魔力欠乏
「ぐぅ……おおぉぉ……」
激しい頭痛と気怠さで一気に目が覚め、頭を抱えて蹲っております……。
あとめちゃくちゃ寒い。前世でもここまで酷い悪寒は経験が無いから、結構怖いぞ……。
『深呼吸をゆっくり繰り返すですの。今、体内の火の魔力が極端に減っているから、その影響で体温の調整が上手くできていないですの』
すぐそばから聞こえてくるくーちゃんの声に、無理をして『神々の寵愛の焔』を行使し続けたのを思い出した。
なるほど、これがいわゆる魔力欠乏症ってやつなのか……これは確かに辛い。
体温調整というのは生物の要の要素であり、この世界線においては無意識下にて火の魔力を用いて行われている。ということは、魔力が足りていないと体を健康に維持するための機能が働かず、最悪死に至ることがあるために魔法使いは己の限度を知る必要がある。
その限度を超えた結果がこれ。頭の奥がズキズキと痛み、体は勝手に震えて呼吸も思い通りに行えない。
それでもどうにか深呼吸を繰り返し顔を動かすと、僕に覆いかぶさったくーちゃんと目が合った。
『そうですの……ゆっくり吸って……吐いて……その調子ですの。さあ、今はもう少し眠るといいですの……』
柔らかな翼が目を覆い、温かさに包まれてゆっくりと意識が沈んでいくのが分かった。
体内の魔力も安定し、再び目を覚ました時に教えられたのは、どうやら僕は二日も眠っていたらしいということだ。
その間くーちゃんが僕の体温を調整してくれていたらしく、こうして無事に目を覚ますことができたのはくーちゃんのお陰だ。お礼を言うと珍しく照れた様子で、頬にすり寄ってくるのが可愛かった。
「あっ! エルナーが起きてる!」
「おお、本当だな。おはようエルナー、体調はどうだ?」
くーちゃんといちゃいちゃしていると、テントの入り口からアリーチェとレグナントさんが入ってきた。……今気づいたけれど、ここレグナントさんのテントの中か。
「おはよう、アリーチェにレグナントさん。おかげさまですっかり良くなりました」
「俺は何もしていないさ。まぁ、なんだ。とりあえず今日は様子見で、大丈夫そうなら明日出るとしようか」
「あ……すいませんでした、僕のせいで足止めしてしまって」
「バカを言うなよ? エルナーには大恩がある。そんなになってまで守ってくれたんだろう? それでも気にするっていうのなら、明日元気な姿を見せてくれればいいさ」
そう言って笑いながら、僕の頭をがしがしと撫でてくる。アリーチェも隣に座り、僕の顔を見て首を傾げてニコリと笑う。釣られて僕も笑みを返すと、なぜかデコピンをされてしまった。
「いたっ!」
「確かにエルナーは無茶をしたよね。それで倒れて、今までよりもずっと危ない状態になって。すっごく、すーっごく心配したんだからね?」
「う、うん、ごめんね? いたっ!」
理由も分からずまたデコピンを頂戴してしまった。
「どうして謝るの? エルナーは何か悪い事でもした? 倒れたのは、この草原を……それ以上の物を守ろうとしたからだよね? それなのに謝られちゃったら……支えて見ているしかできなかった、私はどう償えばいいの?」
心を揺さぶられる思いだった。そんな風に思い詰めているだなんて、想像もしなかった。
考えるよりも前に、ありのままの言葉が勝手に口から出ていく。
「違うよ、アリーチェが償うことなんて何ひとつだって無い! 支えてくれる人がいるから、僕は全力を出し切れるんだ! あの時、アリーチェが居なかったら……僕はきっと不安に押し潰されていたと思うんだよ」
前世で味わった痛みも苦しみも、耐えることができたのはお母さんとお父さんの愛情を、確かに感じることができたから。
歪みを正した時だって、アリーチェの温かさを肌で感じることができたから、僕は全力以上の力を出せた。そのことを気に病まれるのは、ひどく悲しい事だった。
「みんながいなかったら、僕はきっとどこかで諦めている。誰かが支えてくれているから、僕は僕らしい冒険者として行動できる。断言できるよ……転移直後、たった一人海にいて……レグナントさんと出会うまで、凄く心細かったから。たった数時間だったけど、本当に不安しかなかったんだ」
黒い瞳が僕をじっと覗き込んでいる。逸らす事はしない、嘘偽りなく本心を語っていると証明するために。
その想いが通ったのがは分からないけれど、アリーチェの表情が柔らかくなり、横からレグナントさんが小さく噴き出したところでアリーチェも笑い始めた。
「……え?」
「あはは、ごめんね? ただ……エルナーが倒れた時に、レグナントさんが言った事と一言一句違わずに言うから、おかしくて……ふふっ」
「まさに想像通り、だな! はははっ!」
「え? ……え?」
倒れた時の事を教えてもらうと、その時にレグナントさんがアリーチェに言った、僕ならこう言うだろうという予想通りに発言したらしい。
ひと月も満たない付き合いなのに、そこまで見抜かれるとか。僕ってそんなに単純なんだろうかと心配になってきた。
そのことで少しばかり拗ねていると、レグナントさんの方をちらりと見たアリーチェがにんまりとし、楽しそうな声色で告げた。
「そのときにレグナントさんがね、エルナーの手を取って……こう、額に持って行ってね? ありがとうってお礼を言っていたんだよ?」
「ちょ、おいおい、今それをばらすのか……」
どうやら少し恥ずかしかった様子で、狼耳と尻尾が反応している。
「ほほう……具体的には?」
「えっとね……」
僕たちが茶化すようにしていると、不意にレグナントさんが良い笑顔で僕の手を取る。
「ありがとうな、エルナー。君のおかげで救われた」
「……あ、う? えっと……?」
え、なにこれ? なんで僕の方がこんなに恥ずかしくなってきているのさ?
視線があっちこっちに泳いでしまう。突然のお礼に戸惑っていると、それに満足したのかレグナントさんがまた笑い出した。
降参だ。こういったことでは、きっとレグナントさんには勝てそうにないと理解したよ。
僕なんかよりもずっと密度の高い人付き合いを経験し、感情の操作を容易く操っているように見える。そのスキルは少しばかり羨ましいね。
それから少し雑談し、アリーチェがみんなが戻ってきたと教えてくれたから、外に出てみんなに謝罪した。
アルトたちは一度視線を交わした後、僕を揉みくちゃにして、まじめかー、もっと迷惑かけろーと散々に言われてしまう。
ラーシャーさんたちはそんな僕たちを見て、笑いながら頷いていた。




