ミーティング
父さんとガイルさんにバウ茶を勧めた次の比の朝、食事と一緒にバウ茶が出てきた。
どうやら母さんも気に入ったらしく機嫌良さげに飲んでいたよ。
明日いよいよ森に挑むためこれから打ち合わせをすることになっている。
小屋に向かう途中、村のあちこちでバウ茶の話題が聞こえてきた。ガイルさん広めるの早すぎない?
「エルナーです。入ってもいいですか?」
「エルナー君いらっしゃい。バウ茶美味しくいただいてるよ!」
「それはよかったです。それにしても広がるのが早すぎてびっくりですね」
元々住んでた村人に広まる分はまだわかるけど、避難してきた方達にまで広まっていたのでびっくりしたのだ。確かに気疲れしている中でバウ茶の清涼感は効果的だとは思うけどね。
獣人向けに調整できるという事で『雷牙』にも大好評のようだった。
「体調は良さそうだな。予定通り明日から挑むか?」
「そうですね。物凄く広大な森のようなので少しでも進めていきたいですし」
「地図を埋めさえすればぁ、やりようはあるものねぇ」
「エルナー君限定で、だけどね」
そうですねぇ、と応答しつつバウ茶を啜る。はぁ、落ち着く。
アリーチェと『風の道』の皆さんを待つ間、気になっていた事を聞いてみようかな。
「獣人の国ってどんなところなんですか?」
『雷牙』の皆が顔を見合わせた後、不思議そうに僕を見やる。
「まぁ、そうだな。獣人国『コーカトリア』の首都『キアラ』には星詠みの塔があってな。実は使徒様が降臨成された際にも星詠みの結果分かったことだったんだ」
「星詠み、ですか?」
「星は運命を示すんだって。研究所の手伝いに行ったときにアズル所長がそう教えてくれたんだよー」
星詠みの塔に研究所があって、そこの所長がアズルという人らしい。羊の獣人でお髭がふさふさなのだとか。ぜひ会ってみたいね。
「お陰で俺たちはこうして使徒様の下で動ける栄誉を賜ったわけだ。星詠みに携わる彼等には感謝しかないな」
『私としても信頼できる者が、エルナーと共に在るのは良き事ですの』
くーちゃんの言葉に感動したのか、深く頭を下げてしまった。
「お待たせしましたっ! ……エルナー何したの?」
「何もしてないよ!?」
強いて言うならバウ茶飲みながら獣人国について聞いてました。
それにしても凄いタイミングで来たねぇ……。
『風の道』も来て全員が揃ったのでミーティングの開始だ。
「まず、移動ですが森の付近までは僕の地図魔法で行きます。……その節は申し訳ありませんでした。遠目から見た森の様子ですが、木々は黒く先の『悪食の森』に似通っているように思えます」
「ならアンデッドを警戒する必要がありそうだな。全体が『悪食の森』のようだったらかなり分が悪いと見ていい」
「秘境の転移対策は魔王様にしか対応できなさそうですがどうでしょうか?」
「それについては一応考えがあります。ですがそれはこのミーティングの後でお話ししますので今は置いてください」
「分かりました。話の腰を折って申し訳ありません」
「いえ、必要な事ですから。……その、もっと砕けてお話ししていただけるとありがたいのですが」
お断りしますって胸を張るところ間違ってる気がする。この女性なんだってこんなに僕を敬うんだろうか……。
「『悪食の森』みたいに焼いて進むの?」
「ん-、それなんだけどちょっと懸念があるんだよね。とはいえ、いざとなったら『炎舞』期待してるからね?」
「うんっ! それで、懸念ってなにかあったの?」
「うん、地図を見てくれれば分かると思う」
地図魔法を可視化して皆に見せる。さすがにすぐに気づいたようで難しい顔になっていった。
そうなのだ。村から南に位置する部分が最も濃く、東西に進むにつれて緑が目立つようになっていくのだ。
「ヒトに対しての憎しみなのか、黒い部分は生存圏に近い部分が最も濃いです。恐らくですが元々は普通の森だったのではないでしょうか」
「なるほどな、それで焼くことに躊躇いがあるわけか」
