休息日
三日間の休息取ることになりました。
その三日間、僕をラーシャーさんとカッシュさんが交代で監視することになったよ……。
なお、僕のお尻が皆の前で晒されるという危機は、無事逃れることに成功したよッ!
休息日の間に必要な物資を買い揃えようという事でアリーチェ、ルルゥさん、カッシュさんと王都に転移する。その際、僕は気づいてしまった事がある。
この時の物資調達もそうだけど、それ以前にも宿代とか含めて僕とアリーチェ銅貨一枚も払っていない……!
よくよく考えてみれば、僕が王都で受けた仕事は溝さらいの一回のみだった。受け取った報酬は確か銅貨十枚。加えてランクアップだったね。もしかして僕達、寄生してる……?
「ルルゥさん、その……秘境の件が済んだらたくさん依頼受けて返しますから……」
「え? あー、いいよぉ。冒険者歴の若い子達から貰うわけにはいかないからぁ」
「うぅ、ではせめてラーシャーさんにルルゥさんの素晴らしさを懇切丁寧に説きますッ!」
「やめてねぇ!?」
でもいつかは必ずお礼をしないといけないからね。後でアリーチェと相談しよう。
物資を買っては地図魔法で村の小屋に送り、を繰り返してしばらく。
村で整理をしてくれているクゥナリアさんが小屋から離れていくのを地図魔法で確認した。
じゅうぶんに揃ったという合図としての取り決めだ。
これで本日の王都での用事は済んだことになる。
「時間がだいぶ余りましたし、溝さらいの仕事受けてきてもいいですか?」
「……無理のない程度にならいいのか?」
「まぁ、僕は動きませんし……。ただ疲労困憊にはなりそうですが」
『規模を前回より小さくするですの。身体強化出来るアリーチェとカッシュがすぐ寄せれば時間も少なくて済むですの。カッシュ、いいですの?』
「はっ! 喜んでお手伝いいたしますッ!」
カッシュさんが手伝ってくれるなら心強い。ただカッシュさんの周りに風を展開して臭いを遮断しないときついだろうから僕の方も集中力が必要だ。
冒険者ギルドに入り受付のお姉さんに溝さらいの仕事をする事を伝えて受理してもらい、用水路へと向かう。
そこでは思いがけない光景が広がっていた。なんと近所の人達が自主的に溝さらいをしていたよ!
顔の下半分を布で隠した集団が長いトンボを使って底のヘドロをある程度まとめて分けている。
見知ったおじさんもいた。僕達に気づいて声をかけてくれたよ。
「坊主! 今日は来てくれたのか!」
「えぇ、日が空いてしまって申し訳ありません」
呵々と笑い構わないと言ってくれたため、僕もアリーチェも笑顔を返したよ。
では早速動くとしよう。水の場を作り用水路の水を紐に例えて摘まみ上げるイメージを放つ。
山なりに流れが動き、その隙に集まった人全員でヘドロをまとめ上げくーちゃんが即座に燃やした。
煌々と燃える橙色の炎がヘドロのみを包むように展開される様は見事の一言だ。
炎が消え、そこに焦げの一つも見当たらないのを確認した僕は水流をゆっくりと正常の状態に戻していく。
額を流れる汗を、ルルゥさんが拭ってくれたので魔法に集中できたのは非常に助かったよ。
予定よりずっと広範囲を焼却してしまったけど、僕の方は以前よりはずっとましな状態だった。
一度経験したからだろうか、なんとなくだけどコツのようなものが分かってきた。 次はもっと効率化できるかもしれない。
「ふぅぅ。今日はこれで。皆さんお疲れ様です!」
「「「「お疲れ!」」」」
疲れたけれど、なんだか清々しい。こういう動きがあるとなんだか嬉しくなるね。
冒険者ギルドに戻って完了した部分の説明をして報酬をもらった。
一回の溝さらいだったけどやはりというか、進み具合が普通以上だったため色を付けてくれたよ!
