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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
王太子の試練と眠れる災厄
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破壊の権化

 強い威圧感を放つ3メートルもの巨体に、アリーチェとともに迫る。

 放たれる魔法をステップで躱し、時には『浄魔の焔刃(フランベルジュ)』を宿した剣で斬り落とし、コーカトリアの直下へと滑り込む。


 左右に分かれての挟撃だ。


 けれどこの巨体に付随する、10もの蛇尻尾がその優位を覆してくる。それに対応すべく駆けるのは、ラーシャーさんとアルトだ。

 二人は大きく回り込むように走っていて、いくつかの蛇尻尾の動きを誘導している。


 魔法が放たれる予兆があったよ。けれど、そいつが発現する事は無い。


 クゥナリアさんとラムダによる、魔力ジャックによってコーカトリアの魔法を奪っていたよ。


「動揺している……ッ! アリーチェ!」

「りょーかい!」


 巨体に見合う太い脚に斬り掛かる。ささくれ立つように生える鈍色の鱗を、魔鉄の剣は紙を切るかのように裂いていく。


『シャアアアアアアアアアアアアアッ!』


 斬ってすぐに再生を始めるのを確認しつつ、踏みつけるような動きを避けながら距離を置く。

 苛立たし気に睨んでくるけどね、僕たちは囮も兼ねているんだよ。


 二本の矢が同時に過ぎていくよ。

 コーカトリアの足の付け根、そのど真ん中に吸い込まれるように消えていく。両脚の関節を貫かれて、巨体が傾ぎ大きな音を立てて地面に倒れる。


 アリーチェとメローネが胸部を、僕とゾーイが頭部を狙う。


『シャギュアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


 ソウドリによく似た頭が悲鳴を上げるも、蛇尻尾はそれぞれ個別に動き始める。

 隙を見て接近していたアルトとラーシャーさんがいくつか斬り落としてはいたけど、無事な尻尾のひとつが大きく口を開き、遠くで構えていたルルゥさんとシューゲルへと向く。


 ボコリ、と蛇尻尾の胴体? 部分が盛り上がり……どす黒い何かを吐いて飛ばした!


