強襲
アリーチェと踊りながらの殲滅はあっという間だった。
名残惜しいけどここは戦場。余裕ができたなら皆のところに戻って意見を聞きたい所だ。
合流してすぐ、地図魔法を展開して状況を共有したよ。
ここから大体で五キロメートルほど南におおよそ百ほどのマーカーが点在している。
しばらくは休めそうだ。
「どうにかなりそうだな。エルナー、改めて礼を言う。駆けつけてくれてありがとうな」
「父さん、まだ終わってないよ。まだ距離があるから少しでも休んでおこう?」
そうして自然と休みを取る流れを作った。なのに、母さんがニコニコしながら僕を手招きするんだ。どうしてか、凄く行きたくないんだけど……。
「えぇと、母さんどうしたの?」
「エルナーの魔法エントロピーがどうなっているのか詳しく教えて頂戴さっきからずっと気になって気になって仕方が無かったのよ」
「母さん落ち着いて、早口すぎて何言ってるのか聞き取れない」
ニコニコしてるのに目が全く笑ってないんだよ? それでこんな早口で言われても怖くて内容が入ってこないよ!
「こほん。魔法的エントロピーがどうなっているのか、教えてくれるかしら?」
「あ、それボクもきになってたんだよ。教えてくれる?」
「エントロピー……あー、無駄に難しい解釈か……」
『魔法使いの父』が提唱した理論。アピールが過ぎて難解な言い回しになってしまったが、それでも現在の魔法使いたちには大いに貢献している。
エリカお姉様に教えてもらった方法を掻い摘んで説明すると、やはりというか、目を見開いて呆然としていたよ。
「ボク、一生懸命に覚えたんだけど……。それに、散らす方法も言われてみれば当たり前な事じゃない……」
「公表したら魔法ギルドが荒れるわねぇ……。新しい理論は『魔王理論』とでも呼ばれるのかしら?」
「酷い公開処刑じゃないか!」
僕の悲痛な叫びは聞きつけた皆の笑い声に消されたよ……。
僕たちはきっと油断していた。あれだけ多くのアンデッドと対峙し、終始優位な状態で対処できてしまっていたから。
だからきっと、もう楽に処理できると、どこかで考えていたんだと思う。
世界はそんなに甘くない、そう地図魔法に言われた気がしたよ。
「ッ!? いけない、皆すぐに戦闘準備! もうすぐ接敵! 相手の移動が速すぎる!」
みんな驚いて地図魔法を見やる。もう一キロメートル弱しか距離が無い!
幸い相手は密集してこちらに突き進んできている。……密集して?
「くーちゃん! 空から敵の様子見える!?」
『みえるですの! ……ッ!? エルナー大変ですの! 騎馬兵のアンデッドですのー!』
きばへい? 騎馬兵!? なんでこんなところに!?
「そうか! 昔の国軍の死体がアンデッドになったのか!」
そう父さんが叫ぶ。
昔の国軍。南に広がる秘境開拓をしていた時代、多くの犠牲を払ってこの場を勝ち取ったと聞いている。
なるほど、その時代の犠牲者たちがこうして……。
「父さん! ヒトのアンデッドって思考はあるの!? なんか戦術組んでるみたいなんだけど!」
「稀に、ある! そいつは上位個体だ!!」
百ほどの騎馬兵が相手となると厳しいなんてものじゃない。
勢いを殺し、足止めをしないと確実にこちらがやられてしまう!
「『ディグ』! 『ウォーター』!」
通過予想ポイントにいくつか『ディグ』で浅く掘り、地面に凹凸を作る。
『ウォーター』は広範囲の地面を水気の多い泥に変えるために放ち、さらに足場を悪くする狙いだ。
「母さんかクゥナリア先生で強風を向こうに向けて放てますか!?」
「ボクがやるよ! レナはできる限り攻撃して!」
「わかったわ!」
予想したポイントをアンデッド騎馬兵団が足を踏み入れた!
ズシャアアアア!!
ドガガァァァァッッッ!!
先頭が泥で足を滑らせ、後続がぶつかり盛大に転倒する! 回避した個体も強風に煽られ窪んだ地面に足を取られて倒れていく!
そこに母さんの爆炎が炸裂する!
ドゴオオオォォッッッッ!!!
先頭集団はどうにか倒せた、が、その後続は左右に分かれて進んでくるっ!
「左右に分かれました! 左側がやや多め!」
「『雷牙』と『風の道』で左に当たってくれ! 俺とレナで右に対応する! エルナー、アリーチェはここを任せたい、いけるか!?」
「「はい!!」」
ベテランチームは即座に動いたよ! 中央を任された以上はここは絶対に死守しないと!
