パーティー登録
『神々の寵愛の焔』によって黄金に染まった世界が夜を抱く。
操られていた『ゴルプレッジ』のアンデッドとの戦闘は時間にすれば短いものだった。
けれどその密度はアンデッドウルフやアンデッドゴブリンの比ではなかった。
油断があった。いいや、油断をさせられた。
簡単な戦術ではあるけれど、地図魔法で位置を把握していた僕達にはむしろ有効すぎた。
戦力を分散させられた。なんとか対応できるメンバーが揃っていたから護りきれた。
これだけでも相当に厳しいというのに将軍のアンデッドは強く、ひとつ対応が違っていたらあっさりと抜かれていたと思う。
運もよかった。将軍含め『ゴルプレッジ』の皆さんは秘境の負の魔法に抵抗していた。
――改めて、敬意を表するよ。
彼らは強い。実力もそうだけど、その心がとても強いのだ。でなければ僕たちは負けていたかもしれない。
「必ずや。あなた方の『名』と共にあり続けると誓います」
アリーチェも僕と同じく最敬礼を捧げている。直接剣を交えたからだろうか、彼女の目にも決意があった。
僕とアリーチェは拳を左胸に当てたまま、欠けた月が笑う星空を見上げる。
「アリーチェ。王都に戻ったら正式にパーティーを組もう。彼らの想いを託された。その名を刻みたいんだ」
「うん、賛成だよ」
僕たちの冒険へ、どうか共に歩んでいただけますよう――。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
僕たちの敬礼を見届けていた皆が合流し、一度村に戻ることになった。
村に着いた頃には暁光が空を焼いてとても綺麗だ。
「おう、無事戻ったか! ありがとうな!」
「あ、ガイルさん。……なんか、ガイルさん見ると『帰ってきた』って感じが凄くする」
村出身の僕とアリーチェはそんな感じだ。なんというか、村の顔って印象なんだよね。
快活に笑うから、どこか安心して受け入れてしまうというか。
筋骨隆々のマスコット……ないか。
一先ず、危機は去ったと見ていいと思う。地図魔法では敵対マーカーは無い事も無いけど、少なくとも南には無い。
だから一度王都に戻りパーティー登録をする意を示した。
『風の道』からも一部食い気味に移籍したいと希われたけど、僕としては当面はアリーチェと二人だけにするつもりだ。
そのことを伝えるとなんだか死んだ魚のような目になってしまったので、協力関係にあるパーティーとして親しくしてくれませんか? と訊くと復帰したのが可笑しかった。
『雷牙』も当然のように受け入れてくれたのでとても嬉しい!
Eランクパーティーと協力関係にあるB・Cランクパーティー。
とても釣り合わないけれど、対等に見てくれているのだと思うと頬が緩んでしまう。
「それじゃあ、一度王都に戻って色々済ませてくるね。いちおう、こっちに戻ったら秘境に向かうつもりだから」
「いや、秘境には行かなくていいんじゃないか……?」
「父さん。秘境には行かないと駄目だと思う。『ゴルプレッジ』に掛けられていた魔法はきっと、根深いと思うから」
心配なのは分かるけど、たぶん放置してはいけない。あの黒い靄から感じ取った情念は僕たちに向いていたのだから。
知ろうと思う。そこまで恨むのは理由があるはずだから。
そうした『知らない事』を知ることは僕の冒険の根底でもあるし。
転移先として、王都の西の森付近を指定した。
いきなり王都の中に現れたら混乱するだろうからね……。
地図魔法の設定を終え、転移を実行する。この、一瞬で視界が変わるのはちょっと慣れない。
しばらく歩いて王都城壁の門が見えてきた。夜が明けて間もない時間だというのに門が開いているのには驚いたけど、スムーズに進めるならありがたいね。
「あ!? 『雷牙』のみなさん! それに『風の道』のみなさんも! よかった、無事だったんですね!」
「ん? 無事とは?」
「昨夜、突如として消えたと噂になっていまして。期待の新人冒険者も消えてしまったとあって大変な騒ぎでした。捜索隊が結成され各門開けて待機していたんです」
「あー、その、申し訳ない」
僕のせいでした……。急に現れるのが混乱のもとなら、急に消えるのも当然混乱のもとだよね。
門を通され、冒険者ギルドにほど近いちょっとした広場に差し掛かると、ちょうど戻ってきた捜索隊の方々に鉢合わせた。
驚かれ、怒られ、泣かれ、僕とアリーチェの無事を喜んで貰えて、最後に笑い声が響いたよ。
あぁ、なんて温かい人達だろう。ちょっと泣きそうになった。
冒険者ギルドに入り、僕はすぐに反転して外に出ようとした。けれどがっしりと肩を掴まれて逃げられなかった!
