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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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地図魔法運用方法

 瞼越しに光を感じ取ったからか、意識が浮上してくる感覚があった。

 背中は固い感触なのにお腹の方はとても優しい温もりがある。


 目を開き、最初に飛び込んできたのは白い雲が揺蕩う青空で。

 僕はしばし、その景色を何も考えずに眺めていた。


 ふと隣がもぞもぞと動き視線を向ければ見知った黒髪の少女が眠っている。

 僕と、アリーチェの上にはくーちゃんが覆いかぶさっていたよ。


 はて、僕はあの邪悪な森にいたはず。なのに空がはっきりと見えるのは何故だろう。

 疑問を解きたくはあるのだけど、この温もりをどかすのは正直言うと凄く躊躇(ためら)われる。

 冬の日の朝の布団。そんな記憶が過った。


 眠る前に思い出したことがあった。懐かしく優しい記憶。僕を愛してくれた大切な両親の記憶。


 一度意識すれば前世の記憶が溢れてくる。楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと、辛かったこと。

 そして何よりも、五歳の頃に見た、黄金の棚田の風景が強く思い出された。


 強く冒険に憧れた瞬間だった。酷く後悔した瞬間だった。


 今でさえ、お母さんをあんなにも泣かせてしまった事を後悔している。

 それからも溢れ出てくる前世の記憶に感情を揺さぶられ続けて、視界が滲んだのを自覚した。


 この気持ちが悪い事であるはずはなく。けれど今はそうしている場合でもない。

 あぁ、懐かしい。愛おしい。寂しい。苦しい……。いろんな感情に翻弄されてしまっている場合ではないのだけれど、僕は弱い。自力でこの優しい想いの洪水から逃れるのを躊躇ってしまっている。だから――。


「お、目を覚ましたかエルナー。……なんだ、悪い夢でも見たか?」


 ――ラーシャーさんのこの何気ない言葉が何よりも嬉しい。僕を、現実に引き寄せてくれるから。


「おはようございます。寝入ってしまいました。あとこの温もりから抜け出せません」

「おはよう。まぁ色々仕方ないだろう。状況を知りたいのなら起きてくることだ」

「このまま聞くというのは……?」

「寝たまま人の話を聞くのを良しとするんだな?」

「大変申し訳ありませんでした」


 ラーシャーさんの言うことはもっともだった。


 アリーチェも起きてみんなと合流し、状況の把握に努めた。

 どうやらアンデッドを狩っていくうちに徐々に森が狭くなっていったらしい。

 理由はとうとう分からなかったけどアンデッドを倒して魔力を散らす方法は確かなのだと分かった。


「じゃあ、秘境はもう大丈夫なの?」


 アリーチェの疑問も分かる。邪悪な森が無くなったともなればヒトの生存圏を広げられる。

 けれど相手は秘境。凄く苦労はしたけどあのくらいでどうにか出来るのならば既に各地の秘境は踏破されていてもおかしくはない。


「それなんだが……。さらに南に妙な森があるとルルゥが言っていたな。恐らくはそこが、本来の秘境なんだろう」

「やっぱり……。では、一度近づけるだけ近づいて地図魔法で帰りましょう」


 僕がそう言うと何故か皆半目になって僕を見やる。


「却下だ。ここで一度戻り体調を整えてからだ。エルナー、お前は自分が思ってる以上にボロボロだからな? 今はまだ興奮状態が残ってるんだろうが、しばらくすると辛いぞ?」