「フンッ!!」


 二人を守っていたカッシュさんがそれをタワーシールドで防ぐも、固体じゃなかったのか弾けて飛び散ってしまっている。


「伏せてくださいッ!」


 ジンが叫ぶと同時に盾を振るう。カッシュさんは即座に伏せ……というか這う状態になったため余裕を持って躱せている。

 どす黒い飛沫がジンの盾で一掃され、離れた場所に落ちていく。その周囲の草が煙を上げてみるみる溶けていくのを見て、うわぁ、という気持ちになった。


「うげ、毒だよね、あれ……ッ!」

「そのようですね……ッ!」


 思わず出た声をゾーイが拾う。

 二人の盾は大丈夫だったのかと、攻撃の手を緩めないように気を付けながら視線を向けると、どうやら魔力で強化された魔鉄までは溶けなかったらしい。

 とはいえ、毒が落ちたほうを見て表情を引きつらせるのは仕方が無いとは思う。


「――っと」


 コーカトリアが突然翼を広げたため、咄嗟に飛び退く。あまりに急だったから反射で動いたけれど、それはみんなも一緒だったようだ。


 滅茶苦茶に暴れるコーカトリアに近づけず、避けながら振り回される翼を斬るも、再生の方が早い印象を受ける。


「ならダメもとで……『硬化』ッ!」


 狙いもタイミングも無い、ただ『硬化』の魔技を魔剣によって飛ばしただけ。けれど運がよかったのか、コーカトリアの左側の翼の付け根辺りに吸い込まれていった。

 結果、振り回すための力が行き場を無くし、バランスを崩して再び地面に横になった。


「攻撃再開……ん? あれ?」


 僕以外がコーカトリアに傷を与えているなかで、周囲の魔力の変化に気づいたよ。

 敵意と殺意が入り混じり、攻撃性に全部りした魔力が四方から流れ込んでいる。その対象は僕たちではなく……コーカトリアへと向いていた。


 思い当るのは、ひとつしかないよね。


「石碑の『封印』された魔法……けどこれは……足りない」


 発現するには、心許無い程度の魔力。とてもじゃないけど、有効な手段とは思えない。

 けれど不思議と、これが倒すための鍵なんじゃないかとも思えてくる。


「エルナー! なにか、あるんだねっ!?」


 アリーチェのよく通る声が聞こえ、はっとする。いけない、今は戦闘中だ。思考しつつも動かなければ、真っ先に死んでしまう。

 視線が合い、頷く。そうして走り出そうとしたところで、再びアリーチェが声を上げた。


「なら……まかせて! エルナーは、エルナーができることをっ!」


 思わず足を止め、みんなを見つめる。

 笑い、頷き、示してくれる。


「ああ……もう。頼りになりすぎ、だよね」


 未だコーカトリアは地面に倒れている。再生も心なしかゆっくりとなっている気がする。

 肩にくーちゃんが降りてきて、守ですの、と囁いてくれる。


 状況を整理しよう。今この場にある魔力の質は、クゥナリアさんとラムダが魔力ジャックで制圧しているものがひとつ。

 黄金の『火精(イフリタ)』の動力源としての小さな場がいくつかあって、最後に石碑に『封印』された魔法の魔力。


 最後の魔力は間違いなく四方の石碑から流れてきており、弱弱しいながらもその質は確かなもの。


「考えろ。石碑からここまではかなりの距離がある。『封印』した魔法をその場で開放しても、届かなければ意味がない。それならどうする? 僕なら地図魔法で位置を特定するけど、できないならば?」


 肝心の地図魔法は、いまだ何の反応も示さない。だから石碑をここへ転送することも出来なければ、解放された魔法をコーカトリアに直接浴びせることも出来ない。

 現状は大きな爆弾が遠くに設置されているという状況だろうか。倒すためにコーカトリアをそこまで連れて行くっていうのは、どう考えてもありえないし、キアラ様もそんなことは想定していないはず。


「……ん? 爆弾、か。魔力を導線として誘導……位置の特定する? いやでも魔力の動き方からして、石碑の位置から対角上になってる……中心点に向かってる。一切のずれなく……そういえば、コーカトリアってあの辺りで発生したよね……?」


 そういえば初めの石碑の時、内包する魔法の威力に冷や汗をかいたっけか。あの規模が4つもあるとか、ちょっと想像もしたくないな。

 でもなんであの4か所に設置したんだろうか。コーカトリアを封印した場所にひとつ置いておけばいいだけのような……いやまあ、危ないか――あっ。


「危ないから、分けておいた。そしていつか復活すると確信していたから、石碑の維持のための行動に、後付けで儀式とするようになった。うんうん、繋がってきたぞ……本来の魔法の『封印』場所は、中心点。そこでコーカトリアが発生した……つまりまだ、『封印』に縛られてる……ッ! そして、おそらく鍵はあの短剣! みんなッ! コーカトリアを、少し北に押し込むよッ!」


 アリーチェ達が退避し、赤い『火精(イフリタ)』を大量に取りつけ起爆する。

 数メートル程度しか飛ばせなかったけど、問題はないよ。身体強化で加速したカッシュさんとジンが追い打ちをかけるように爆発するシールドバッシュで吹き飛ばす。さらにクゥナリアさんとジンによる、水蒸気爆発でさらに数十メートル転がした。


 石碑の魔力が交わる中心点に、コーカトリアが到着したよ。


「レグナントさん! 短剣をコーカトリアに! ありったけの“想い”をッ!」

「ッ! コーカトリアよ! 過去の災厄よ、消え去れええええええええええええええッ!!」


 投擲された短剣が、コーカトリアに迫っていく。若干逸れてしまっているけど……どういうわけか、軌道が修正されていく。

 そして短剣がコーカトリアへと当たり……周囲の魔力が、突如として牙を剥く。


「――ッ! 退避、退避ーッ!」


 一目散に後退していくよ。後ろなんて気にしていられない、それほどまでに危険な濃度の場が出来上がっていたから。シャルナス様の霧をさらに濃くしたような濃密な魔力に加え、四方から……石碑のあった場所から光の柱が上がった。それが中心点でひとつとなり――墜ちる。


「目と耳を塞いで、伏せろおおおおおおおおおおおおおッ!」


 ――瞬間。咄嗟に展開した、風による防音壁を突き破って、この世の終わりとも思える爆音を聞いた。

 目を閉じ地面に額を付けてなお、視界を白く染め上げている。


 周囲をまったく考慮していない破壊の権化が、僕たちの背中を炙っていく。痛みよりも、恐怖が勝る。

 死にたくない。それ以上に、失いたくない。


 脳裏に浮かぶのは、この場にいる皆。そして今世の両親と……レスター兄様とエリカお姉様だった。

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