Eランク
今、僕の前に顔の下半分を布で覆い隠した大人たちがいます。その手には柄の長いトンボを持って目は何やらギラギラとしている。
はっきり言って、怖い。
しかしこの人たちは、僕たちを手伝う為に集まった人たちなのだ。けれど申し訳ないけど本当に絵面が酷いのです……。
「お集まりいただきありがとうございます。早速ですが、作業の方法をお伝えしますね」
昨日の今日といった具合であるのにここまで人を集めるってあのおじさんは何者なのだろう?
それに、よく見れば昨日『黄金の畔』で僕たちを庇っておじさんを説得してくれた冒険者の方々もいるみたい。
軽い自己紹介で彼らは『風の道』というCランクパーティーなのだとか! ベテランパーティーが助けてくれるなんて何だか凄いね!
アリーチェもキラキラした笑顔で昨日世話になった人にお礼を言っていたよ。だらしない顔したけど気持ちは分からなくもないんだよね……。あの笑顔はこう、よろしくない。
その『風の道』の女の人が一人、僕に向かって「よろしくお願いします! 魔王様!」とか言ってたんだけど、何? 魔王って何? 僕の事なの?
「……そうか、エルナーの二つ名は魔王か。ぴったりだな!」
「……僕にそんな厳つい二つ名なんて早いですよ、『移動要塞』さん」
「……やめよう。お互いダメージしかない」
そうですね。
作業を開始する。用水路と言っても、幅も深さも二メートルほどもあり人工の川と言ってもいいと思う。そんな用水路だけど、王都『ファウラ』の中心にある噴水から地下に流れ、一部がこの用水路を通って城壁の外へと流れ出るデザインとなっている。
この地区の用水路の始点が今僕たちがいる場所だ。始点から始めないと水の流れが影響して意味が無いからね。
そんなわけで、水の場を作って流れを操作する。伸ばした紐を持ち上げるイメージで流れる汚水を持ち上げると、感嘆の声が上がった。
「「「「「おぉー!!!」」」」」
「みんな早く! エルナーが疲れちゃうよ!!」
ありがとうアリーチェ! これ結構制御難しくて大変なんだよね……。
さすが魔王様とか聞こえない。『風の道』と『雷牙』の皆さんも頷いてないで助けて?
どうにか搔き集めたヘドロをくーちゃんが焼き尽くすまで保つことが出来た……のはいいんだけど。
水の流れを戻した瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
「エルナー!?」
「つ、疲れた……。思ってたよりずっとしんどいよこれ……」
「凄い汗だな……。ここまでにしておくか?」
質量のあるものを持ち上げ続けているのは辛い。それは魔法であっても同じようで肉体的よりも精神面で消耗があった。土を掘るのとの違いは何か。簡単に言えば動きの有無だろう。
動き続けているならある程度の力の抜きどころというものは存在するが、支え続ける為には一定のエネルギーを捧げ続けなければいけない。体力の調整が利かないのだ。
それでも、と立ち上がろうとした僕をおじさんが止めた。
「無理しないでいい。目に見えて結果は出てるんだ。見てみろよそこから出てくる水の色」
確かに、透明度は上がっている。というか綺麗な水ではある。
そこから少しだけ進むと徐々に汚れてはいるけど……、少なくとも今除去した部分は綺麗だとはいえる。
中央からここに出る排水部は鉄格子が設置されており、見る限り水の勢いはそこそこ強い。
だからゴミなんかは流されるんだけど蓄積されたヘドロがその勢いを殺してる感じである。
これまでの溝さらいでは僕達みたいに一斉に焼却する方法が無かったから遅々とし、これまでの悪習もあって事態は好転することがなかったようだ。
だから今回のこの短時間だけでこれまでを超える成果に、集まった人々は希望を感じたみたい。所々笑い声が上がっていたよ。
「そう、ですね。お言葉に甘えさせていただきます」
「じゃあギルドに戻って報告と休憩だな! お疲れ、エルナー。アリーチェも!」
「私ほとんど何もしてないけどね! お疲れエルナー! 皆さんもありがとうございました!」
「皆さんお疲れさまでした。カッシュ先生もありがとうございます。かなり怪しい格好ですが助かりました」
カッシュ先生はにっこりと笑う。
「エルナー、お前俺になにか恨みでもあるのか?」
いいえ、尊敬しかありません!
