より踏み込んだ訓練
「「エルナー! ……アリーチェ!?」」
僕は父さんに、アリーチェは母さんに抱きしめられた。さもありなん。この惨状を見れば誰だって心配する。
この現状を作り出した存在にジト目を向ける。
『…………』
こら、くーちゃん。目を逸らさない!
けど叱ることなんてもちろんできない。僕たちを想ってのことだもの。
漫画では確か、オーバーキルって言ってたかな?
「二人とも、怪我はないか? それにアリーチェちゃんはなんでここにいるんだ?」
「そうよ、お母さんに出ちゃダメって言われなかったの?」
「ぐすっ、ごめん、なさい……」
「まって、父さん。母さんも。僕たちに怪我はないよ」
さっきの出来事をすべて話したよ。
さすがに驚くよね。ゴブリンとはいえ8歳の子供が倒したんだから。
それも、四匹の群れを。
「クー様、二人を助けてくれてありがとうございます」
『いえ、私が倒したのは最初と、後詰で来た一匹。その二匹だけですの。残りの三匹はこの子たちが頑張ったですの』
くーちゃんが接敵から避難指示までの行動、最後の一匹をアリーチェが倒したことまで正確に伝えてくれた。僕も伝えたけど、いくらか抜けたしそれに、使徒の口からなら間違いなんてありようがない。
二人とも唖然とした様子だったけど、徐々に涙を溜めて再び抱きしめてくれた。
「エルナー、この馬鹿。けど、よくやった」
「父さん、痛い。折れる……。頑張ったよ。ちゃんと、人を護れたよ。最後、ドジしちゃったけど」
「アリーチェちゃん、エルナーを助けてくれてありがとう。大好きよ」
「うぅん、最初にエルナーが助けてくれたから、格好良かったんだよ? 私もね、レナさん大好き……」
「ふふ、後でエルナーのお話いっぱいしましょうね?」
「うん!」
ちょっと? あまり恥ずかしい話しないでね?
危機が去ったことを悟った村の人たちが僕たちを囲んだ。
家の中から僕達の戦いを見てた人が泣きながら感謝をしてくれたよ。
そろそろ、話さないといけないことがあると思うんだ。
誰もがチラチラとそこを見やるし、みんな気になってるもんね。
この広場の土が、ガラス状になってるんだもん……
『その……皆様、申し訳ありませんですの。つい、カッとなってゴブリンに対して過剰に攻撃しましたの』
シュンとしたくーちゃんがかわいい。
ともあれ、その戦闘を見た人を筆頭に集まった人全員が首を縦に振った。
「エルナー? 風の魔法が使えたの?」
「う、うん。必死だったけど何とか使えたよ?」
「突風を吹き付けてその風にトーチで火をつけたってどういうこと?」
「う、えっとね、火って風に煽られると大きくなるでしょ? だから行けるかなって」
「普通、消えるわよ? どういうこと?」
「えぇっと、そう! くーちゃんのこの首飾りにね、温度調整の魔法をかけてもらってあるんだ!」
「さぁエルナーお家でじっくりお話ししましょうか?」
まって、母さんまって。早口怖いから、歩くから引きずらないでねぇ!?
あ、アリーチェが手を振ってる。またね、ってくーちゃん? そっち行くの? 待って助けて!
「よく考えたら僕何も悪いことしてないし母さんが怖いのは気のせいだよね」
「あら、私はいつも優しいわよ?」
「ソウダネ!」
ここで言い淀んではいけないのだ。父さんが言ってた。
「……エルナー。装飾品に魔法の付与というのは人にはできないの。だから、あまり人前で言わないようにしなさい?」
「……そうだったんだね、ありがとう母さん。知らずに失敗しちゃったね」
「大丈夫、ここの村の人たちはあなたを守ってくれるわ。小さいあなたが、誰よりも頑張ったのを知ったから……」
今日はよく抱かれるなぁ、とぼんやり思う。ふと、いつも視界の端に出してる地図に赤いマーカーが浮かぶ。村のはずれのほう、僕らの定位置の川辺付近。
伝えるべきだろうか、いや、躊躇なんてしている場合じゃ―――。
「……えぇ、わかりましたエリカ様。ごめんねエルナー。ちょっと野暮用が出来ちゃった」
「……はい、行ってらっしゃいませ」
……エリカお姉様ぁぁぁぁぁ!!!
