火精
アリーチェが戦場を舞っている。
彼女の使う『炎舞』は、使って踊ったらさぞ綺麗だろうね、とわりと適当に決めたものだった。
それなのにアリーチェはここまで昇華していたんだね……。
アリーチェが斬り捨てたアンデッドウルフが燃え、彼女の周辺は仄かに明るい。
熱量が増し、徐々に速度も増していく。煌々と燃え盛る剣は彼女の流れる黒髪をも照らして幻想的ですらあった。
しばし、見惚れていたよ。
僕もアリーチェも、突出してきたアンデッドウルフは殲滅した。
僕と違って物凄い華のあるのは彼女の天性故だろうか。それともただ、僕が淡白なのだろうか?
地図魔法を確認するも、やはりというかそれ程数は減っていない。
奇を衒った魔法は燃費が悪い。僕もスマートに爆炎で吹き飛ばすべきだったかな……。
まぁ、それは今はいいとして。もう直ぐ第二陣がやってくる。ここからが持久戦本番だろうね。
呼吸を整える。月明りに見えるシルエットから察するにゴブリンかな? つくづく縁がある。
こんな縁など要らないけれど。出迎えるための仕込みをしようか。
アリーチェに倣って少し魅せようと思う。効果はただの爆炎だけど、造形と発現の仕方を工夫するよ。
爆炎を蝶の形に封じ込める。それらをただひたすら量産していくよ。
触れたら爆発というシンプルさだけどそれ故に勝手がいい。
「行っておいで。『火精』」
ひらひらと踊るように飛ぶ火炎の蝶。その数実に五十体。
濃い目に作った火の場から次々と生成されていくよ。
アンデッドゴブリンの様相が『火精』の放つ光によって明らかとなったよ。
まだ肉体が新鮮なもの、腐肉が付いたもの、骨だけのもの。それらが混在していた。
最初に到達した『火精』がアンデッドゴブリンに振り払われた。
ドガアアアアァァァァ!!!
周りを巻き込んで爆発し、その炎さえもが広がっていく!
失敗もあった。数体の『火精』が誘爆してしまったよ。
反省を活かすために爆発に指向性を持たせる。これで自動迎撃のシステム化はばっちりだ!
断続的に爆発音が聞こえてくる。少し余裕が出てきたため他の様子を窺う。
母さんは大丈夫そうだ。何だか活き活きとしてる。
クゥナリア先生の方は……アンデッド多くない? あれ、しわ寄せがいった?
ふと思いついた。地図魔法で『火精』を転移できないかな?
早速試してみる。念のため事前にそれぞれの予定地を見て回っておいてよかったかもしれないね。
側面から出現するように地図魔法で設定し、こちらから『火精』十体ほどを送り込むと右翼から『火精』のマーカーが出現した。成功だね!
指定ポイントを設定すればそこから自動転移できるらしい。これである程度両翼の自動迎撃が出来るようになった!
アリーチェもだいぶ暴れているね。『風の道』の皆さんも討ち漏らしを的確に処理している。
二人の剣士が間を広くとって的確にアンデッドゴブリンの首を斬り落としている。彼らの間から見える個体に関しては後方に構えた二人の弓術士が撃ち抜いていく!
もう一人、僕を魔王などと呼ぶ人だけど、二人の剣士のフォローに徹していた。死角を補う為に片方に寄ったアンデッドを撃ち、かと思えばもう片方が二体以上同時にならないように足を射抜いてタイミングを操作する!
その精密性は流石の一言だ!
思わず「おぉー!」と声に出して拍手していたよ。
それに気づいて僕に深いお辞儀をしてるんだけど、今はそれどころじゃないよね?
アリーチェも僕の視線に気づいたのか、こっちを見て小首を傾げながら笑っている。
『炎舞』で焼かれたアンデッドたちが放つ明かりが彼女をより神秘的に彩っていたよ。
どれくらいの時間が経ったのか。地図魔法上で面のようになっていた敵対マーカーが徐々に点となっていく。
『このくらいの数ならば風が通るですの。残りの殲滅は任せてほしいですの』
「え、でもまだかなりの数がいると思うよ? 大丈夫?」
『大丈夫ですの! ここまで温存してますし、皆にも少し休む時間が必要ですの』
「わかったよ。お願い、くーちゃん!」
『任せるですのー!』
くーちゃんが飛び立ち、母さんの居るあたりの上空で止まる。
くーちゃんの周りから橙色の光が煌々と輝きだし、やがて炎の渦となる!
