最後まで聞け。陛下にもお前たちが秘境に挑んでいることは伝えた。『ゴルプレッジ』の褒賞も含め支援金を預かってる。ついてこい」
そう言って奥の部屋に僕を連れて行こうとする。僕の肩を掴んだまま。
自分で歩くのでそろそろ離して貰えませんかね、痛みが鈍くなってきたんです……。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
「いや、すまん。握ってたの忘れてたわ」
「すまんで済むと思ってるんですか? 魔王様の肩が壊れたら私達親衛隊が黙ってませんからね」
部屋に入って第一声がこれである。そして聞き捨てならない単語も拾った。
「親衛隊は即解散でお願いします」
「お断りします」
酷くなかろうか。なんか知らないうちに組織化してそうで怖い……してないよね?
と、とにかく今はギルマスさんの話だ。褒賞と支援金だったか、これで気兼ねなく物資調達を頼めそうだ。
水筒のバウ茶で口を潤し――
「褒賞と支援金、合わせて白金貨五枚。白金貨じゃ使いづらいだろうから全て金貨で預かってる。ほら、金貨五百枚だ」
「ブフゥ!?」
――盛大に噴出したッ!
即座にハンカチで噴き出してしまったバウ茶を拭ってくれた。感謝したいところだけど咽てるし、丁寧にハンカチを仕舞ったのを目撃してしまって何も言えなかった。
まってまって、いろいろおかしい。だって僕ついこの間まで銀貨一枚で凄く喜んでたはずだよ?
それが金貨五百枚? 僕はいつ頭を打ったんだ……、さっき殴られわ。そうかその時に頭がおかしくなったんだね!
ギルマスさんが片手で金貨が詰まった革袋を手渡してくる。両手で受け取って、床に落ちた。
ギルマスさんは呆然としている。僕も呆然としている。
「お、おま、何してやがる!?」
「あ、いや、思ったよりも重くて!? すいません直ぐ拾いますッ! ……ッ!? 持てないッ!?」
考えても見れば当たり前なのだ。金は重く、銀貨と同じか少しだけ小さいくらいの硬貨だ。
一枚五十グラムとしても五百枚で二五キログラム。おおよそ子供が持てる重量ではない。
それを片手でぽんと渡してくるギルマスさんが悪いに違いが無いのだ!
もちろんそれを説明したよ。『風の道』も同調してくれた。
その時のギルマスさんは申し訳なさそうに頭を掻きながら言い訳をしてくれたよ。
「重ね重ねすまん……。俺が普通に持てるから大丈夫だと思ってたわ……」
「自分ができるから相手も出来るなどと世迷言はしないでくださいね。僕は僕、ギルマスさんはギルマスさん。違う他人です。年齢も体格も何もかも違うのに自分と同じ能力を相手に求めないでください」
「さすが魔王様です! 並々ならぬ含蓄、この私この胸にしかと刻みますッ!」
「貴女は少し控えめにお願いします」
「お断りしますッ!」
「なんでだよ……」
ともあれ、肝心のギルマスさんには僕の言葉はちゃんと刺さったようなので良しとしておく。じゃないと僕の心が持たない。
こんな時にくーちゃんがいたら癒してもらったのに、と少しだけ留守を任せたことを後悔してしまったよ。
改めて金貨五百枚という馬鹿げた金額を思う。こんなもの持ち運べないしこのまま残しておくのも心許無い。
「ギルマスさん、他の人はこんな金額どう保管してるんですか?」
「他の奴はこんな大金持ってないな。個人で持ってるのはお前くらいだ」
「つかえない……」
「……だんだん遠慮が無くなってきたな? まぁ、気を許してもらったって思えば気にならんか」
……確かに、目上の人に対する態度じゃないね。どうにも心がささくれ立っているようだ。
「申し訳ありませんでした。どこぞの女性に精神攻撃を受け続けてまして、少しだけ苛々して当たってしまいました」
「誰ですかその不快な奴はッ! 捕まえてきますッ!」
お前だよッ! と心の中でツッコミを入れた。ギルマスさんも同感だったのか見合って同時に深々と溜息を吐いたよ……。
「はぁ……。あー、そうだな。ギルドに預けるのも手だが、家を買ったらどうだ? それで金庫に入れておけばいいだろうよ」
「家ッ! そうか、これだと家買っても余るのか……」
「陛下としては、『ゴルプレッジ』の遺品を回収してくれたお前らに居ついてほしいだろうしな。秘境にも期待しているだろう。だからその分も含めた支援金なんだろうさ」
ちなみに王都での一般の家は金貨二十枚あれば大体は買えるのだそう。結構いい家でも五十枚程らしいから貰ってしまった金額の大きさに驚きしかなかった。
ギルドで扱ってる物件があるそうで、その中で僕達に都合のいい物件があった。
内見を明日朝に行う事として一度村に戻り、アリーチェ達に話したらついてくるとのこと。
早朝に集まって王都に跳んだ。借りたままの部屋から出てギルドに向かい、すぐに物件の内見をしたよ。
元々とある商人が持っていた家らしく、使用人と商人とで別れて暮らしていたらしい。一つの敷地に二つの建物があったのだ。
敷地にしても広く、ぎっちり建てればあと二棟ほどは収まりそうな感じである。
どう考えても優良物件ではないだろうか。これで金貨四十枚というのだから驚きである。
「中にも入ってみよう!」
そう言って本宅の方へ入っていったアリーチェが涙目で駆け出てきた。
「ユーレイがいるッ!」
そう言って開け放たれた戸を指さすのでそちらを見やると、やたらとゴテゴテした装飾を纏ったおっさんがこちらを指さして怒鳴っているようだ。だが声は全く聞こえないし、宙に浮いているから彼がユーレイの正体なのだろう。
そうか、事故物件か。ならこの値段は仕方ないね。
「『神々の寵愛の焔』」
それじゃ購入手続きをしに行こうか! 僕達の拠点がついにできたよ!
お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!