「さて、母さん。どういうことなの?」
「えっと、なんの事かしら?」
ほう、惚けますか。いいでしょう。でしたらこちらにも考えがあります。
「酷いです母さん……母さんなんて嫌うぶぅ!?」
「ごめんなさいエルナー! それ以上は言わないで! 泣いちゃう!!」
苦しい!? 溺れる!?!?
「以前の女子会で、クー様を介すのは不便だからってエリカ様がこれを、ね」
「指輪?」
「えぇ、エルナーが生まれた時に作った、記念の指輪。レックスも持ってるわよ?」
「知らなかった……結婚指輪じゃなかったんだね」
「あら、それ素敵ね?」
結婚指輪って風習はないんだね。
けれどなるほど、そんな指輪だから想いが強かったんだね。
それにしてもエリカお姉様?ずいぶん干渉してると思いますけど?
『……最近、エルナーが冷たいと思うの。私はこんなにも大事に思ってるのに……反抗期かしらね?』
エリカお姉様のことは大好きです。けど、僕の事ばかり気にしてたら仕事が疎かになるんじゃないですか?
『なんでそれをっ、いえ、何でもないわよ?』
……仕事を疎かにする人は『まってエルナー! あなたのそれは私やレスター、レナに尋常じゃないダメージになるのよ! 許してっ!』……はい。でもちゃんとしてくださいね?
神様に説教する八歳。なんだろうこれ……。
魔法の在り方についてショックを受けた母さんは、僕と一緒に魔法の実践訓練をしている。
講師はくーちゃん。エリカお姉様から必要な知識を与えられているからこそだ。
『すべてが間違っているわけではないですの。在り方の意識を少し、ずらすだけですの』
これまで単色の魔力でしか使ってなかった魔法を複合させる、合成魔法。
僕がゴブリン相手に使ったあの悍ましい炎風はエリカお姉様の加護なしでも再現は可能とのことで、目を輝かせた母さんが張り切っている。
合成魔法を習得できればやれることはかなり増える。だからこそ気合いを入れて学ばないといけない!
……それに、危険は遠いモノじゃないって分かったんだ。二度と、アリーチェを亡くすなんて怖い事態になりかけるなんてこと、させはしないぞ!
「ふぅ、難しいわね。でもやりがいがあるわ。ふふ、こんなに魔法が楽しいのはいつぶりかしらねぇ」
「出来ないことを学んで出来るようにする。未知を既知に。それが楽しいのは母さんも『冒険者』だからだよね!」
「あら? ふふ、そうね。『冒険』はワクワクするものね?」
そんな和やかな僕たちとは打って変わって高速移動で打ち合う二人組。
身体強化を使って挑むアリーチェと、向上を以て受け手を務める父さん。
激しすぎて何をしてるのか分からない。たぶん斬り合ってるっていう感想しかない。
僕には剣の才能はないのだろうか……。
「「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ……」」
「二人ともお疲れ、はい、お水」
僕は二人の前に冷やした水を浮かべると、ふらふらと寄ってきた。
気持ちよさそうに顔を洗う二人を見て、魔法って便利だと改めて思う。自由度が高すぎる。
「ふぅ、ありがとうエルナー」
「疲れたー。結局一度も守りを抜けなかった!」
「はは、そう簡単に超えさせてやれるものか」
「二人とも凄い動きだったね。僕にはとてもとても……」
……? なんか飛んできたな、っておい。
「アリーチェ、なんで木刀投げるの?」
「見ないで風魔法で木刀防ぐとか私には無理だからね!」
「……? 何が言いたいのさ?」
「エルナーは魔法! 私は剣! これで相性はばっちりだよね!」
「っ! そうだね! よーし、アリーチェに置いて行かれないように僕も頑張らないと!」
「……えっ」
また遠くなるの? という呟きは僕には届かず、夕飯の時父さんがこっそり教えてくれた。
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