二人の実力
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周囲に他の脅威が無いかを探り、問題ないと判断するまで『雷牙』は油断を見せなかった。
「これが、ベテラン冒険者……」
「なんだか、いつもと全然違うね……」
さりげなくルルゥ先生が僕たちを護衛していたんだと気づいた。あぁ、本当にこの人たちは格好いいなぁ……!
ゴブリンの右耳を切り取ってゴブリンの死体をウルフの死体の周りに並べている。
全員が戻ってきたタイミングで、クゥナリア先生が死体を燃やしたよ。
「燃やす事で死体がアンデッド化するのを防いでるんだ。他の地域じゃ獣が食べるから放置しても問題はないんだが、ラーナスタじゃ燃やすのを推奨してるんだ」
大体二十年前に起きた南に広がる秘境エリアの拡大事件。その時の主な相手がアンデットだったそうで、その時の教訓というか、そんな相手がいる秘境が近いということもあって、脅威を減らそうという動きがあったらしい。
それで、切り取ったゴブリンの右耳であるが、討伐証明部位がゴブリンの場合は右耳なのだという。
それにしても、本当に一切の淀みなく戦闘が進んでいた。個々人がそれぞれの動きを把握しているというか、全体で個であると言うかのように迷いなく動いていた。
あれだけ圧倒していて、まるで手を抜いていないのは何故かと聞いてみると、油断して余計な傷を負うのは馬鹿らしいからねぇ、とルルゥ先生が笑って言ったよ。
不意打ちを警戒して怪我を防ぐ。全くその通りだなと思うよ。
次に僕たちが戦ってみることになった。今は手ごろな数がいないか探している。僕も地図魔法で確認してるよ!
地図魔法は僕の視界にのみ映るようにしている。オン、オフはできるのでさほど邪魔にはならないよ。
「いた、あそこ。周囲の視界はいいからこっちもすぐ見つかる」
指された場所を見やれば、確かにいた。地図魔法にも載っている。数は二匹か、確かに手ごろ……うん?
目を凝らしてより遠くを見やり、その後地図魔法で確認すれば三匹のゴブリンも近づいてきている。
「気づかれた! エルナー君、アリーチェちゃん。行けるぅ?」
「「行けます!」」
まずは先制。悪いけど僕が貰うよ! 水と火の場を作り、水を成型し火で熱を操作して急冷する。風の場でルートを補完して……穿つっ!
飛ばした『アイスニードル』は二本。風のルートに完全に乗ったそれらはゴブリンの目を貫くッ!
「「ギャガァァァァァァ!?」」
脳まで達していないけど、問題はないよ。戦うのは僕だけじゃないのだからね。
足を止めるのは悪手でしかない。身体強化を極めた黒い風はゴブリン二匹の命を掠め取るよ……ッ!
ザシュウウウウウゥゥゥ!!
音はひとつ。両断された首は二つ。使った技巧は以前父さんが見せた動きのそれだ。
父さん曰く『天才』は今日、ここで正しく産声を上げたよ!
「うっそだろ、すげぇ……」
「父さん自慢の弟子ですからね! さて……アリーチェ! 体は温まった!?」
「うん! ばっちり! おかわり、だねっ!?」
そう、おかわり。前もおかわりがあったけどね? 今の僕たちは、昔の比じゃあ無いんだよッ!
醜い叫びをあげながらアリーチェを目指して走ってくるゴブリン達目掛けて水と風の場を激しく攪拌するよ。そうして生まれるのは空を奔る雷。アリーチェが射線を開けてくれた。狙い易くていいね!
「ラーシャー先生直伝! 『スタンボルト』ォォォ!」
バリィィィィィ!!!
「「「ギャアアアア!?」」」
決まった! 同時に黒い風が奔ったよ! 一番手前のゴブリンを斬り飛ばすっ!
奥の二匹は少し離れてるね、だから―――。
「『雷蛇』」
落とした雷を操作する。僕の手の動きにリンクしたそれはまさに雷の蛇。
その雷の蛇がゴブリン二匹に喰らいつくっ!
ジュウウウアアアアアアアッッ!!
