王都へ向けて
今更ながら名前のリンク直しました……。
「「行ってきます!」」
「あぁぁ……エルナーが離れてくわ……」
「レナ、決めただろう。笑ってやれ。エルナー! がんばれよ! 雷牙も頼んだぞ!」
いよいよ王都へと旅立つ日がやってきた。文字通りの十二年、ずっとこの日を待ち望んでいたんだ……!
雷牙というベテランパーティーにその場その時に指導をしてもらう予定だ。
「エルナー、街道とはいえ魔物が出ないわけじゃない。興奮するのは分かるがそんな時だからこそ落ち着いて行動だぞ」
「はい、ラーシャー先生!」
「本当に冒険が好きなんだな! ただの移動なのに随分楽しそうだ!」
「それはそうですよカッシュ先生! 僕にとっては初めての遠出で冒険……は初めてじゃないね」
雷牙の皆さんと丁寧に話を付けて、気軽な口調で話をすると取り決めたよ。もっとも、決め手になったのはくーちゃんの、『エルナー達を困らせないでほしいですの』だったんだけどね。
それでも僕はこっちのほうが断然嬉しいよ。
「ふぅん、アリーチェちゃんは本当にエルナー君の事が大好きなのねぇ」
「うんっ!」
「あはは、凄くはっきりしてるなぁ。ボクはきっと恥ずかしがっちゃうなー」
「えっとね、エルナーにはちゃんと伝えないと駄目なの。恥ずかしいけど、黙っちゃうと絶対に伝わらないもん!」
「あ、はは……。苦労してるんだねぇ」
アリーチェ……? 大丈夫だよ? 僕ちゃんとわかってるよ?
大切な幼馴染が大好きなのは僕も一緒だからね!
「確かにねぇ、あれは絶対勘違いしてるわねぇ」
「でしょ!」
……納得いかない。ねぇカッシュさん? 僕の肩をぽんぽん叩きながら深く頷かないで?
「ねぇ、ラーシャー先生。王都までどのくらいかかるの?」
「ここから徒歩、このペースなら三日目には着くな。初日は野宿でその次は村で一泊だ」
「おぉ、野宿!」
「おいおいエルナー、普通は村で休む方で喜ぶんだぞ?」
分かってない、分かってないよカッシュ先生!
「カッシュ先生。駄目だよ、まるで分かってないよ?」
「おぉ、さすがアリーチェだね! 信じてたよ!」
「うん! あのね? カッシュ先生。エルナーは普通じゃないから野宿のほうが好みなんだよ!」
「裏切られた……」
「だって、エルナー野宿のほうが冒険っぽいって思ったんでしょ?」
「そうだね、それにこの恵まれた状況で野宿を経験するのは僕達には大切なことだもん」
安全に経験を積めるならばそれに越したことはない。設営から見張り、出発までの流れを知らないままだといざという時に困ることになるからね。
「意外とちゃんと考えていたんだな……いや、びっくりした」
雷牙の皆さん。一体僕を何だと思ってるんですかね?
「確かに、そういったことを教えてこその指南役だしな。ただ、覚悟しておけよ? 快適とは真逆の夜を過ごす事になるからな……」
「それはもちろんです。冒険をする以上は過酷な環境下で過ごす事もあるでしょう。アリーチェには悪いと思うけど、僕はそのことで甘えを見せるつもりはありませんよ」
「ねぇラーシャー。エルナー君ってぇ、本当に十二歳なのぉ?」
「レックスが言うには本当だな。俺も信じられないが」
「ボクが十二歳だったころは、もっとませてたような気がするなー」
「そうねぇ」
「ちょっとは否定してほしかったかなぁ……」
「あの、雷牙の皆さん。僕を何だと思ってるんです?」
「「「「神の愛し子」」」」
「あ、はい……」
「エルナーはエルナーだよ!」
「アリーチェ大好きっ!」
「うわわわわっ!? わきゃー!」
緊張感も何もない道中を進み、何事もなく日が傾いてくる。ラーシャー先生が見通しのいい場所で止まる。
「今日はここで野宿しよう。暗くなる前に済ませるぞ」
そう言ってバックパックを下すと中身を取り出す。
バックパックの側面に備わっていた金具を棒状に組み合わせて固定し、鉤状の突起に引っ掛けるのだろう、木製の輪を縫い付けた大きな布を、棒状の金具に付けて地面に固定する。
反対側は、布がしっかり張るように距離を取って打ち付けた。
そうしてできたのは、天井部分だけが覆われたものだった。
「ラーシャー先生、これは?」
「雨避けだな。急な雨で濡れて体力を奪われないためのテントだ。野営用だな」
「テントって、全体を覆ってるやつじゃないんだ?」
「まぁ、それでもいいんだけどな。けど、冒険者は大体このタイプだよ」
そもそも雨避けに仕えるような布は厚く、全体を覆うとその分嵩張るし重い。
魔物を狩って素材を剥ぎ取ってお金に換えるような冒険者にとって、デメリットでしかないという。