地図魔法上で敵マーカーが一つ、爆炎の中突っ込んできているけど視認できない。
なのに徐々に近づいてきている……。透明? いや、違う! 炎が揺らいでいない!!
「アリーチェ、上だ! 跳んできた!!」
「ッ! たああああッ!」
ガキィィィィィン!!
跳んできたスケルトンの斬撃に合わせてアリーチェが薙ぐ!
スケルトンは鎧を着ていたよ。心臓部に五芒星が描かれていた。
「昔の、将軍のスケルトン……っ!?」
秘境に赴くような将軍なんてベテラン冒険者以上と考えたほうがいい。
そんな存在がアリーチェと斬り結んでいる!
『アアアアアッッッ!! ユ……ル……サン……ゾォォォッッッ!』
「私だって! 許さないよ!」
違和感を、感じる。
アンデッドが生者を憎むのは分かる。けれども、この将軍のスケルトンの怒りが僕たちに向いていない……? 何故……?
――ケガラワシイ! ユルサナイ!
纏わりつくような粘度の情念が叩きつけられた。
周囲を見やるもここにはアリーチェと将軍のスケルトンと僕のみ。
『ウルサイッッッ!』
まただ。将軍のスケルトンの怒りは僕たちに向いていない。むしろ、この情念に反抗しているような気がする。
この違和感は何だろう、将軍のスケルトンがここにきてからずっと感じている何か。
「『夜目』」
なんとなく、周囲をよく見るために使ってみれば違和感の正体が将軍のスケルトンの足元にあった。
澱んだ魔力。蠢く黒い靄。
レスター兄様が言っていた。これは意志の塊。負の感情……。
将軍のスケルトンは、昔の秘境開拓に赴いていたけどそこで死んだ。
そしてアンデッドとなり、秘境の負の感情に触れた?
彼らは、秘境に操られている?
あぁ、しっくりきてしまったよ。理解した。
これは魔法だ。秘境の『主』とやらの憎しみの魔法。
理解してしまった以上、僕は彼らに正しく終りを与えなくてはいけない。
「アリーチェ、ごめん、しばらく足止めできるかな!?」
「ッ! やって、みるッッッ!!」
『ガアアアアァァァァッッッッ!!!』
高速の剣戟が場を支配している! 体力に限界がある以上圧倒的にアリーチェが不利だ!
けれど僕は彼女に無理を押し付けた。ならば僕も無理を通さねばならないッ!
光をイメージする。レスター兄様の纏う光。優しさに溢れた『白』の魔法。
炎をイメージする。エリカお姉様の纏う炎。慈しみに溢れた『橙』の魔法。
イメージを創造する。それら二つを重ねた僕の大好きな二人の色の『金』の魔法。
いつの間にか閉じていた目を開く。アリーチェと将軍のスケルトンがぼう、と僕を見やっている。
まったく、戦場でお互い余所見だなんて、なんだか可笑しい。
戦場だというのにとても静かだ。
誰も彼もが僕を見つめている。
ふと、僕の周りに揺らめく光が視界に入る。
あぁ、なるほど。金色の光が僕を目立たせているんだね。
レスター兄様のように、エリカお姉様のように、そしてくーちゃんのように。
僕の大好きな人たちと似た状態にある今に思わず笑みが零れたよ。
「将軍。あなた方に感謝を。あなた方のおかげで今の僕たちがあります。今、その魔法を解きますね。――『神々の寵愛の焔』」
黄金の焔が一帯を覆う。魔に連なる存在のみが祓われていく。
怨嗟に満ちていた彼らの声なき声は嗚咽へと変じ、生前の彼らを幻視する。
彼らが僕を見つめてくるから、彼らに敬意を表したよ。
直立し、右手を拳にして左胸に当てる。王国式の最敬礼。
下馬した彼らも僕に最敬礼をしてくれた!
『……少年よ、感謝する。君の想いは、温かいな』
「将軍。あなた方が命がけで築いたが故の結果ですよ」
『そうか、それは報われるな。恩人の名を、聞かせてくれるか?』
「エルナーと言います。不本意ですが、魔王などという二つ名が付きそうですが……」
『ふ、ふふ……。優しき『魔王』エルナー殿。我ら第三騎兵団は貴殿に救われた。我らはこれより天に還ることとなるが、どうか我らの想いを連れて行ってはくれないか』
かつて、国軍最強と呼ばれた兵団があった。
第三騎兵団『ゴルプレッジ』。彼らの全滅が報じられた際、当時の国王が崩れ落ちたほど信厚き者達。
「是非とも。名高き『ゴルプレッジ』の皆様が共にあるならば、これほど心強い事はありません」
満足気に優しく微笑み、将軍は天へと召されたよ。
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