お姉様との邂逅
本日2話目です。
ハイハイができるようになりました。
これは大きい。行動範囲が広がるのは素直に嬉しいし、レスター兄様のいる場所でもそうだったけどある程度思うように体を動かせるというのはとても素晴らしい事だ。
初めてハイハイをしたら両親は本当に嬉しそうにはしゃいでいたよ。
「エルナーったら天才なのかしら!」
「そうだなっ!うちのエルナーは天才だ!」
俗にいう親ばかというやつ……でも両親が喜んでくれるなら僕も嬉しい。
前世では苦労掛けてばかりだったからね……。その償いも含めて今生では幸せにしてあげたい。
父親の名はレックス。筋骨隆々のイケメンである。レスター兄様と言い父と言いイケメン率高くないだろうか。
髪が真っ赤なのが非常に気になるがこの世界では珍しくはないのかもしれない。
特筆するべきはその特徴的な赤髪のポニテ、ではなく玄関らしき場所に立てかけてある剣である。
以前連れ込まれた部屋にも、僕が普段過ごしている部屋にも剣がおいてある。剣マニアだろうかと思ったがどうにも違うらしい。
父レックスは、どうやら自警団のような組織と近くの山へ狩りなどを行う狩人を兼任しているようだ。
日によって持っていく剣が違うのでそれぞれに用途があるのだろう。
母親の名はレナ。艶やかな長い空色の髪がとても綺麗な美人さんである。イケメンと美人さんの子供なので僕も将来期待できそうだ。
母レナは予想通り魔法使い。どうやら有名らしく時々弟子に! と玄関から聞こえてきては母が丁寧に断っている。この間来た青年は断られてる最中、母の胸を凝視していた為か、素晴らしい笑顔で吹き飛ばされて肥溜めに見事落ちた。
そんなことがあったため、おそらく母の容姿は男性が凡そ好きであろうものであると判断した。
僕? 分かるわけない。前世十歳なのだから……。いやまぁ、大きいなぁとは思っていました。
そんな母であるが、僕はとても尊敬している。何故か? それは寝物語に自身の冒険譚を聞かせてくれるからだ!
「その時、レックスってばボアの突進を正面から受けちゃってね、ああ、駄目だと思ったらどうしたと思う?」
わかりませんお母様。あと喋れません。続き気になるので早く! 早く!
「ボアの顎蹴り上げて難を逃れたのよ! でもそのボア、私のほうに飛んできてね? びっくりして風魔法で吹き飛ばしちゃった」
……可愛く言ってるけどとんでもないですお母様。父さん要らなかったのでは……?
「怒った私の機嫌を取ろうとしたのかしらね、レックスが自主的に血抜きと解体をしたのよ。その手際が良くて惚れ直しちゃったのよねぇ」
……血生臭いですお母様。どこで惚れ直してるんですか。僕も解体の技術が欲しいです。
「ふふ、本当に私たちの冒険者時代の話が好きなのね。嬉しそうにしちゃって可愛い。エルナーがもう少し大きくなったら、魔法を教えてあげましょうね?」
お母様大好き!
さて、最近の現実逃避は置いておいて、少し前にあったことだ。
おかしいと感じたそこのあなた。えぇ、正しいです。
僕はその「少し前」まで言葉がよくわかってなかったのだから……。
日課となった地図魔法を眺め続けていると、急に力が抜けていった感覚があった。
覚えがあったのは前世のこと。金色に色づく棚田を見た後、倒れた日のこと。
その日のことを思い出した恐怖で震えきつく目を閉じてしばらく、誰かに抱かれる浮遊感を味わった。
父さんではない。父さんはこんなに細くて柔らかくないし。母さんでもない。母さんはこれほど足りなくな――。
「小さくて悪かったわねっ!!」
痛いっ!? 落とされた!?
「あの男……レスターと名乗り始めたのかしら。あいつがお前の可愛さを自慢してきたから興味がわいたってのに……」
私だって普通にあるわよ、とぶつぶつと呟く美少女がいる。出会う人みんな美形多くないだろうか。まぁそれはいいとして、彼女のいる場はレスター兄様のいる場所とよく似ている。違うとすれば全体的に淡い緑色の空間であること。
そしてなにより、彼女の周囲はほんのりと橙色の光に包まれているのだ。それはあの日の夕日の色によく似ていて……。
―――綺麗。
そう素直に思ったのだ。思ってしまったのだ。
「……ふん、少しは分かるじゃない。まぁ、あいつ、レスターの言ってることも分からなくはないわ」
お顔が真っ赤ですお姉様。ところで質問があるのですがいいですか?
「お姉様!? な、なによ質問ってっていうか赤くなんてなってないわよ適当言わないで!」
あ、はい。最後早すぎてよく聞き取れなかったですけど、お姉様は神様ですか?
「またお姉様って……。そうね、その認識でいいわ。それと私が不自由するからヒトの言葉プレゼントよ。安心して?この世界線のヒトの言葉は統一されてるから」
……なんて? 言葉のプレゼント? なんで? どうして? そんなの望んでないのに……。
「え、え!? なんでそんな落ち込んでるのよ!? 言葉通じないと不便でしょう……?」
僕は、学習していきたいんです。見て、聞いて、触れて、無知を、未知を、既知に変えるために。
それが僕の望む冒険の在り方だから……。
「え、あ、ごめん。ごめんね? 聞いてはいたけど、そこまでだなんて思わなくて……」
おろおろと狼狽える神様……女神様? を眺める。
ショックは受けたけど実のところこればかりはありがたいと思っていた。だって、会話が分かればそれだけ早く知識を得られるわけで……。
落とされた腹いせにちょっと揶揄う気持ちだったのだけど、動揺してる女神様を見ていると罪悪感が……。
お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!




