エルナーの怒り
特に絡まれることもなく、並んでいた人たちも特に問題を起こすわけでもなく順調に検問は進んでる。
漫画ではこういう時何かしらあると思うんだけど、まぁ現実はこんな感じだよね。むしろ問題ばかり起こっていたら検問してる兵士さんたちが過労で倒れそう。
ラーシャーさんが言うように、昼過ぎ頃に僕たちの番が回ってきたよ。
「身分証はお持ちですか?」
「冒険者証を」
「確認します。……はい、確かに。ようこそ『王都ファウラ』へ!」
え、すごいあっさりしてるような? こういうのって魔道具とかで確認とかするんじゃないの?
ってそうか。道具に魔法を付与できないんだったね……。
そうなると身分証って偽造し放題なのでは?
「エルナー、なに悪い顔してるんだ……。言っておくが、偽造はできないからな?」
「な、なんで……僕を、いったい何だと思ってるんですか?」
「目が泳いでるぞ」
各国共通の身分証として、今回ラーシャーさんが見せた冒険者証のように、商人が持つ行商手形、国民が持つ住民証がある。
住民証は各々の街の領主が一定の間隔でまとまった数の発行を許可するらしい。
僕は持っていないけど、雷牙の皆さんと行動しているから必要がなかったみたい。
では、どう判別しているのか。これは少し怖いのだけどそれぞれの身分証の側面に溝があって、そこに血を少し入れる。すると、血に宿る魔力が身分証に定着するため、その魔力と所持している人の魔力が一致しているかを確認できるよう、訓練を終えた専門職が詰めているのだとか。
おそらく。血に宿る魔力が当人の想いに寄って身分証に定着したんだと思う。これが予想通りであれば、魔法の定着、つまり付与を『無意識下』で行っていることになる。
そういえば、以前くーちゃんが羽ピンと首飾りに魔法の付与をしたとき言ってたっけ―――。
「ん-? エルナー君どこ行くのぉ? こっちよぉー?」
「……ごめんなさい、考え事してました」
とりあえず後でまた考えよう。今は冒険者ギルドだね!
この世界でも冒険者ギルドは冒険者ギルドなのである。元々はなかった組織だけど、例のエントロピーを提唱した『魔法使いの父』様が魔法ギルドを設立したのが始まりなのだそう。
魔法ギルドが若手の育成のために造ったのが魔法学院だね。
それぞれを差別化しようって流れが起こったらしく、冒険者、商人、魔法、傭兵といったギルドが設立されることになったらしい。
冒険者と傭兵は何が違うのか。そう思ったんだけど聞けば全然違う。
冒険者とは対魔物の専門家で、魔物の被害や災害の調査や対応を行い、平時には魔物の間引きを行っている。とはいえ、いつも魔物がいるわけでもないために採集や雑用なども行っているそうだ。
傭兵は対人のスペシャリスト。賊の制圧や行商人の護衛を主に行っていて、その際に魔物と対峙することもあるけど冒険者との違いがそこにある。冒険者は素材を剝ぎ取るが、傭兵は護衛が最優先な為に魔物を殺したのち、燃やす事で行商人の時間を確保するそうだ。
そんな話を聞きがてら歩いていると、とうとう目的地へと着いたよ。
冒険者ギルドの中へ入る。と、同時に多くの視線が僕たちに刺さる!
漫画のテンプレというものには、こういう時絡まれるという。でもね、僕は知ってたよ。
先輩方、僕とアリーチェを見やってにこやかに手を振ってくれる。だから僕達も笑顔で振り返したよ。
何人かの先輩が胸に手を当てて悶えてたけどどうしたんだろうね?
受付前の列に並んでギルドの中を見回すと、人が集まるのは3か所あることが分かる。
一つはここ、受付周辺。一つは僕たちに手を振ってくれた方々の居た待合室のような椅子とテーブルが並んでいる一角。そして最後にいわゆる掲示板のある場所のようだ。
「お待たせしました。どういった御用でしょうか?」
「この子たちの冒険者登録を頼みたい」
「「よろしくお願いします!」」
「規約により、十二歳未満は登録できませんが大丈夫ですか?」
「僕とアリーチェは、先日十二歳になりました」
ではこちらに記入を、と受付のお姉さんに差し出された用紙を読み問題ないかを確認する。
名前、年齢、得意武器。え、これだけ?
思ったよりも相当あっさりと登録まで済んでしまった。僕の表情を読み取って苦笑いを浮かべたラーシャー先生が、こっちだ、と言って僕とアリーチェを隣の誰もいないカウンターに連れていく。
しばらく待っていると、奥からとても厳ついおじさんが死相を浮かべてやってきた。
「……雷牙が来てるって聞いてみれば新人の世話か?」
「世話というか護衛というか……それよりギルマス、どうしたんだ?」
「陳情がな……滅茶苦茶多くてしばらく寝てないんだよ……」
冒険者ギルドって、前世で言うところのブラック企業なのだろうか。あぁ、企業じゃなくて組織だったね。どっちにしても真っ黒なの?
