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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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悪食の森

「この辺りに村があったんですね」


 木々に突き破られた家屋や人工物が散乱している現場に足を踏み入れている。

 すぐに村を発って秘境に向かった僕達は、村があったはずの場所に悠然と広がる森に入っていた。


 改めて秘境の出鱈目さを感じるよ。たった一日、或いは二日でこの有様にしてしまうのだから。

 真新しい廃村という状況が却って不気味さを際立たせていたよ。


 ――サナィ……。


 あちこちに見える黒い靄からノイズのように聞こえてくる恨み。

 どうしてここまで深い憎しみがあるのだろう。アンデッドに親和性が高いこれらの魔力がこの秘境の本質なのか、見極めたい。


「エルナー、ここからはより気を引き締めていくぞ。気力もしっかりしておけよ」

「はい、ラーシャー先生」

「その、先生っていうのはもういいだろう? 必要最低限はもう教えてるしエルナー自身知識がしっかりしてる。それに『雷牙』も『風の道』も魔技を教わったし……。俺たちは元々使徒様に仕える為だった訳だしな」


 そろそろ対等になろう、そんな提案をしてくれたよ。

 目上だし尊敬もしているから譲れない部分もあるけれど、それでも彼らと対等で在れるということはとても嬉しい事だ。


 秘境の怨みの一端を不意に聞かされ少し落ち込んだ気持ちが、すっと晴れた気がする。


 気持ちを新たに足を一歩、奥へと踏み入れる。


 ザザザザザザザザッッッ。


 突如森がさざめいた! 周囲にあった廃墟が無い!?


「ラーシャーさん! 村が――ッ!?」


 誰も、居ない。

 初手転移……? 嘘でしょう!?


 地図魔法を開き、急いで操作する。飛び地でマッピングされている所が真北にある。距離を測ると凡そ二十キロメートル!? どれだけ広いんだ!


 ここが端とは限らない。そもそも分散させてくる相手が、簡単に逃げられる場所に転移させるはずがない。


 仲間のマーカーを確かめると、等間隔の円周を描いている。確実に殺しに来てる!

 不意に、腐臭を感じ取った。先ほどまでなかった敵対マーカーが近くに点在している。

 転移してきた? いや、今まさに作られている! 黒い靄がある地面が、ボコリと盛り上がりアンデッドゴブリンの上半身が出てきた!


「『アイスニードル』!」


 即座に頸椎を穿ち頭部を落とす。卑怯? 構わないよ。今まさに生存競争をしているんだ!

 敵対マーカーが消えない。確かに頭部は落としたのに、ってそんなのありなの?

 黒い靄が頭部を拾ってくっつけてる……。死体のリユース……!

 なるほど、と思う。かつて、あれだけの精強さを見せた第三騎兵団『ゴルプレッジ』が全滅したのはこれが原因か!


 騎馬兵は森では戦えない。乱雑に生える木々が邪魔になって馬が走れないからだ。

 彼らを個々に隔離し、無限ともいえるアンデッドと戦うことを強制する。たぶん、徐々に増えていくのだろう。

 そうなれば体力が尽きて倒れてしまう。そうして新しい死体をアンデッドにし……おそらく仲間を襲わせた。


 それだけの怨みをこの秘境は孕んでいる。あぁ、かつての彼らがどれ程の憤怒を抱いたか。


「僕達人間を、どれだけ恨んでいるのか知らないけれど。僕の尊敬する方々を侮辱した報いを受けてもらうよ」


 ここが森だから遠慮していたんだ。けれど死を弄ぶような森は無いほうがいいよねぇ?


 あぁ、自覚するよ。きっと今の僕は嗤ってる。初めて知ったよ、僕は怒りが過ぎるとこうなってしまうのか。


「『イラプション』」


 ドゴガガガガアアアァァァッッッッ!!!


 アンデッド諸共森を吹き飛ばす! 落ち着く間なんて与えやしないッ!!


「『火精(イフリタ)』!」


 今の僕を、僕が見たならばきっと『魔王じゃないか』とか言うんじゃないかね?

 さぁ、爆炎を孕む雅な蝶たち。邪悪な森を懲らしめようかッ!