「おう、どこ行くつもりだ? まぁゆっくりしてけよ。たくさん聞きたいことがあるんでなぁ?」
「大変申し訳ございませんでした」
厳ついギルマスさんの目が笑ってない笑顔が怖すぎて泣きそうです。
「南の秘境が拡大して村一つ消滅、か……。お前たちが行ってくれて助かったと言うべきだな。被害は最小限と言える。それにエルナーの地図魔法だったか。秘匿しておきたかっただろうに、使ってくれたことに感謝する。ありがとう」
「いえ、使わずに後悔するのだけは避けたかったので構いません。こういうのは使ってこそ意味がありますし」
「それでも、だ。エルナーがいなかったら村一つで済まなかっただろうからな」
十分な戦力が整っていない状態であれだけのアンデッドは確かに危険だった。まさしく数の暴力だったからね……。さらなる暴力で抑えた僕たちは何なのだろうか。
今後の事も考えてギルマスさんに一つお願いすることにした。
実は、あの戦場で『ゴルプレッジ』が着ていた鎧や剣が残されていた為、マーカーを付けて僕の家に一時保管している。
その装備品を王城に届けてほしい。かつての忠誠の許へと届けてあげたかったのだ。
「そうか、あの『ゴルプレッジ』の……。アリーチェ、かの将軍は強かったか?」
「凄く。心も、技術も圧倒された。けど、多くを教えてもらえました」
「そうか、それは羨ましいな。例え一瞬だろうとそれは代えがたい経験となったな」
「うん!!」
「よし、エルナー。英雄たちの装備品出せるんだろう? すぐに届けてくる」
一つ頷いて、地図魔法を操作し装備品をこちらへと送る。
物音ひとつ立てずに多くの装備品が部屋に並んだ。その様子を驚いたように見ていたギルマスさんが納得したように頷いていたよ。
ギルマスさんが出る前にもう一つ願い出ることにした。
「それと、僕とアリーチェを正式にパーティーとして登録したいのですが、今いいですか?」
「ん? あぁ、そういえば登録してないんだったな。いいぞ? 名前はもう決まってるのか?」
「はい。託されましたし、これ以外はないですね」
アリーチェと視線を合わせる。村で相談して決めたパーティー名。
それは同時に口にすると決めていた。彼らの想いも全てを乗せて。
「「『黄金の誓約』」」
「ッ! く、くはは! そうか、そうか! これはいい。『魔王』と『黒姫』がかの英雄を受け継ぐか! ハハハハッ!!」
「「……『黒姫』?」」
流れからしてアリーチェの二つ名だろう。そのまんまだけど、実にぴったりな二つ名だと思う。
笑いながら手続きをしに奥へ行ったギルマスさんを見届けてからアリーチェを見やると、二つ名が嬉しいのか、はたまた気恥ずかしいのか。少し上気した頬でニマニマしている。
可愛いなぁ、などと思っていると意外と早くギルマスさんが戻ってきた。
「ほら、これで二人はDランクパーティー『黄金の誓約』だ!」
「え、Dランクですか?」
「そうだ。大量のアンデッドから村を護り、かの英雄たちの遺品を回収し還した。実績としては十分すぎる! かつての王は『ゴルプレッジ』の壊滅に嘆き、遺品回収もままならなかったと聞く。それに、彼らを天に還すことが出来たのだろう? それらを成し遂げた事を誇れッ! 二人はまさしく偉業を成し遂げたッッ!」
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