秘境を踏破した際森が戻るかもしれない。その時に焼いてしまっていたら森林破壊に他ならないからね。
いまさら何をとも思うけれど『悪食の森』は別である。害獣を排除するのと同じという考えだ。
「森林破壊をしたいわけではありませんからね。とはいえやむを得ない場合は別です」
「それでいいと思うよー。生き延びることが最優先で行動するようにね」
「「はいっ」」
クゥナリアさんの言う通りだ。まずは生き延びることが大事だね。
大まかな行動方針はこんなところかな。細かいところはまた改めて話し合おう。
「続いてですが、おそらく長期の挑戦になると思います。そのことで何かデメリットなんかは考えられますか?」
「確実に物資が不足すると思うぞ。案としては何人かは物資の調達で王都に詰めておいた方がいいな……」
「なるほど……それは確かにそうですね。となると誰が残るか、になりますね」
「俺たち『風の道』は森のような障害物が多い場所は不得手だからな……俺たちが残る「「俺(私)は行きます」」……という事なんだがどうだ?」
弓術士の二人が来てくれるようだ。男性の方はアリーチェに熱を上げてる危険分子、女性の方は僕を魔王と呼びだした元凶。実力は申し分ないだけに断れない……。
「……わかりました。ありがとうございます、一応日が暮れる頃には転移して戻るつもりなのでその時に物資を取りに伺います。皆さんのマーカーを目印に跳びますので宿の部屋の中などに居て貰えると助かります」
「わかった。なるべく早く部屋に戻るようにしておく。一応今日から王都に詰めたいから送ってくれるか?」
「分かりました」
その時に状況を共有すれば無駄が無くていいかな。ともかく有難い事にこれで物資の心配はなさそうだ。
昼を少し過ぎる頃に細かい打ち合わせも済んだ。流れるように疑問と解決案が出てきて実に有意義な時間だったと思う。
軽く食事を摂った後、いよいよ転移対策の案を話すよ。
「では、転移の対策ですが初めに言っておきますが、防ぐことはできません」
「ん? でも『悪食の森』の時は、ってそうか。あの時苦しそうにしてたのが理由か」
「はい。端的に言えば無理矢理阻止すると激痛が走ります。あの時はどうやら僕を遠ざけようとしていたみたいだったので僕だけで済みましたが」
表情を顰めてしまわれた……けどあの時全員があの激痛を受けていたら危なかったと思う。
そのことを説明して何とか納得してもらったよ。
「どうするかと言えば、先に言った考えについてですね。皆のマーカーを操作して元の場所に再転移を考えてます」
「なるほどぉ、あえて受け入れて対応するんだねぇ」
「後手ではありますが、一番害の無い方法だと考えてます。あともう一つ緊急時の避難についてなんですが……これは実際見てもらった方がいいかもしれませんね」
という事で外に出て説明をする。アンデッドの大群との戦いのときに、『火精』をクゥナリアさんの援護に向かわせたときに用いた方法だ。
座標を設定し、その地点もしくは座標と座標の間を予め設定したマーカーが通ると指定の場所に転移するという方法。
何らかの危険が迫った際逃走先に設定すればいいだけなので手間が無いメリットがある。
その説明をしたうえで設定した転移ポイントを可視化し、転移先を五十メートル先に設定。
テストの為僕とアリーチェが転移役、ラーシャーさんのマーカーを外し、敵役として交互にポイントを通過してもらう。
結果、僕は転移し、次に通過したラーシャーさんはそのまま。その後に通過したアリーチェは転移してきた。成功である。
「これは凄いな。ずいぶん生存率を上げられるんじゃないか?」
「そうあれば嬉しいですね。とりあえず、これが僕が採り得る最善です」
これで最低限は形となっただろうか。あとは秘境に挑み、課題を乗り越えていこう。
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