『黄金の誓約』合流
本日二話目です!
― アリーチェside ―
エルナーが懸念していた秘境の転移が現実のものになった。覚悟があったからか、私は異変が起きた瞬間には剣を抜いて周囲を警戒することが出来た。
黒い靄には注意するよう言われていたから、それらしきものを視認し注視していると、地面が捲りあがってアンデッドが現れたから即座に斬り捨てた。
エルナーが言ってたよ。相手の準備をわざわざ待つ必要なんてない、自分たちの安全が第一だよって。
私もそう思う。わざわざ待って危険に会うなんて馬鹿みたいだよね。
エルナーは、様式美っていうのは創造の世界だから許されるんだとも言ってたかな?
よく分からないけれど、物語なんかではお互い万全の状態で戦ってたもんね。きっとそういうことなんだ。
……おかしい。斬り捨てたアンデッドがまだ動いている。
黒い靄が斬られた部位を拾ってくっつけている? 村近くでの戦いのときはそんなことはなかったのに!
ここでは、そういうことなんだ。そう理解できたならやることは決まったね。
『炎舞』を使って焼き祓う。森だから火は危ないかもしれないけれど、これしか私がとれる方法はないからね、内心で謝りつつ踊ったよ。
『……アリーチェ。ひとつ可能性を思いついたですの。たぶん、アリーチェは怒ると思うですの。それでも可能性の一つとして聞いてほしいですの』
「……? うん、くーちゃん教えて?」
『おそらく、秘境がアンデッドを修復してるのは分かってると思うですの。私たちのように、あの騎兵団が転移してこうしてアンデッドと延々と戦い続けていれば、いずれ力尽きてしまうですの』
「……そうだね。斬り落とすだけじゃ倒せないならだめかもしれない」
『アリーチェ。もし力尽きた騎兵団の人が別の者の所に転移して現れたら、どう思うですの?』
……ッ!? そう、そういう、事ッ!!!
『炎舞』の熱量が上がるッ! 私に渦巻いた激情が行き場を求めているッ!
剣を交えた将軍は、骨身となって尚力強かったッ! あの人はその意思も強かったッ!
それでも、信頼した部下がアンデッドとなって次々と転移してきたら? そんな彼らを斬らねばならないとなったならば?
私は絶対に、秘境を憎むッ!!
熱量が上がりすぎた『炎舞』の炎が辺りを焦がしてなお上昇していく。その熱量を、私は解き放つッ!!
ゴオオオオオォォォォォッッ!!!
ただ全力の横薙ぎ。けれど熱量によって歪んだ世界は軌跡を描いて森を焼き斬るッ!!
同時に、近くでとんでもない爆発音が轟いた。きっとエルナーだね!
エルナーならば、すぐにくーちゃんと同じ考えに至るはず。そして私と同じように怒りに満ちた。
分かるよ、エルナー。尊敬すべき人たちがそんな目に遭っていたかもしれないなんて考えるだけで嫌になるもん。
私は『黄金の誓約』だ。この名を背負って、この森を終わらせるよッッ!!
「私はエルナーの所に向かうね。くーちゃんは他の皆のフォローをお願い。何かあったら、きっとエルナーがきにしちゃうから」
語気が荒くならないように注意しながら、どうにか言い切る。くーちゃんに怒りを露にするのは違うからね。
『……わかったですの。アリーチェ、どうか気を付けて』
飛び立ったくーちゃんを見送ってすぐ、駆けるッ!
アンデッドを黒い靄ごと焼き斬り祓う。身体強化も使って一切の残滓も見逃しはしない!
心なしか、アンデッドの量が増えてきた気がする。ただ私から見て背を向けているのが多い。
進路上にはきっとエルナーがいる。たった十数程度のアンデッドでエルナーがどうにかなるわけがないし、そもそも行かせやしないよッ!
「――ふッ!!」
ザシュウウウウウッッッ!!
過ぎざまに数体斬り祓うッ! 数瞬遅れて轟々と燃え盛るアンデッドを他所に、未だ私を視認しないアンデッド達に思わず舌打ちしてしまう。
「だったら、全部焼くだけだよッ!」
視認しうる限りのアンデッドを斬りまくる! 縦に横にと線を切らさず踊って燃やすッ!
辺りの木々も巻き添えに私の踊りの残滓は広がっていく。
意思無きアンデッド達はこの憎悪溢れる森の奴隷。焼き祓われるならばむしろ本望でしょう?
勝手な言い分なのは分かってる。けれども、私たちの敵であるのだから情けなんて……程々でいい。
視界に映るアンデッドを残さず殲滅していくよ!
ザシュッ! ゴオオォォォッ!!
アンデッドが次々祓われていく。黒い靄も散り散りになっていくのが見て取れる!
「はぁ……はぁ……ッ! ちょっと、飛ばしすぎたかな?」
少し疲れてしまった。怒りに任せて動きすぎたかもしれない。
けど、まだまだいける。まだアンデッドが視界に残っている!
一撃さえ入れば『炎舞』が祓う。だから私は斬るのを優先して力を程々にして柔らかく踊るよ!
舞が終わる頃にはパチパチと火が弾ける音が場を支配した。
断続的に聞こえてくる爆発音を目印に方向を修正していく。
秘境の森が燃える悲鳴を背中に浴びて尚、私は駆ける。
近くに確かにエルナーを感じ、速度を上げて木々の間を縫っていくと不自然な広場が出来上がっていた。
広場の端に異形が見える。様々な動物の骨の集まりがヒト型に押し固められたような、巨大な化け物がいた。
その化け物はエルナーの『火精』によって囲まれ、一気に爆発し広場を押し広げていく。
けれど爆炎が晴れてみれば化け物は健在で。衝撃が逃げるや意外と俊敏に移動し――待機していた『火精』に吹き飛ばされる。
一方的に見える攻防は、いずれも決定打には届いていない。
けれど、どうしてだろう。化け物に纏わりついている黒い靄が怯えを見せているように感じるのは。
エルナーの攻撃が、どうしてか八つ当たりのように思う。
それでいて打算をも感じてしまうのは長い付き合いからか、だとすれば嬉しいけれど。
黒い靄が森の中から次々と化け物に吸い寄せられていく。
不意に、広場に立ち込めていた煙と砂埃が途切れ、広場の様子がうかがい見れた――。
その広場の中央に悠然と立つ金髪の少年。
視線はとても冷たく、うっすらと笑みを浮かべたその姿は。
確かな『魔王』がそこにいて、私はぞくりと身震いし体が熱を帯びるのを自覚した。
『風錬』を使って風になる。奔って起きた風圧で、砂埃を僅かに散らしてエルナーの隣に並び立つ!
「おまたせ、エルナー」
冷たかった視線が、熱を持って優し気に私を見やる。
「待ってたよアリーチェ。ずいぶん暴れたみたいだね?」
それ、エルナーにだけは言われたくないかも?
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