化け物戦・後
『ギャガアアアアアアアアッッッ!!!』
巨大というのはそれだけで脅威だ。なにせその体に押し潰されたら簡単にプチッといくだろう。
ましてや、骨で出来ているせいであちこち尖っていたり凹凸があったりと禍々しい事この上ない。
さっきまでは人型だった。だからこそ動きはなんとなく読めたし可動域も予測は付いていた。
けれど今は蛇型だ。動きの予想なんて付かないし攻撃方法なんて尚更分からない。
本当に、悪意に溢れすぎじゃないだろうか。さっきと打って変わって僕達は逃げ回るしかできていない。
隙を見て攻撃しようとも思ったけれど、避けた先で蛇の体がうねって追撃してくるのだ。
距離を取ってどうにかしようと思えば今度は体を構成している骨を飛ばしてくる。本当に意味が分からない。
さらに、僕にとっての不運がある。
剣が刃毀れしているのだ。回転した硬質物に刃を当てたらそりゃ毀れるよね……。
形態が変わるだけでここまで苦戦する物なのか。対策を考える暇さえないッ!
さっきから『火精』をぶつけているんだけど、効果が見られない。
というのも爆発の衝撃の対策なのか、地面に接する部分に骨でスパイクを作っていた。
ダメージがそもそも見込めていなかったけど動きを制限できていたから優位に進めていた。そこを突かれた形だ。
「すぅ……はあああッ!!」
ドゴオオオオオォォォッッ!!
『ギイイイイイィィィッ!?』
「ええぇぇぇぇぇッ!?」
何今の!? 斬撃飛ばしたの!? いや、熱を放った? どういうこと!?
「って危なッ!?」
危うく体当たりを受けるところだった! あまりに衝撃的過ぎて立ち止まってたよ!
けれど、気づきもあったよ。アリーチェの攻撃が通じている。
熱量。これが答えか。
巨大な蛇の一部に焦げたような痕があった。『火精』の熱量というのは拡散する。だからこの化け物蛇には衝撃しか伝わっていなかった。
けれどアリーチェのあの攻撃は熱量が集中していた。
「『マッドラーヴァ』」
ジュウアアアアアアッッッ!!
『ギイ!? ギイイイイイッッ!!!』
効いた! ようやく見つけた、反撃の糸口ッ!
「アリーチェ! 熱だ! 集中した熱がこいつに効くッ!」
「ッ! はああああッ!」
赤熱した泥が動きを封じ、アリーチェの攻撃が化け物蛇を焦がしていくッ!
『ギギイイイイイイイッッッ!!!』
化け物蛇が暴れるッ! 赤熱した泥が飛び散って退避を余儀なくされてしまった!
泥の熱が散らされていく。魔法が形を失ってしまったッ!
パターンを外された。この方法はもう取れないと考えたほうがいい。
どうする、足止めの方法が思いつかない……ッ! このままじゃジリ貧になってしまうッ!!
「ウラアアアアァァァァッ!」
ガイイイイイィィィィンッッッ!!!
「「カッシュさん!!」」
「おう! 待たせた!」
凄い、盾を化け物蛇の動きに合わせて上方に受け流してる! メイスを下から叩きつけて砕きながら化け物蛇の体の下をくぐってる!
初見でそんなことが出来るものなのかッ! これが、ベテランッ!!
矢が化け物蛇の骨の僅かな隙間に撃ち込まれていく。ルルゥさんと『風の道』の三人だ! まさに緻密、次々と骨の隙間に埋め込んでいくけど……意図が分からない。
剣士の二人とクゥナリアさんが護衛をしていて、ラーシャーさんは……何かを狙ってる?
「……今ッ! カッシュ!」
「おうッ!」
一瞬で入れ替わった!? 身体強化を使いこなしてるッ!
「『放電』ッ!!」
バリイイイィィィィッッ!!!
『ギギギギ………ッ!!』
「エルナー! 蛇には蛇だ! やれッ!」
「え……、あっ!」
そうか、そういう事か。鏃は鉄だ。電気の通り道を頭から尻尾まで作ったのか!
ラーシャーさん、即座にこんな作戦を立てていたのか……ッ!
「『雷蛇』ッ!」
ラーシャーさんの放った電気を掌握する。ずっと尊敬してきた人の魔力だ。僕はすでに解析を完了しているよ。
雷の蛇を化け物蛇の頭に叩きつけるッ! 圧倒的なエネルギーの熱量をその大きな体の内側から味わえッ!