     ― ラーシャーside ―


 ラーシャーを除いた全員が転移で消失したため僅かな時間自失状態となってしまったが、エルナーが転移について言及していたのを思い出し冷静さを取り戻す。


「くそっ!? 予めエルナーが予測してなかったら拙かったぞ!!」


 湧き出てくるアンデッドの首を斬り飛ばしながら毒づくが、ラーシャーは一切の不安も抱いていなかった。

 エルナー、いや『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』や『風の道』を信用しているのはもちろんだが、それ以上に『雷牙』の面々を信頼している。


 こういった場合は想定していなかったが、離れて行動する必要がある場面はいくらでもあった。だから合流の合図だっていくつか用意している。

 この場合は恐らくは、と考えていると期待した音を狼の獣人が故によく聞こえる耳が拾った。


 ピイイイイイィィィィィィィ。


 多少改良された鏑矢の音。長く鳴く鷹の声。ルルゥの位置を知らせる合図だ。

 少し遅れてより南西からパァン!と空気が破裂する音が響く。クゥナリアの魔法の合図だ。

 本来ならここでラーシャーかカッシュが合図を出すのだが、タイミングがいいのか悪いのか南のより遠い位置からとんでもない爆発音が聞こえてくる。

 昨晩聞いたエルナーの魔法の音である。


 即座に進路を南に決め走り出す。きっと他のメンバーもそうしていると妙な確信があった。


「ククッ! それにしてもエルナーの奴相当キレてるな。何があったのか、何を知ったのか。なんであれあいつを怒らせたのは悪手だぜ? 『悪食の森』よ」


 立ち塞がるアンデッドを斬り、または避けて走る。

 ふと、教わった身体強化が過る。リスクは聞いたがアリーチェが教えてくれた感覚を基にすれば出来るのは分かった。そのことをエルナーが不審な目で見ていたのはよくわかっていなかったが。


 瞬間、ラーシャーの見る世界が変わる。突如として世界の時が緩やかになった感覚がこの魔技の恐ろしさを示していた。


「なる、ほど。そしてアリーチェはこれより先があるわけか。とんでもないな」


 英雄とさえ呼ばれるBランク冒険者となったというのに新人はこの世界を知っていた。

 不思議と悔しいとは思わなかった。なに信仰する使徒様が守護する子ども達だ。むしろよくぞ使いこなしたと称賛をするあたりがラーシャーの器の大きさを表していた。


 爆音が断続して鳴り響く。エルナーが暴れているのだろう、ラーシャーはそう考え自分が笑みを浮かべていることに気づく。


「まったく、規格外が過ぎる」


 それがまた楽しいのだけどな、と呟くと知った気配が三つ近いのを感じた。

 身体強化を解き、通常に戻ると感覚のずれに若干もたついたがそこはベテラン、即座に修正しまっすぐ走る。

 まず姿を見せたのはクゥナリアだった。エルナーの下にまっすぐ進んでいたクゥナリアはラーシャーに気づくと僅かに進路を変えた。


 僅かに遅れてルルゥとカッシュも合流する。何故かカッシュと共に聖鳥クーデリカも居たため三人が目を見開いて驚いた。


「し、使徒様!? え、アリーチェは!?」

『きっとエルナーと同じですの。かつてあっただろう事に怒りを湛えて今、暴れてるですの……』

「かつてあったこと、ですかぁ?」


 ルルゥに一つ頷いたクーデリカは説明する。第三騎兵隊『ゴルプレッジ』も同じような目に遭い、そうして倒れた仲間を(けしか)けられたのではないか、という事。


 それを聞いた『雷牙』は納得した。それはあの二人が怒り狂う理由に足るな、と。


 同時に自身も怒りに溢れているのを感じ取ったラーシャーは不敵に笑った。


「つくづく、この『悪食の森』は不運だな。絶対に怒らせちゃいけない『魔王』と『黒姫』を怒らせた訳だ。しかも、俺たちもそうだし『風の道』もそうだ。……そうだろう?」


 視線を向けた先には既に合流を果たし、『雷牙』と同じくエルナーの下へ駆ける『風の道』の姿があった。


「「「「「当然ッ!!」」」」」


 アリーチェは爆炎の聞こえた方角から考えてエルナーの北東部に転移したとクーデリカが説明し、今頃はエルナーと合流して暴れているのでは、と伝える。


 ここに、『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』を除いた全員が合流を果たした。

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