羽ばたきをする度にその炎が風に乗って戦場を駆け巡りアンデッドゴブリンを焼いていく。
炎の風はアリーチェの近くにも通ったよ。けれど風はアリーチェを焼かず、むしろアリーチェと踊るようにくるくると戦場を奔る。
『炎舞』の熱量も上がったよ! 競うように速度を上げた彼女は炎の風と戦場で踊る!
あぁ、僕も混ざりたい。『火精』を彼女たちの踊りを邪魔しない程度の間隔で囲わせたよ。
火炎の蝶が舞う舞台。炎の風と共に踊る火の乙女は残酷さを以てアンデッド達を焼き祓う!
彼女だけの独り舞台。エキストラたるアンデッド達は彼女を輝かせるためだけの篝火となった。
ふいに、僕を見る。そうして僕に近づいて手を差し伸べる!
「エルナー!」
一緒に踊ろう。そう言われたのだと思うよ。それは本当に魅力的なお誘いだよね!
腰に提げた剣を抜く。あぁ、ごめんよ。しばらく抜いてあげていなかった。
だから今日は思いっきり楽しもう! さぁ、相棒。彼女たちをエスコートしようじゃないか――。
『身体強化』を使う。『炎舞』も使ったよ。嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に並ぶために風になろう!!
アリーチェに追いつき、視線を交わす。
この舞踏のタイムリミットは『火精』の内側に居るアンデッド達の殲滅時。
外側はくーちゃんが焼き尽くした! ならば余計なことは考えまい。ただこの時間を楽しむべきだ!
ひとつ、またひとつと僕らを照らす篝火が増えていくよ。
左手でアリーチェと手を繋ぐ。そうしてぐるぐると踊ったよ!
「「あははははははは!!」」
― レックスside ―
聖鳥クーデリカが上空を飛び、超広範囲の殲滅を行ったため安全が確保された。
そのためレックスは一度レナと合流し、今まさにグルグルと回ってる息子と弟子を眺めていた。
「あいつら……この短期間にどれだけ強くなったんだか」
「そうね、特にエルナーの魔法は異常だわ。エントロピーがどうなってるのか全く分からない」
「アリーチェもだな。いったいどれだけの魔技を扱ってるんだか」
もはや溜め息しか出なかった。自身らの埒外なのだ。
エルナーの魔法の多彩さとその威力に驚愕した。そしてアリーチェの成長ぶりに舌を巻いた。
そして今。エルナーは完全に魔法使いとして活動しているのかと思えばそうではないと分かる。
アリーチェと同じ魔技を扱い、彼女には劣るもののその剣筋はしっかりとしたものだ。
毎日ではなくとも、いくらかは振っていることが窺い知れる。それがレックスには嬉しかった。
「レックス、王都『ファウラ』でエルナーが何て呼ばれ始めてるか知ってるか?」
『雷牙』のリーダー、ラーシャーが言う。『風の道』も合流したようだ。
「あいつにもう二つ名がついたのか?」
「ククッ! あぁ、ついたな。なんと魔王だ」
「はぁ!? ま、魔王ってお前。いやまぁアレ見れば納得なんだが、それにしたって……」
「魔王様はとても素晴らしいお方です……。一生お仕えしたい……」
『風の道』の面々は苦笑いだ。とはいえ分からなくもないというのが本音でもあった。
「あの二人は、Aランクの器だ。今はまだ荒いが、経験を積んでいけば必ずなると思うぜ」
実力で言えば既に抜かれてるしな、と言って笑うラーシャーに妙に納得していた。
あの子らは色々特殊だ。神の愛し子といい、使徒様といい。普通とは言い難い。
であるなら、どうか人生を楽しみ切ってほしいと願わずにはいられなかった。
「あぁ、ちなみにだが二人の二つ名、もうバレてるからな」
「「は?」」
レックスは表情を顰め、レナは表情を消してラーシャーを見やった。
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