化け物戦・前
『イラプション』と『火精』によってアンデッド諸共森を焼失させていく。
延焼を狙ってもいたんだけど不思議と燃え広がらない。どうにも、秘境の黒い靄が延焼を防いでいるように見える。
それならば、と『火精』を北へ放ち続け森を荒らしていく。
……なんだか僕が悪い事をしているような感じがしてならない。けどこの森は邪悪だからね、少しでも縮小させなければならない。
それに、この湧き上がるような憎しみは破壊を促すような魔法と相性がいい。
だからこそ森を壊すのに適した火の魔法で徹底的に滅ぼして――。
待て、なぜここまで過激な思考になるんだ? 確かに秘境に対して怒ってはいるけれど、徹底的に滅ぼそうなどとは考えなかったはずだ。
黒い靄が、足元を覆っていた。これか!
レスター兄様が言っていたっけ、心が穢されるって。僕の怒りの感情を増幅させたって訳か。
身体強化を用いてその場から飛びのくと同時に黒い靄に対して小爆発を直撃させる!
ドオオオォォォン!!
視覚化できる魔力ならば散らせるのは既に分かっている。ただアンデッドごとだったから靄そのものを散らせるのかは不明ではあった。
けれどこれで確信したよ。秘境の生み出すこの黒い靄は対処できる。
『火精』を操るよ。視認できる全ての黒い靄に差し向けて『火精』二体をぶつけて爆発させる!
激しい爆発音が断続的に響くッ! 爆風に煽られた木々がザァザァとさざめき不運な木々は焼かれる悲鳴を上げている!
森は拓かれていくよ。例え悪意に塗りつぶされたこの黒い木々も、炎の猛威には抗えないッ!
風も使うよ。秘境の魔力が延焼を防ぐなら、それ以上の暴威を以て拡大させるのさッ!
時間の感覚は既に分からない。どれだけ続けたのかは分からないけど周囲はそれなりに拓けた広場となっていたよ。
さすがに看過できなくなったのだろう、黒い靄が一か所に集まってくる。
『火精』を差し向けるも横合いから独立した黒い靄が飲み込み――離れた場所で爆発音が響いたッ!
「学習もするのかッ! 厄介だなァ!!」
『火精』の数を増やしていくけれど、だめだ、魔法が完成しているッ!
いくつもの、何種類もの魔物や動物、そして人の骨。それらが大量に召喚された!
黒い靄が覆う。大量の骨が寄り集まり、巨大な人型へと変貌していくッ!
『ギギイイイイイイィィィィィ!!』
硬質的な物が擦れ合うような不快な音で化け物が叫ぶッ!
身体強化を使う。少しの予兆をも見逃したら拙い。
様子を見るか攻めるかを一瞬迷ってしまった。それを気取ったのか化け物が予想以上の速さで突進してくるッ!?
「ッ!? あぐっ!」
掠ったッ! それだけで吹き飛ばされ内臓に響くような衝撃が奔るッ!
地面を何度か転がって勢いが弱まるタイミングで『火精』を周囲に展開ッ!
ドゴオオオォォッッッッ!!!
『ギギイイイッ!?』
指向性を持った爆炎は近くの蝶をも巻き込んで化け物を押し退けるッ!
即座に『火精』を周囲に展開し広場の中央に立つ。
体の中を痛めたか、口の中に溜まった血を吐き捨てる。さぁ、仕切り直しだッ!
黒い靄が『火精』を飲み込もうと迫ってくる。そいつは一度見た。対策は考えてあるんだよッ!
「『火精・アクティブマイン』」
能動的に爆発させることで対処する。さぁ、その魔力散らさせてもらうよッ!
連続して発生した爆発は、その全てが意味を成すよ。
ただの攻撃なんかじゃない。秘境の魔力を爆炎が支配することで火の魔力を増やしていく。
そうなれば? 『火精』をより呼べるのさッ! ここの場の魔力を僕が掌握することでこの化け物を倒すための舞台を作るのさッ!
そう、舞台だよ。視界の端にある地図魔法が示してる。
一番近くのアリーチェのマーカーが凄い速さで近づいてくるし、他の皆も僕の下に駆けつけてくれているのが分かるよ。
あぁ、こんな状況なのに嬉しくなるよ!
