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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
幾星霜に誓う泉の守護者
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秘境に挑むための前準備

 機嫌よく王城に向かったギルマスさんを見送り、僕たちは『黄金の畔』へと向かった。

 僕が引き起こした転移による騒ぎの現場となってしまった為に謝罪しないといけない。

 とても温厚なご夫妻ではあるけど、今回の件は宿に悪評とならないか不安だ。


 『黄金の畔』に近づくにつれ、喧騒が聞こえてくる。怒号といった感じではなく、むしろ陽気な笑い声だ。


 意を決して扉を開き、中へ足を踏み入れる。途端に室内の視線が僕たちに突き刺さり――。


「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


 物凄い歓声が上がった!


 どうやら捜索隊の皆さんが僕たちの帰還を伝えて回っているそうで、ベテランパーティーもそうだけど僕とアリーチェの無事をとても喜んでくれていた。

 ありがたいよね、まだ王都にきて日も浅いというのにこんなにも人情に篤い。

 僕が会う人々がそうなのか、この世界がそうなのか。どちらかは分からないけれど今はこの暖かさに感謝しよう。


「その、騒ぎにしてしまい申し訳ありませんでした……」


 店主夫妻に謝罪をしたよ。隣でアリーチェも頭を下げてくれた。僕が巻き込んだというのになんだか申し訳ないよ……。


「二人とも、その様子だとまた行くのだろう? 水筒に果実水を入れてある。あとこれ、保存食だ。そのまま齧ってもいいし果実水に浸して食べてもいい」

「えっ」


「冒険に、いくのだろう?」


 心臓が、跳ねる。あぁ、この人は。僕のことを理解してくれているんだ。

 水筒と保存食の入ったポーチを手渡された。僕とアリーチェの二つ分だ。

 ありがたい事に、部屋は借りたままで構わないとも言われたよ。バッグパックは部屋に置いていこうと思う。




「南の秘境は、広大な森なんですよね? 以前の拡大事件の時はどう対処したんですか?」

「ただひたすらにアンデッドを退治していたな。気づいたら秘境が徐々に退いていったんだ」

「……アンデッドに秘境の魔力が宿っていて、倒すことで散らされたから退いた、と考えられますか?」

「あー、すまん。俺は魔法のそういうのはちょっとわからん……。クゥ、どう思う?」


「うーん、そういえば魔力が濃い感じはあったかな……? でも、魔力異常が原因なら散らせることが出来ればいいのかな。うん。ボクもエルナー君の推察に同意だよ」


 とすると、延々と戦い続けることも視野に入れておいた方が良さそうだ。

 覚悟だけで戦い続けることはできない。必ずどこかで休息が必要だ。

 問題は、秘境を攻める際どのタイミングで休息をとるか、である。


「なるべく、地図魔法を当てにしない方法を考えたいですね。僕に何かあった時に困りますから」

「エルナーは絶対に護るよ!」

「あはは、ありがとうアリーチェ。でもそうじゃないんだ。挑んでいる間に病気になって動けなくなるかもしれないし、万が一の場合もある。そうなったとき僕の地図魔法頼りだと全滅しちゃうかもしれないんだ」


 そう、僕は万能なんかではない。だから怪我だってするし病気だってする。些細なことで死んでしまうかもしれない。

 そういった万が一を想定せずにいると、悲惨なことになりかねない。僕が居なくなるだけで瓦解してしまうなど、あってはいけない事なんだ。


「あれ? そういえば秘境って森、ですよね? 退くんですか?」

「そういえば……。確かにあの時森があった。けど気づけば前線は広がっていたな……」


 どういうことだろう。魔法だとしても無から有は作れない。

 必ず同じ質量が動くはず。であれば考えられることは何か。


「秘境の広さは、変わっていない?」

「エルナー、どういうことだ?」


「つまり、秘境の森がなんらかの魔法で動いていると考えたんです。アンデッドに魔力を乗せることで移動範囲をマーキングして、その間の移動が可能。僕はそれに近い魔法を一つ知っていますから」

