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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
冒険者生活の始まり
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黄金の畔

 宿『黄金の(ほとり)』。一階は食堂を営んでおり宿泊客以外も多く足を運んでいる。

 店主夫妻は鬼人族で、故郷の伝手から仕入れているお酒が美味しいらしく、それ目当てに来る人が多いらしい。


 居合わせた女性の先輩冒険者に勧められて、トンガ肉料理をいただいたんだけど、これが滅茶苦茶美味しかった。

 口に入れるとほろほろと崩れるような食感が楽しく、トンガの脂とソースが口の中で絡み合って思わず笑みがこぼれた。

 ありがとう、と礼を言えばお姉さんがにっこり笑いながらあれこれと勧めてくる。どれもこれも美味しいから僕もついいただいてしまった。

 アリーチェも隣で僕と同じように色々と勧められては食べていい笑顔を浮かべていたよ。


 『雷牙』の皆さんも近くに席を取って色々注文していた。

 お酒も頼んだようで楽しそうにしているね。


 ちなみにこの世界、実は飲酒の年齢制限がない。そのため僕とアリーチェも飲もうと思えば飲めるのだけど、二十歳まではやめておこうと思う。前世の両親に申し訳が立たないからね。


 そんなわけで、季節の果実水を頼んだんだけど……ナニコレ美味しい。

 聞けば、鬼人族の国で採れる水がとてもいいモノらしい。僕とアリーチェは思わず一気に飲んでしまったためお代わりをいただいた。店主さんがウインクして二つの果実水を手渡してくれたよ。


「ラーシャーさん、よくここの宿取れましたね?」

「丁度大口の客が引いたらしくてな。運がよかったんだ」

「私たちの日ごろの行いがいいからだね!」


 そうだな! と笑い合って『雷牙』の皆さんのお酒が進む。美味しい食事には楽しい笑顔が無いと駄目だよね!


 なんで僕たちがこんなに和やかなのか。ちゃんと理由があるんだよ。




 「あぁ!? クソガキども!」


 この一言で大体理解した僕のテンションが急降下した。

 冷めた目で見やっていると、すっ、と横から誰かが間に入ってきた。


「おいおい、落ち着けよ」

「なんだお前らは! そのガキどもはなぁ、用水路のドロ掬って悪臭ぶちまけやがったんだぞ!?」

「溝さらいなんだから当たり前だろうがよ?」


 こうして当事者のうち、僕たちを除いて言い合いが始まった。


 どうやら割って入ったのは僕たちが溝さらいを受けたのを見ていた冒険者のようで、僕たちを擁護してくれているのだと分かった。

 初めは、冒険者が宥めるような感じだったのだけど、どんどんエスカレートしていっておじさんの不用意な一言「冒険者のくせに! せめて役に立ちやがれ!」。この一言が冒険者をキレさせた。僕もムカついた。


「ほう? そうか。ならあんたは俺たちよりよほど素晴らしい仕事をしているんだよな? こんなまだ夜には遠い時間から酒を飲めるようなあんたはいったい何をしているんだ?」

「な、なんだその口の利き方は! 俺たちが依頼者なんだぞ!」

「依頼者は何を言ってもいいって訳じゃあないんだよ。せっかくだから教えてやるよ。あんたらの出してる溝さらいの依頼はな、俺たちの間では手を出すべきじゃない『闇依頼』って呼ばれてるんだ」


 なにそれ僕知らない。そんなものがあったんだね……。


「や、『闇依頼』だと!? ふざけるな!」

「ふざけてるのは今のあんただよ。あの用水路を見てあんたどう思うよ?」

「それはお前たちがこまめにやらないからだろう!?」


 いくつもの溜息が重なった。これもう、何言っても通じないんじゃない?


「あの有様を作ったのは誰だ? 言っておくが俺たち冒険者じゃない。俺たちは掃除していた側だからな? なら誰だ? わかっているだろう。お前らなんだよ。冒険者だから? だからなんだ。俺たちはお前らの奴隷じゃない」


 静かに語るその冒険者は、しかしおじさんに対してのみ明確な敵意を見せていたよ。

 荒事に慣れた冒険者の怒り。そんなものを一般の人が一身に受けたりしたら? 何もできなくなるんだよ。仕方ないよ。命のやり取りというのはそれだけで気力を削ぐ。そんな経験をずっとしてきたベテラン冒険者が放つ怒りは威圧のそれと変わらない。


「いいか? それでもこの子らは続けると言っているそうだぞ? 何故だと思う。あの用水路の現状を見て病気を危惧したからだ。優しいとは思わないか?」

「あ……な……なにを……?」

「お前がクソガキと言った子らはな? お前たちの健康を想って成し遂げようとしているんだよ」


 怒りに溢れていても、諭すような口調を続けるのは彼の優しさだろうか。

 僕たちを守るように囲んでいた他の冒険者の方々が、一段落ついたと思ったのか。そっと僕たちを誘導して今に至っている。


 そっと、おじさん達の方を見やれば何故か酒盛りをしていた。いやほんと何故だ。

 号泣しながら何かを言ってるおじさんを、冒険者が頷きながら背中をポンポンと叩いている。

 感じ入るところがあったのか、目頭を押さえ始めて……なにこれ?