いくつもの爆発によって辺りは煙と砂埃で満ちている。
不思議とね、分かるんだよ。身体強化の効果なのか魔力の揺らぎが化け物の動きを掌握してるんだ。
化け物がどう動こうと、即座に『火精』で牽制できる。秘境の魔力も散らせて火の場を拡大できる。今、この広場においては秘境よりも僕の方が有利になっているんだよ。
だから。森の中に逃がしなどしないし責め立てながら有利な場を広げていっているんだよ!
不謹慎かもしれないけれど。今僕はとても楽しいよ。当然化け物のような存在を作り出した秘境に対しては強く怒りを抱いている。それでもこうして思い切り魔法を放てるのは楽しいんだ。
ささくれ立っていた心が落ち着きを取り戻していくのを感じるよ。
近くにアリーチェがいるからね。彼女がいる限り僕は暴走することは無さそうだよ。
風が吹き荒れた。砂埃が舞い散らされて隣に艶やかな黒が舞っていたよ。
「おまたせ、エルナー」
すうっ、と視界が明瞭になる感覚があった。あぁ、きっと黒い靄の影響が少しばかり残っていたんだろうね。
「待ってたよアリーチェ。ずいぶん暴れたみたいだね?」
なんだか不服そうな表情をしている。こういっては何だけど、可愛いだけだよ。
ともあれ、これで状況はさらにこちら側に寄ってきた。もう少しばかり舞台作りに励もうかッ!
「アリーチェ、なるべく挟み込むように攻めるよッ!」
「わかったッ!」
広さは十分。『火精』を化け物の背後で爆発させて広場の中央に飛ばすッ!
周囲をこれまで同様爆発させ、燃やして拡大させるのを並行していくよ!
「「『風錬』『炎舞』」」
プラス身体強化!! 風となった僕達が交差するように化け物を左右から鋼で斬るッ!
ガガキイイイイィィッ!!!
押し固められた骨を断つには至らない、けれどこいつは鋼だけじゃない。一瞬遅れて炎が踊るッ!
ゴオオオオオォォォォッ!!
『ギャギイイイイイィィィィッ!?』
化け物が暴れるよ! 痛みは無いだろうけど焼かれるというのは死して尚、本能に叩きつけられる恐怖があるのだろう。
その恐怖を煽るのは僕らの速度で生まれ落ちた風の役目だよ。
炎が煽られる。それは更なる熱量を生む。その様子を見て僕とアリーチェは笑うのさ。
秘境よ、知るといいよ。人間を憎むように、僕らだってこの森を憎んでる。分かり合えないから今こうして戦っているッ!
風に触れることは許されない。僕達の体力が減るまでは一方的に斬らせてもらうッ!
『ギイイイイイィィィィィッッ!!!』
化け物が腕を大きく広げて回転するッ! けれど僕達の動きは平面だけじゃないんだよッ!
アリーチェは深く沈み足首を斬るッ! 熱量を上げ赤熱した剣は甲高い音を響かせながら斬り落とすことに成功していたよ。
僕は跳んだ。刃を立てて化け物の首に添えたよ。
ギャリイイイィィィィッ!!
回転運動が仇となったね。ずいぶんと首が瘦せたじゃあないか。
そんな状態で回転を続けたら? 支えきれなくなって圧し折れるよねぇッ!
後押ししたよ。身体強化中の視覚情報って時が緩やかになったように感じるんだよ。
だから、足が届くギリギリまで剣を添えて最後に蹴りつけるんだ。
足首を斬り落とされてバランスを崩した化け物は頭から倒れていくッ!
バキバキバキバキッッッ!!!
回転運動で振り回されていた腕が地面を抉り、その衝撃で拉げていく。その衝撃が痩せ細った首に止めを刺していたよ。
バキリと音を立てて首が取れ動かなくなったよ。
悲鳴は上がらない。骨の化け物でも頭部の役割は果たしているようだよ。
けれどここは秘境。いくら僕が掌握している場だとしても周りはまだまだ敵の腹の中なんだよ。
黒い靄が化け物を包み込む。
瞬間的な全力を出した僕達は若干の疲労を感じていてね。追い打ちは掛けなかったよ。
人型じゃ隙が多いと思ったのだろうか。化け物の姿が変わったよ。
さらに多くの骨が転移されていてね、胴体が僕の伸長ほどの太さの巨大すぎる骨の蛇がそこにいた。
本当に、嫌になる。一体どれだけの死体を保持しているのやら。
そこに一体どれ程のヒトがいるのか。考えただけで嫌気がさすよ。
アリーチェも同じなんだろうね、僕同様『炎舞』の熱量が上昇していくッ!!
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