「地図魔法……っ! つまり、南の秘境は転移、あるいはそれに準ずる魔法を有していると仮定できるのか!」

「それが事実だとすると、アンデッドを処理して魔力を散らすというのは正攻法なんでしょうね……」


 しかしそれを成すには面制圧じゃないといけない。一点突破だと囲まれてしまうからね。

 だから昔、第三騎兵団『ゴルプレッジ』は一気に前線を押し上げることが出来た。

 けれども、何かがあって全滅してしまった。その何かを突き止めなければ僕達も同じ轍を踏むことになる。


 なるほど、開拓が進まないわけだ。

 対処はなんとなくわかるけど原因が分からないからジリ貧となって、結果スタミナ切れで負けてしまう。


 前人未踏、故に秘境。


 巨人族や洞人族はよく勝ち得たものだと思う。話に聞くよりずっと過酷だったことだろう。


 どのような場所なのかは分からないけど、被害を多く出したというのは聞いているもんね。



「正直なところ、エルナーが落ちた場合即撤退だな。三十分ほどの睡眠を交互に取る小休止を取りつつ、戻るしかない」


 そうと決まれば残るは準備だ。特に弓術士の使う矢は多くあったほうがいい。

 放った矢を回収できるならそうしたほうがいいのだけど……おそらくは無理だろう。


 ルルゥさんや『風の道』の弓術士達が買いに出ていくなか、僕は簡単にだけど魔技の扱いを前衛組に教えていたよ。

 協力関係にあるからね。彼らが望むならばと提案したら食い気味に頼まれたよ。


 動きに対して負担のかかる部位、失敗した際のリスクの説明を僕が行い、アリーチェが感覚的な部分を感覚的に教えている。


「こう、守りたい所をギュッとして、体全体をふんわり包んで、全身を内側をガーッて熱くすると身体強化になるんだよ!」

「アリーチェ……それじゃ分から――」


「こう、か?」


 グシャァァァァッ!!


 カッシュ先生が手に持っていた木の板が握り潰された。待ってほしい。今の説明で通じてたの!?

 でも実際身体強化出来てるっぽいし……脳筋怖い。


「なるほど? 身体強化すると視力とか嗅覚も鋭くなるようだな。エルナー、覚えておくといいぞ?」

「え、何をでしょうかカッシュ先生……」

「良からぬことを考えていただろう? 汗のにおいが変わったぞ?」

「あ、あはは……そんなわけ、ないじゃないですかー……」


 やだ怖い。



 ベテランというのは理不尽だ。僕はくーちゃんにつきっきりで教えてもらって身体強化を使えるようになったというのに、感覚と直感ですぐ使えるようになっていた。そう、『風の道』の前衛二人もだ。


 その理不尽さに嘆いていると、どうも『風の道』のリーダーから覚えのある視線を感じてそちらを見やれば……あの弓術士の女性と同じ熱量を持っていたよ……。

 決め手はアリーチェのはずなのでそちらに向けてほしい。いや、やはりだめだ。アリーチェにそんな視線を向けるのは許しません。


「ただいま戻りました、魔王様。……リーダー、ようこそ」

「あぁ、素晴らしいな……」


 僕は早まったのだろうか? 分からない。癒してくーちゃん……。




 南の村に行くことを店主さん夫妻に伝え、南門から外に出てしばらく歩いたところで地図魔法を使う。

 村で使われていない小屋を借り、そこを仮拠点として行動することになった。


「本当に、秘境に行くの?」

「もう、何度も言ってるよ。行かないといけないし託されたものもあるんだ。けど、心配してくれてありがとう、母さん」

「当たり前でしょう? けれど、そう……。かの将軍たちの想いもあるものね」


「うん。僕とアリーチェで『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』ってパーティーを組んだんだ。それで、秘境を攻略するよ」


 彼らの誇りを託された僕たちが出来ることは、彼らの無念を晴らす事?

 いいや、違うよ。託されたのは彼らの悲願。忠誠を誓った王と国民に殉ずる覚悟を以て臨んだ秘境開拓の任務だ。


 『雷牙』と『風の道』のベテランたち協力の下、僕達『黄金の誓約(ゴル・プレッジ)』が必ずや、秘境を攻略して見せましょう!

お読みいただきありがとうございます!

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