なんと銀貨一枚! アリーチェも目を輝かせて銀貨を見つめているけど、気持ちは分かる。
王都でやることは今のところないので村へと戻って、今日はゆっくりと過ごす事を強制された。
家にいた母さんに仕事をして銀貨を貰った事を報告したら、にっこり笑って部屋に連れて行かれ、優しい声で「安静にしてなさい?」と言われてしまっては仕方ない。
決して、母さんの迫力に圧された訳ではないのだ……。
こうしてめでたく、母さん管理のもとラーシャーさん、カッシュさんという監視付きの療養が始まった。
二日目は何事もなかった。散歩程度は許されたので村を歩くことにした。
「あれ? ラーシャーさん、向こうからなんかいい香りがしない?」
「あー、俺にはちょっときついな……というか、これ薬湯の匂いじゃないか?」
そうか、向こうはバウ爺さんの家だったね。ちょっと寄っていこう。
「こんにちはー。バウ爺さん今いいですか?」
「ん? おうおう坊か。良い所にきたのー」
「良い所に? あ、もしかしてお茶が出来たんですか?」
「おうおう。良い感じじゃぞ、ほれ」
差し出されたお茶を見やる。淡い緑色のお湯で薬湯の匂いより幾分柔らかい。
少量を口に含んでみれば僅かな苦みはあるものの、清涼感が鼻を抜けていくのが心地いい。
もう一口を少し多めに飲んでみればじんわりと体が温まる感覚があった。
「これは……美味しいですねっ! 鼻を抜けていく香りが素晴らしいです! 薬湯では青臭さもありましたけどこのお茶には無いのでとても飲みやすいですね」
「絶賛してるな、そんなに美味しいのか?」
「美味しいですよ! あ、でも獣人の皆さんには香りが強いのかな……?」
バウ爺さんがラーシャーさんに無言で器を手渡す。飲んでみろ、という事なのだろうけど大丈夫なのだろうか。
何かに気づいたラーシャーさんが少し口に含むと、驚いたように目を見開いた。
「これは……獣人に配慮して調整してくれたのか。香りの強さは気にならないどころか心地いい。あぁ、これは落ち着くな」
おぉ、凄い! 獣人にも飲めるように調整できるなんてさすが調薬に長けたバウ爺さんだね!
僕達が絶賛したからかバウ爺さんが満足気に何度も頷いていたよ。
そしていそいそと作業台で何かを書き綴った紙を僕に渡して一つ頷いた。内容は何とこのお茶のレシピだった!
つまり、このお茶を広めてこいという事だろう……。是非とも任せていただきたい。
目を合わせて一つ頷くと、僕とバウ爺さんはニィッと笑いあった。
「内容知ってるからいいが、端から見たら二人とも危ないヤツだからな……?」
僕とバウ爺さんは驚いてラーシャーさんを見やり、そしてお互いを見て。可笑しくなって三人で笑いあったよ。
というわけで家で実際に作ってみることに。幸いにして材料は近くの山に自生しているのでそれぞれの家にある程度ストックされている。
レシピ通りに作り完成したお茶を少し移して試飲してみる。うん、ばっちりだ。
これは村の仕事をした後に飲んだら凄く美味しく感じるんじゃないかな、なんといっても元が薬湯だしね。健康にもよさそうだ。
部屋を出ると丁度父さんが帰ってきたところだった。ガイルさんもいる。
良い所に帰ってきてくれた二人に試飲してもらおうかな。
「おかえり父さん。ガイルさんもいらっしゃい」
「ただいま。ちゃんと安静にしてたか? ……おい、目を逸らすな」
「ハハハッ! やんちゃなくらいが子供らしくていいじゃねぇか! それでエルナー、その手に持ってるのはなんだ?」
「バウ爺さんが作ったお茶だよ。レシピ貰って作ったんだ、美味しいから飲んでみてよ」
薬湯の味を思い出したのか渋面を浮かべて僕から器を受け取った二人が、意を決したかのようにゆっくり飲む。
次の瞬間には目を見開き、器を見やり、そしてまた煽る。
「なんだこれ、美味いなッ!?」
「なんだか体の疲れがほぐされていく感じだな!」
僕の何気ない一言をここまで昇華してくれたバウ爺さんは本当に凄いと思う。
「美味しいでしょ? 常飲できるよう薬湯を調整したお茶なんだ。これ広めようと思うんだけどどう思う?」
「いいな、これがいつでも飲めるなら嬉しいぞ」
「だな。俺も広めるの手伝うぞ! 茶の名前なんにする?」
「ここはこの素晴らしいお茶を作ったバウ爺さんにちなんで、『バウ茶』でどうかな?」
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