管理者2人
轟音が草原の果てへと通り過ぎ、衝撃が周囲を蹂躙しつくした。
その影響は爆心地から遠く離れた石碑まで及び、壊れるまではいかずとも大きな罅が縦に走っている。
あらゆる生物はこの破壊に適応できず、為す術もなく消滅するだけだった。災厄とされるコーカトリアも例外ではなく、再生の余地なくその魔力ごと世界に散らされた。
「そう……エルナー、あなたはそれを使ってしまったのね。私の立場からすれば残念だけど……姉としては、よくやったとしか言えないわね」
世界線が軋み、遥かに伸びていた未来がぶれる。過剰すぎる魔力の嵐が存在をかき乱してしまっているために、世界線の保持機構が機能不全を起こしてしまったからだ。
これは管理者にとって由々しき事態。エルナーの魂を受け入れたのは、この世界線の存続のためであったのだから。
「エリカ、よくやりましたね。大きな怪我無く保護できましたか」
「ええ。新神の干渉が途切れたのよ。未来が見えたとか言って、帰っていったわ。期待外れ、と吐き捨ててね」
「たかだか新神が偉そうですね。私たちの可愛いエルナーにこのような試練を課して、勝手に失望ですか。まぁ……おかげでエルナーがすぐに管理者となることは無くなりましたが」
2人の管理者、レスターとエリカが近くに横たわるエルナー達を優し気に見やる。多少の怪我は見受けられるも、強すぎる衝撃で意識を失ってしまっていた。
あの場にいては確実に死んでしまう為に、本来であれば干渉できないものの使徒の保護を名目に、近くにいたエルナーと、エルナーにとって大切な者たちを連れだしていた。
「そもそもよ? あの変異したコカトリスは永い封印で消滅しかかっていたのに、あのクソ新神が再構築して、解き放つことで試練とするとか言って、世界線の保持を乱しておいて……あげく、エルナーの地図魔法まで封印して。無事に生き延びたら管理者へ召し上げる? ほんっとムカツクわね……。レスター、あなたならあのクソ新神を引きずり降ろせたんじゃないの?」
『誓約』の気配を感じ取った新神……管理者から位格が上がり、神へと至ったばかりの若い神が、管理者確保のため行ったのが、コーカトリア復活である。
これを被害なく収めることができれば、晴れてエルナーを管理者に召し上げようとしていたが、世界線にダメージを与える結果となってしまったために、見切りをつけた。
その身勝手が過ぎる一連の行動に、レスターとエリカは憤りを隠すことなく発露していた。
エリカの問いに、レスターは酷薄な笑みを浮かべて答える。
「残念ながら。時間が足りませんでしたね……ですがまあ、あの愚か者が帰ったところで位格が下がるのは間違いないでしょう。根回しは済んでます」
「……確かに引きずり下ろせるか聞いたけど、普通は出来ないのよねぇ……。あなた、いい加減神になったらどうなのよ? 魔法と超文明を大陸ごと封印した、黄金の王サマ?」
「残念ながら封印漏れがありましてね。おのれの未熟を恥じるばかりですよ」
「あなたが未熟なら、私は何なのよ……」
本来、管理者を迎えるには世界線に多大な影響を与えた者、かつ一定以上の能力を持つ者とされており、エルナーを迎えるにはまだ十分とは言えないはずだった。新神とはいえ、神が手を加え災厄を呼び、それに対処させるというのは禁忌とさえなっている。
それを行った当該新神の所業を、さらに位格の高い神に報告したことで、担当する場所へ帰っていった先に青筋立てた上司が待っている、という状況を作ったのだ。
「それにしても、本当に無事でよかったです。あの愚か者は災厄をさらに強化していたんですよね?」
「ええ。よりにもよって世界の根幹に紐づけて、ほぼ無限の魔力と再生能力を高めてたわ。この程度収めることができなければ、見込みはないって。お陰でこの世界線、もうガタガタよ……?」
「……あの、エリカ。それ報告したら恐らくですが、あの者邪神認定されますよ?」
鼻で笑い良い気味だわと呟きながら、聖鳥クーデリカの元へと歩く。その身を構築する金色の魔力を注ぎ、クーデリカの意識が覚醒する。
『ここは――ッ!』
「おはよう、クーデリカ。早速で悪いのだけれど、この子たちを癒してあげて?」
『は、はいですの!』
癒しの炎がエルナー達を覆い尽くし、軽い火傷や打ち身、衝撃によって痛めた内臓や骨などが次第に修復されていく。
それらの怪我によって苦悶の表情を浮かべていたエルナー達は、次第に穏やかな表情へと変わっていく。その様子を、レスターとエリカは優し気に見つめていた。
「エリカ。本当にあの変異したコカトリスが世界の根幹と紐づいていたのなら、エルナーがとった判断は最善だったと言えます。そうなると……少々厄介かもしれませんね」
「そう……ね。そうなるわよねぇ。間違いなく世界線の危機で、下手をすれば基軸世界にまで影響が及んでいたかもしれない。枝葉が幹から力を奪う真似を、よくもまあ私の管理する世界線でやってくれたものよね」
「本当に。そしてこのことは恐らく、知られてしまいますね……。とはいえ、エルナーは言ってみれば被害者ですから、ある程度の融通は利かせることはできるでしょう。可愛い弟のために、骨を折ることとしましょう」
避けられないエルナーの未来に、レスターは苦笑いを浮かべつつも楽し気に言う。
管理者となってからは久しく無かった、誰かのために動きたいと思う気持ちが心地よく感じていた。
それが分かるだけにエリカはほんの少しだけ、嫉妬を覚える。だがレスターに任せるのが間違いないため、溜め息ひとつで切り替える。
エルナーの頭を少し持ち上げ、膝に乗せる。
頬にかかっていたエルナーの金髪をかき上げ、ゆっくりと撫でると、エルナーは安心したようにへにゃりと笑った。
「かわいいわ……」
「かわいいです……」
クーデリカが治癒を終えてアリーチェに寄り添い、管理者2人がエルナーを可愛がる。
今この場にあるのは穏やかさだけだった。起きているレスター、エリカ、クーデリカは、しばしこの時間をかみしめる。
災厄に打ち勝った英雄たちが眠りから覚めるその瞬間まで、この時間は続く……。