ギルドに戻った僕たちはまずは溝さらいの報告をしたよ。
「そうか、分かった。じゃあお前ら今日からEランクな」
「「雑っ!?」」
「やったねエルナー!」
いや、アリーチェ? 喜んでるところ悪いんだけど僕とカッシュ先生はギルマスさんの言葉の軽さを疑っているんだよ?
「聞くだけでも、ここ数年の働きより成果出してんだろ? それでこれまでの溝さらいの報酬と見合うわけないだろうが。だから見合う成果との辻褄合わせだな。手を打ってくれ」
「えっと、そんな簡単でいいんですか?」
「聞いてなかったのか? ここ数年以上の働きをしたんだよ。それを簡単と。なるほど、それじゃ俺たちは無能になっちまうな!」
そういって呵々と笑うギルマスさんに僕は息を吞んだ。そうだ、僕はなんて侮辱をしたのだろう……。
「エルナーは凄い事をしたんだよ? 私はそのおこぼれだけど……。それでエルナーが評価されたんだから素直に受け取ればいいんだよ!」
『そうですの。エルナーはもっと胸を張っていいんですの』
「二人とも……! ありがとう!」
感激のあまり抱き着いてしまった。
「あ、ごめん……嬉しくてつい……」
年頃の女の子になんてことをしてるんだ僕、と反省してるとアリーチェが顔を真っ赤にしながら僕に寄り添った。二人を覆うようにくーちゃんが翼を広げて包んでくれたよ。
「二人とも、Eランクになったことだし午後からは外で魔物の間引きに行くか?」
「「行くっ!!!」」
そんなわけで『雷牙』パーティー同伴で王都の外へ。
常時依頼で西の森近辺のゴブリン退治に赴いたよ!
そう、ゴブリン。僕たちが死闘を繰り広げた相手である!
「ラーシャー、見つけたよぉ。視界右の岩場の奥にゴブリン五匹。ウルフでお食事中ぅー」
「了解。二人とも、まずは俺たちが戦うから見て盗めるものは盗んでいけ。いくぞ……」
それ以降は無言だった。ラーシャー先生が岩場から飛び上がって地面に大剣を叩きつける!
バリィィィィ!!!
雷が落ちたと思うほどの音量で電気が奔る! ウルフを食べていたゴブリン五匹はまともに電撃を受けて動けてはいない。
同時に動いたのはルルゥ先生とクゥナリア先生だ。一番奥側に居たゴブリンの頭部に吸い込まれるように矢が突き刺さった! 位置的に凡そ百メートルはある。そんな距離を正確に射貫くなどどんな筋力を――。
「風で位置と距離を調整できるのよぉ?」
猛禽類独特の鋭い眼で睨まれ、僕はただ首を縦に振ることしかできなかったよ!
ともあれ、ルルゥ先生の弓の腕は相当以上なのだと分かる。
そしてクゥナリア先生だ。ルルゥ先生と同じか少し遅れたタイミングでゴブリンの腹部辺りで小爆発が起こった。心臓諸とも破壊して即死させていたよ!
その間にもラーシャー先生は動いていたよ。二人の射線から外れて一瞬の麻痺から回復する寸前のゴブリンを切り裂く!
「「グギャアアアアアア!!!」」
二匹のゴブリンが怒りに吠える! 二匹はラーシャー先生に背を向けてルルゥ先生たちの方へと走り出した!
その瞬間、ゴブリンたちはカッシュ先生の高速のシールドバッシュで同時に跳ねられた!
ドガアアアァァッ!
悲鳴は上がらない。その衝撃で肺腑が潰れたのだろう。二つ名である『移動要塞』の名に相応しい攻撃力だった。
Bランクパーティー『雷牙』。英雄とも呼ばれる高ランクの冒険者たちは一切の油断なくゴブリン五匹を圧倒して見せてくれたよ!!
お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたなら、『いいね』を押していただけると励みになります!