 とりあえず、僕たちに影響がないと確認したので楽しもうと思う。

 気になったことがあるのでカウンター席に向かった。


「こんにちは、おかわりありがとうございました。美味しかったです。水が違うだけ、というと失礼かもしれませんがそこまで変わるものなのですか?」

「こんにちは。そうだね、案外水というのも馬鹿にならない要素なんだ。君は魔法使いだね? なら、こう例えてみようか」


 魔力とは、無色透明である。そして想いとは像である。像を魔力に溶かし込み魔法を発現させるなら、その魔力がよりよい状態なら発現という結果もまたより高くなる。


 魔法とは想像だ。けれど魔力を介さねば意味を成さない。像を果実、魔力を水と見るならば、いくら果実()の品質が良くとも(魔力)の質が良くなければ果実水(魔法)という結果は異なってくる。


 なるほど、確かにその通りだ。場を作るというのはいうなれば水を仕入れることと同じと言えるのかもしれない。


「つまり、料理を作る人は皆魔法使いですね!」


 思わずそう言って笑うと、宿の主人も笑って「そうか、俺も魔法使いだったのか!」って言ってくれた。


 鬼人族の国についても聞いてみると、豊かな水源のある場所なのだとか。だからこそ、宿の名前のように黄金色に染まる湖畔もありとても綺麗なところなのだと教えられた。

 ぜひ行ってみたいことを伝えると、その時は俺に言ってくれれば実家あてに手紙を書いてやるとの事。

 実家も宿をやっていて、結構有名どころらしい。そのありがたい申し出に、気づけば隣にいたアリーチェが興奮気味にお礼を言っていたよ。


 『雷牙』の皆さんの席に戻ると、なぜかおじさんがいた。

 少し警戒しつつ戻るといきなり頭を下げられた!


「すまない……本当に済まない……」

「は、はい。ですが、あのような事はもう無いようにしてくださいね? 僕も冒険者ですが、人なんです。とうぜん、傷だってつくんです」

「あぁ、あぁ……その通りだよ……」


 酔っているのもあるんだろう。それでも深く後悔しているのは分かった。


「アリーチェ、僕はおじさんを許そうと思う。きっとあの環境で心が参ってたんだと思うからね。アリーチェはどう?」

「うん、私だってあそこにずっといたら、誰かに当たっちゃうかもしれないし……おじさんも、きっと分かってたんだよね? だったらずっと怒っていても仕方ないよ!」


 アリーチェはいつからこんなに大人になったんだろう……。女の子の成長って早いっていうしこんなものなのかな……?


 アリーチェの言うように、ずっとあの環境に居たためにストレスが相当溜まっていたようで、そこに僕たちが溝さらいをした結果の悪臭で爆発したみたい。

 何をやっているんだって思いもあったみたいだけど、抑えが聞かなくてそのままずるずると怒りを湛えてしまったそうだ。

 分からなくはないけど、当事者となった僕たちは堪ったものではなかったけどね。


「おじさん、僕は今でもあの近所に住む大人たちの為に溝さらいをする気はないです。僕が溝さらいをするのは別の事の為です」

「それは……聞いてもいいのだろうか?」

「もちろんです。ねぇ、おじさん。きっとおじさんが子供の頃もあんな感じだったんだと思う。けど、それを今の子達に強要するのは違うと思うんだ。おじさん、一つ聞きたいんだけど。近所で、子ども達が外で笑って遊んでる姿を、見たいとは思わない?」


 おじさんは目を見開いて僕を見てた。じんわりと、その目に涙が浮かんでくる。

 想像したのだろうか。僕の言った光景を。こうして涙を流したということは決して悪い人ではないのだろう。


「実は、な。近くに、子どもが生まれるんだ……。もし、もしも。俺たちも何か手伝えれば用水路は早く綺麗になるかな?」

「なると思います。今計画段階ですが、どうしても力作業の手が足りませんから……」


 そう、なにせヘドロをかき集める人材が今はアリーチェしかいないのだ。これでは本当に時間がかかりすぎる。下手をすると五年では利かないのではないだろうか?


「なら、近所の奴を俺が説得してみる。できないかもしれないが……その時は俺だけでもやらせてくれないか?」

「よろしいのですか? では、その際は依頼を取り下げたほうがいいかもしれませんね」

「えっ!? しかし、それでは君がタダ働きになるじゃないか!?」


「僕の目的は、あの病気の温床をどうにかすることですから。あれは、端的に言って毒です。あんなものを残しちゃいけない。あなたの子の為でもありますよ? 僕たちが動いていれば、いつかこの活動が広がって用水路をきれいに保つ動きが広がるかもしれない。そうなれば、いつだって子ども達が安心して外で走り回れる未来があるかもしれない」


 未来の在り方を提示され、いつの間にか酔いも醒めたのか真剣な面持ちで僕たちに深く、頭を下げていたよ。

お読みいただきありがとうございます!

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