それに、いざという時周りが囲まれてるとその分対応が遅れてしまう為、こういった周囲が開いたテントのほうが生存率を高められるのだ。本当によく考えられているな、と感心してしまうね。
それになによりも、だ。この世界にマジックバックなどという便利アイテムはないのだ。
以前母さんが言ってたしね。人では装飾品に魔法を付与できないって。
ならば僕もそれに倣うまでだ。エリカお姉様やレスター兄様だよりにはなるまい。
「あとは、トイレの準備と焚火の用意だな」
「野宿っぽい!」
「野宿っぽいね!」
「いや、野宿って言ってるだろう……」
というわけで僕はトイレ作り。といっても、離れた場所に穴を掘るだけらしい。
暗黙の了解で、女性が使う際に男性は決してその方向を向いてはいけないというものがあるらしい。まぁそうだよね。
「どのくらいの深さ?」
「膝くらいまでだな。あまり浅いと、次の奴が掘り当てるかもしれないからな……」
「あぁ……そうですね。あ、そうだ。魔法使っていいですか?」
「ん? いいぞ、ちょっと楽しみだな!」
カッシュ先生って魔法を見るのが好きみたいなんだよね。村にいるときも、よく僕や母さん、クゥナリア先生で訓練してるのを見てたみたいだし。
とりあえず土の場を作る。予定地の半径50cmほどの円形で地面を掘り下げる。だいたい十センチメートルくらいでいいかな?
跨いで落ちない程度の幅でさらに掘り下げる。掘った土はテント側に積み上げたよ。
簡単だけど女性用のトイレが完成した。
「カッシュ先生、女性用はこんな感じでいいかな?」
「……エルナー! お前本当に凄いな!」
えっ、抱き上げられた? わーい高い高ーい……。
「カッシュー? 何してるのぉ?」
「ルルゥ、見てみろよ。エルナーがすげぇことしやがったぞ!」
「どれぇ? え、これトイレなのぉ!?」
驚愕してるのに間延びした口調ってなんだかほんわかするね。あとカッシュ先生そろそろ下ろして?
「へぇ、一段下がってるのねぇ。それにテントのほうに盛り土があるから覗きの心配が減るわねぇ」
「誰も覗かねぇよ。後が怖い」
「クゥに言っちゃおー」
「おいっ!?」
「カッシュ先生はクゥナリア先生の事好きなの?」
「わぁ、ストレート。そうなのよぉ」
「そうなんだね、じゃあルルゥ先生も安心してラーシャー先生と結ばれるね!」
だいたい目で追ってるのを見かけるし、きっとそうなんだろうね! 先生たち皆には幸せになってほしいね!
「……え? な、なに言って」
「いつも目で追ってるし、そうじゃないの?」
「エルナー、そのくらいにしておけ。他人がとやかく言うもんじゃないぞ」
「あ、そうだね。ごめんなさい」
「まぁ、うん。その鋭さをぉ、アリーチェちゃんにちゃんと向けてあげてねぇ?」
これ漫画で見たことあるなぁ、なんだっけ……あぁ、たしかブーメラン。
「エルナー君、トイレ以外にもお湯とかありがとうね! ボクも水魔法が使えれば快適な野宿ができたんだけどなぁ」
「確かに、野宿とは思えないほど快適だな……。魔法使いって凄いな」
「そうだろう!」
「なんでカッシュが偉そうなのぉ?」
「「あはははは!」」
あぁ、楽しい。僕の希望で干し肉と黒パンと塩スープといったメニューだけど、さすが慣れてるんだね。僕の野宿デビューは今のところ大満足だ。アリーチェが笑顔なのもポイント高いね。
「さて、夕食も済んだし見張りを決めよう」
「エルナーとアリーチェにも経験積ませるのか?」
「そのつもりだ。構わないよな?」
「「はいっ!」」
最初の見張りはカッシュ先生、クゥナリア先生、アリーチェの三人。次がラーシャー先生、ルルゥ先生、そして僕。
もし戦闘になった時、バランスがとれるようにこう分かれた。
初めは三交代にするのかと思って聞いたけど、二番目がかなりきついから無しとなった。そうだね、少し寝て見張りしてまた寝て……たぶん一番疲れる。
思ってたより疲れてたのか、さくっと眠れた。いや、くーちゃんのおかげか。くーちゃんの抱き枕を作ったらみんなが幸せになれるに違いない。
「おはよう、お疲れ様アリーチェ。ゆっくり休んでね」
「うん……おやすみ、えるなぁ」
あらら、ふらふらしてる。くーちゃんに癒されてくるといいよ。
「おはようございます。よろしくお願いします」
「あぁ、夜間に活発になる魔物もいるから気を付けるようにな」
「はいっ!」
「静かにねぇ」
「あ、はい……」
「「ふふふふっ」」
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