悲鳴は聞こえない。この蛇の本質はその流れにある。電気とはエネルギーだ。それが流れれば当然熱が生まれる。
ではその流れがより激しければどうだろう。答えは飲み込まれたゴブリンが証明してくれたよ。
『雷蛇』を解除すれば真っ黒に焦げボロボロと崩れていく物体が二つ。その熱量のほどが窺い知れるね。
「エルナー! すごぉい!」
「アリーチェも凄かったよ! 黒い風が奔ったと思ったら一瞬で倒しちゃうんだもん!」
「えへへ、レックスさんの真似もしてみたよ!」
「見た見た! 本当さすがだね!」
「「「「やっば、強ぉ……」」」」
ただいま僕は反省しております。
はい、ゴブリン二匹消し炭にしました。明らかなオーバーキルです。当然ながら討伐証明部位はありません。
「何故……世の中は無情すぎるよ……!」
「世の中のせいにするんじゃない……。それよりも、だ。俺はエルナーにあんな恐ろしいモノ教えた覚えはないんだが……?」
恐ろしいモノ? はてなんだろうか。
「『スタンボルト』の事ですか? さっきラーシャーさんが使ってたじゃないですか。盗めるものは盗めって言ってましたし。原理を見て覚えました!」
「うん、言ってる意味がよく分からん。化け物か? いや魔王か」
人間の子供ですぅ! 失礼な!
「アリーチェちゃんもぉ、なんだか凄かったわねぇ? 身体強化ってぇ、あそこまでできるようになるのぉ?」
うん? 流石に身体強化だけだとあそこまではできないんだけど。
「うぅん、前にエルナーに教えてもらったの。魔技ってどんな感覚で使うのって」
アリーチェは天才である。間違いなく。確かに教えたんだよね。どうやって体を動かしてるのか、動けばどこが負担になるのか、その際の筋肉はどうなっているか。
それらを僕が体を張ったりして教えてたんだけど……なんかいきなり保護部分を魔力で覆ってたんだよね……。
驚いて聞いてみれば、
「エルナーがやってるようなことでしょ?」
って言って……天才ってずるい。
でも、彼女の得意分野は魔技の方面らしく魔法は扱えなかった。それでも、役割分担だね! って笑っていたよ。
その話をだいぶ盛りながら話していたアリーチェが僕をべた褒めしてくるのでそっとその場を離れたよ。
ゴブリンの間引きはひとまず終えてギルドに戻った僕たちは受付のお姉さんにそれぞれ討伐証明を渡した。
カッシュさんは馴染みの冒険者がいたらしく今日の話で盛り上がってた。
と、そんな様子を窺っているとギルマスさんが現れた。
「おう、戻ったか。どうだったよ初めての戦闘はよ?」
「あ、村でも一度襲撃あったのでその時ゴブリンとはやり合いましたよ。当時よりはずっと楽に倒せましたけど!」
「お、おう。ずいぶんな経験してきたんだな……」
僕が興奮気味に『雷牙』の凄さを推察を交えながらギルマスさんに話していると、どうやら『風の道』の皆さんも依頼から戻ったようだ。
ラーシャーさんがなにやら話しているようだけど、ってなに!? 一斉にこっち見た!?
ラーシャーさんに視線を移す。逸らされる。何を言ったの……。
「やっぱり、魔王様の本気は凄いんだ……」
あの女性やたらと僕を魔王呼びするよね? 貴女が言い始めたんですかね? ちょっとお話が必要だろうか。
何か感づいたのか、目がキラッキラしてる。やめておこう。
「あれ? アリーチェにカッシュさん、どこ行くの?」
「ギルドの訓練場に行って、私と模擬戦してくれるんだって!」
わぁ楽しそう。僕も行きたい!
木剣を持って対するアリーチェとカッシュさん。カッシュさんは木盾も持っている。
審判は居ない。全て自分たちの判断で動く。
アリーチェが踏み込み右に薙ぐ! カッシュ先生は無理に盾で防ぐような真似はせず、左足を軸にした半回転で常に守りやすい位置取りをする。
愚直に向かうアリーチェの隙を見て取ったカッシュさんが右手に持った木剣を瞬時に振るう、その瞬間だった。
黒い風が訓練場を奔る。容易く背後を捕ったアリーチェが流れのままに斬りかかる!
確かに背後を取っていた。けれど相手はBランク冒険者。
軸足の回転と僅かなステップで、アリーチェの剣とのタイミングを合わせて斬り上げる!
木剣を離さず無理に振り下ろそうとする一瞬の隙に、カッシュ先生がシールドバッシュで仕掛けたっ!
ヴォンッッッ!!
驚愕に彩られたアリーチェの眼前には、カッシュさんの木盾が止まっていたよ!
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