まったく覇気の感じられないギルマスさんの説明を聞いていく。
冒険者には等級があり、最低Fランクから始まり最高がAランク。Cランクにもなればベテランであり、それ以上のBランクは英雄、Aランクに至っては人外とさえ言われるようだ。
というか、そんな説明を新人にしないでほしい。人外て……。
僕たちは当然Fランクからであり、街中の雑用からしか依頼を受けられない。
仕事をするということを学びながら、定期的に行われる冒険者講習を受講することを勧められた。
「しかしまぁ、雷牙が護衛する新人とか。どっかのお坊ちゃんお嬢ちゃんかよ?」
「口が過ぎるぞギルマス。エルナーはあの『鉄鬼』と『魔女』の子どもで、アリーチェは『鉄鬼』の弟子だぞ」
ガタッ!!!!
待合室の人たちが一斉に立ち上がった! ていうか全部の視線がこっちに向いてる!?
「まって、ラーシャー先生、お願いまって。色々訳が分からない。『鉄鬼』ってなに? 『魔女』って?」
「レックスとレナの二つ名だな。色々あってそうなった」
「ざっくりとした説明が逆に怖いよ……」
母さんは肥溜め君……違った、弟子入り志願の青年含めて結構訪ねてきてたから凄い冒険者だったんだとは思ってたけど、父さんも二つ名あったんだ。知らなかったなぁ。
まぁ、自分の二つ名を自慢気に言うのは相当勇気要るもんね。
そんなこと思いつつカッシュ先生を見つめていたら凄くいい笑顔を向けられた。
「『移動要塞』……」
「よし分かった。登録が終わったらバテるまで打ち込んで来い?」
ひぃ!?
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽
「エルナーのお父さんとお母さん、凄い人だったんだね……。私、レックスさんの弟子だったんだね……」
「アリーチェは弟子だったと思うよ? 父さん、アリーチェの成長ぶりを随分喜んでたし。『あの子は天才だ、必ず俺を超えるぞ!』って言ってたもん」
「わぁ……! 嬉しい! 頑張らないとだね!」
「なぁ、おい。ラーシャー。あいつらの今の話マジなのか?」
「マジだ。エルナーに至っては『魔女』を超えてるとすら思うぞ」
「……マジ、かぁ。ちなみにあの坊主、使える魔法は?」
「全部だ」
「は?」
「全部だ……。いや、全部と混ぜ合わせた色々と、だな……。魔技も自作してた……」
「……はぁ!?」
なんか、ギルマスさんが化け物を見るかのように僕を見てるんだけど。こんな幼気な少年を見る目じゃないよね? ちょっと和ませた方がいいのかな?
ここのところ乱用してるオリジナル魔技の威力をご堪能あれ! 『夜目』!
「「ぶふぅ!?」」
不意打ちを食らったギルマスさんと巻き添えのラーシャー先生が爆笑している。
うんうん、存分に笑うといいよ。笑えば気持ちがすっきりするからね。
散々笑ったギルマスさんはなんだかすっきりしたようだね。死相が若干和らいだ気がする。
気になることは色々あるみたいだけど、今は僕たちに冒険者の説明の時間だ。きっちり仕事をしてほしい。
Fランクの仕事としては、王都内の雑用がメインだ。とはいえ、庶民が暮らすエリアが主である。
そんな雑用の中でも特に人気がない、というレベルを超えて誰もやらない依頼があり、その件で陳情が増えすぎて困っているとのこと。
生活用水路の溝さらいである。誰もやらないため、悪臭が酷くなってしまったらしい。
そこで、僕とアリーチェにやってもらおうと期待していたところに両親の事である。期待の新人にそんなことを任せられないと思ったそうだ。
「僕は構いませんよ」
「私もやります!」
「本当か……? 助かる……っ!」
おぉう、泣いてしまった……! 本当に困ってたんだね……。
必要な道具はギルドから貸してくれるらしい。長い柄のスコップと台車、大きな袋を渡された。
それらを持ってギルド職員に案内してもらう。雷牙の皆さんは獣人が故に臭いがきついとのことで宿の確保をしてくれるそうだ。
後ろについて進むほどに臭いがきつくなってくる。というか、これは酷すぎるのでは?
「うぅ、気持ち悪い……」
「確かに、これは酷いね……」
確かにこれは陳情が大量に来るだろうね……もはや腐臭のレベルだ。
それに気になることもある。近所の人たちの顔色が悪いなんてもんじゃない。
用水路を見て、僕は激情に駆られたよ……! これは、この現状は。ここに住む人の自己責任じゃないか……!
見ただけでわかる。濁りきった水の色に所々に浮かぶゴミ、ゴミ、ゴミ!
臭いがきつい? 当たり前じゃないか。水が汚い? 当たり前じゃないか!
冒険者が溝さらいをしてくれない? それ以前の問題じゃないかッ!!
そんな僕の怒りを感じ取ったのか、アリーチェが怯えている。
僕はギルド職員に、自分でも驚くほどに冷たい声で尋ねたよ。
「ここの人達は、馬鹿なのですか? 自分で汚して、それを人のせいにして。冒険者が溝さらいしないからだと責任転嫁して。気分が悪くなる? 当たり前じゃないですか。そういう風にしてるのはこの近所の人達でしょう? 生活の中で出るゴミが、こんなに浮いている。もう一度聞きますね、ここの人たちは、馬鹿なのですか?」
僕の目の前には、悍ましいまでの病気の温床が悪臭を放って存在していた。
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