ズドガアアアアァァァァンンッッッ!!
雷が奔る轟音が化け物蛇の骨を焼き焦がしていくッ!
「ハァ……ッ、ハァ……ッ!!」
あぁ、心臓が破裂しそうだ。体が熱い。全力で魔法を使いすぎた。
でも、これでこの化け物蛇はもう――。
黒い靄が、覆う。
ザザザザザザザザザッッ!!
ッ!? 秘境に入った時の転移の前兆!?
地図魔法を操作して座標の固定を実行ッ!
ギシィィッ!!
「う、ぐうぅぅぅッ!?」
「エルナー!?」
体中が軋むッ! この痛みは、覚えがあるぞ……ッ!
忘れられるものか、これは前世の時に感じたものだッ!
転移は存在そのものを点と点で入れ替える。それを強制的に止めるという事は、魂が乖離しかけるという事。
危険だ。けれども他の皆は大丈夫なようだ。という事は、秘境は僕を危険視したという事だろう。僕だけを転移させようとした訳だ。
光栄じゃあないか。悪意に満ちたこの森が僕を恐れたわけだ。
けれど。秘境の方もただでは済まなかったみたいだね。
巨大蛇を覆っていた黒い靄が祓われた。橙色の炎が代わりに包んでいたよ。
鋭い視線で化け物蛇を睨んだくーちゃんが焼き祓った。ありがとうくーちゃん。よく今まで我慢してくれたね。
これも、冒険だからね。くーちゃんはそんな僕の想いを慮ってくれていた。
化け物蛇の骨が解けていく。ガラガラと音を立ててちょっとした白い小山が出来ていたよ。
くーちゃんが僕の下に飛んできたとき、秘境が最後の足搔きを見せてきた。
全ての骨がアンデッドとなって――散り散りに駆けて行った。
「……? いったいどういう……」
「エルナー君。ボク達はあのアンデッドの殲滅をしてくるよ。ここで使徒様とアリーチェちゃんと一緒に待っていてね」
「それなら、僕も」
すべて言い切る前にラーシャーさんに優しく止められた。
「だめだ。俺たちが来るまでずっとあの化け物と戦ってたんだろう? 今も理由は分からんが俺たちを守ってその有様だ。対等と思ってくれるなら、頼ってくれ」
温かい。前世の恐怖が冷やし切っていた僕の心に染み入ってくる。
「は、い。よろしく、お願いします。皆さん、ご武運を」
なぜか皆が目を見開いて僕を見やる。一部、跪いて口元を手で隠して「尊い」とか聞こえるけど。
するとアリーチェが僕の目元を拭う。びっくりしてアリーチェを見ると笑いながら自分の目を指さしている。
恐る恐る触れてみれば、僅かに濡れて……。あぁ、つい感極まってしまったのか。それはビックリするね。
こんな邪悪な森だけど。こうして皆の温かさを再認識させてくれたことだけは感謝しよう。
皆が散ったアンデッドの殲滅に駆けていった頃、回らない頭で尋ねた。
「ねぇ、どうしてアンデッド達は逃げて行ったんだと思う?」
「えっ!? エルナーが分からないのって珍しいね?」
「あはは、ちょっと、今頭が回らなくて」
『疲れすぎですの。無茶して、心配したですの……』
ありがとう、ごめんなさい……。
『アンデッドには秘境の魔力が宿ってるですの。それが外に出てしまったらより広がってしまう可能性があるですの』
「エルナーが言ってた正攻法の相手版だね。それを防ぐために、皆が倒しに行ってくれたんだよ!」
「なるほどー。確かに、そうかー……」
『エルナー、少し眠るですの。今度はちゃんと護らせてほしいですの』
「そうだよエルナー! 秘境に入ってずっとあの化け物と戦ってたんだから!」
「そう、かな? ……うん。少し、眠る……ね……」
温かい。そういえば前世での最期の時、母さんに抱きしめられていたんだよね。
あぁ、何故忘れていたんだろう。苦しいだけじゃなく、辛いだけじゃなく。確かな愛情を僕は受け取っていたというのに。
ゆっくりと、僕の意識が沈んでいくのを感じるよ。
お父さん、お母さん。僕はこの世界でずっと憧れていた冒険をしているよ!
お読みいただきありがとうございます!
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