「そうです魔王様。出来ることは限られてる状況で、無理を通しても余計な負担を増やすだけです」

「魔王様はやめてください……。けど、そうですね。焦りすぎていますね……」


 一度引くのが確かに正しいと思う。実際に、軽く見た程度でさえ僕の体はボロボロだった。

 吹き飛ばされたときあちこち痛めたみたいだ。折れてないのが幸運といったところか。


 あと、お断りします! と胸を張って言うのはどうかと思うよ……。


 周囲の警戒を忘れず、けれどどこか余裕をもって村に戻る道すがら、あの邪悪な森が『悪食の森』と呼ばれていたことを教えられた。

 ありとあらゆるモノを森の養分にしてしまうようで、驚く事に無機物でさえも取り込んでしまうそうだ。


 けれど森が最も先に取り込むのは生き物の死体だという事が、昔行われた観測で知られていたらしい。

 その嫌悪から『悪食の森』と呼ばれるようになったという。


 『悪食の森』には意思があったように思う。でなければあれほどの憎悪を撒き散らさないだろうしアンデッドしかいなかった理由も分からない。


 あの森が秘境の末端だったとして、なぜ秘境はあんな森を生んだのだろう。

 『悪食の森』はヒトに対して憎悪を持っていた。昔秘境に対してなにかをやらかしたのだろうか?


 疑問を抱いたまま村に到着した。父さんと母さんが僕たちを出迎えてくれて怪我はないかと心配してくれた。

 僕の状態を見て母さんの表情が引き攣ったのを見逃さなかった僕は、すぐに父さん側に寄って報告をする。


「『悪食の森』は消えたよ。だけど、たぶんしばらくするとまた出てくると思う」

「そう、か。もう少し詳しく頼めるか?」


 『悪食の森』で起きた一連の事、骨で出来た化け物の事、そしてさらに南に妙な森がある事。

 それらをある程度にまとめてから報告すると父さんの表情が険しくなった。


「転移に化け物。それでいて更に南に妙な森。『悪食の森』だけでこれまでどれだけの被害があったのか分かったものではないが、それ以上がその森にありそうだな……」


 転移だけでも危険なんだが。その呟きには同感だ。各個孤立を強制させて排除するという殺意剥き出しの初手は、事前に転移について可能性を訴えておいて本当に良かったと思う。


 それにしても、だ。撤退について話し合ってはいたけど今回全く機能しなかった。

 そもそも退いてもすぐ転移させられたら無意味になってしまうし、だからと言って地図魔法で対処すればあの苦痛が待っている。

 誰もが出来る方法で、と拘るのは間違いなのかもしれない。


「どうした?」

「あ、うん。僕の地図魔法をどこまで使っていいのかって悩んでて」


「そんなもん、使いたいように使えばいい。そいつも含めて『エルナー』だろう」


 これほど父さんの言葉が僕に刺さったことはあっただろうか……。いや、失礼かもしれないけど思いつかない。

 とはいえ地図魔法も含めて僕か。当たり前の事だけどすっかりと頭から離れていた。

 地図魔法を使わない方法を考えておきながら、各所で使ってるし今更な気もしてきた。


「うん……そうだね。もう自重しないで行くことにするよ!」


 そうと決まれば出来ることを考えていこう。赤ちゃんの頃考えてた方法をいくつか運用できるか見当も含めて――。


「いや、少しは自重したほうがいいと思うぞ」


 節度は、大事だよね。

 一応案をまとめて今使えそうな物から考えていくことにする。

 まずはマーカーと転移の組み合わせで移動は既に実行済みだ。同じように物資も転移できるのも確認している。

 これを利用してある程度まとめた物資を小屋に集めて、手元に転移させる方法が採れそうだ。


 他には何ができるだろう。そういえば平面の地図だけど立体にもできるかな――変化したね。さすがレスター兄様がくれた魔法……。

 微妙な地形の変化まで記録してくれてる。これ俯瞰してみることも出来るだろうか。出来たら便利なんだけど――できた。


 可視化してるからだろう、皆見てる中ちょっとした思い付きがあって、それを試してみることに。


「『イラプション』」


 無音の噴火が地図魔法上で映像として確認できた。これ現在の様子が映ってたんだね……初めて知ったよ。

 ともあれ、これって所謂マップ兵器が使えるのではないだろうか?


「もし地図魔法上で広範囲魔法を撃ったら酷い事になりそう」

「おいやめろエルナー! その発想は狂人の発想だッ!」


「大丈夫だよ父さん、そんなことしないから!」


 地図化されてない場所に魔法を行使できなかったからね……残念。

お読みいただきありがとうございます!

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