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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
王太子の試練と眠れる災厄
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耐える戦い

「再生、とか……」


 与えたダメージを無かったことにされると言うのは、想像以上に堪えるものがある。

 ただそのことに絶望してなんていられないんだよ。例えジリ貧で辛い事になると分かっていても、諦めてしまうのだけは絶対にしてはならないと思っている。


 大好きな人たちがいる。僕を好いてくれている人たちがいる。

 それらの想いを裏切るような行為は、決してしてはいけないものだから。


「『炎舞』『『火精(イフリタ)』」


 グラディウスを提げ、攻撃に特化した魔鉄製の剣、レジンに紅蓮の炎を纏わせる。僕とレグナントさんの周りには、それぞれ10体の黄金に燃える蝶が舞っている。


 対峙するコーカトリアが動くよ。長く太い脚が地鳴りを立てて地面に突き立てられる。


「飛び退いてッ!」

「ッ! すまん、助かったッ!」


 足元から土の槍が突きでてきた。魔力の流れを読んで予測できたからこそ、回避が間に合ったんだよ。

 でなければ今頃は良くて重症、最悪死んでいた頃だろう。


 状況はこちらに不都合になりつつある。見慣れたコカトリスが周囲を囲むように発生しだしたのさ。

 本当に嫌になるね。正面のコーカトリアだけでも非常に厄介なのに、コカトリスの対応までしなくちゃいけないなんて、最悪にほど近い状況じゃないかな。


「……それでも、最悪ではないんだけど……ねぇッ!」


 強力な暴風を僕とレグナントさんの外側へと放つ。コカトリスの体重程度なら吹き飛ばせる威力で行使し、一時の安全を確保する。

 蛇尻尾がそれぞれこちらを睨むのを確認したよ。黄金の蝶を即座に動かし、射線上に置くことで石化の呪いを相殺する。


 レグナントさんが地を這うほどの低さで駆け、コーカトリアの左足を強かに斬るも、驚く事に硬質的な音を立てて防がれてしまった。


「こいつ……! エルナー、まずいぞ! コーカトリアはまだ……“完全じゃない”ッ!」

「――ッ!」


 周囲のコカトリスが倒れ伏すたびに……コーカトリアはその脅威度を増しているらしい。

 レグナントさんが斬ろうとした脚には、かなり硬い鱗が生えている。僕たちの攻撃に巻き込まれてコカトリスが死ぬたびに、コーカトリアの白かった体毛は鈍色の光沢が増していく。


『シュルルルルルルルル……』


 蛇尻尾が寄り集まっていく? それぞれが大きく口を開き、膨大な魔力が練られている!?


「レグナントさんッ! 下がってッ!!」

「ッ!」


 魔法使いの勘……まさにそんな感覚で、コーカトリアが整えた魔法の場を捉えたよ。

 火の場だった。そこから放たれる魔法までは読み取れなかったけど、攻撃的なコーカトリアの魔法だからね、読める部分もあるのさ。


「『火精(イフリタ)』ッ!」


 黒い『火精(イフリタ)』を、僕たちとコーカトリアの間に出せるだけ発現させた。


『ジャギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 10もの炎が螺旋を描いて絡み合いながら迫ってくる。

 黒蝶の群れに到達し――その熱量をすべて奪って涼やかな風だけが僕たちへと届く。


『シャアアアア!?』

「うるあああああああああああああああッ!」

「はああああああああッ!」


 コーカトリアに肉迫しつつ、足元を泥にして少し沈んだのを確認したのちに固める。

 移動を封じ、僕とレグナントさんは左右から斬り掛かるも、やはりというか、硬度の増した体毛を貫通することは難しいようだ。


「『雷爪』ッ!」

「『神経喰らい(ナーヴイーター)』ッ!」


 だから有効だと思われる、雷撃系の魔技を撃ち込むよ。有効な斬撃を叩きこむことはできずとも、貫通して内部から焼くというのは、動物であれ魔物であれ致命的なはずだからね。


 コーカトリアは絶叫を上げて暴れだす。蛇尻尾は強制的に伸び切り、今この時だけは石化の呪いは無効化された。

 けれど、悔しい事にね。手が全く足りていないんだよ。せっかくの圧倒的なチャンスにもかかわらず、吹き飛ばしたコカトリスたちが接近してきたことで、対応に動かざるを得なくなった。


 改めて吹き飛ばすも、コーカトリアは体の自由を取り戻していたよ。

 そのことにレグナントさんと一緒に舌打ちをしていた。


「こんなときになんだがよ、やっぱ父キアラは凄いんだよな」

「ですね、こんな面倒な化け物を封印するまでに追い込んだんですから」


 先ほどよりも憎悪に満ちた視線を向けられつつ、敢えて笑みを浮かべながら受け答えする。

 まだ……限りなく近くはあるけれど、最悪にまでは至っていない。気持ちで負けるわけにはいかないから、笑みを浮かべて強がるのさ。


 それに希望はあるんだよ。今は耐えることが、勝つために必要な事なんだと先ほど悟ったよ。


「ねえ、レグナントさん。あと1時間くらいなら、どうにか耐えられます?」

「はっ、知ってるかよ? 王族ってのはな、強がってこそなんだぜ?」


 不敵な笑みを浮かべてね、そう言い放ってくれたよ。

 応えなくちゃいけないよね。勝ちに至るまでの耐える時間を、完璧にこなさなければいけない。


 10日間の付き合いだけどね、僕はレグナントさんに王となってほしいと思ってる。

 気持ちのいいヒトだし、信用に足る大きな器を感じているんだ。


 過去に終わったはずの災厄に、この未来の王様を失わせるわけにはいかなくてね?


 たった1時間だ。もしかしたらもっと早いかもしれない。

 妖精の祝福がね、伝えてくれているんだ。コーカトリアの殺意以外にも、ずっと遠く、南東からの愛しい想いを。

 もちろんそれだけじゃなくてね、僕を助けようとしてくれている、大切な仲間たちの想いまで伝えてくれているんだよ。


 ◇


 何度も石化の呪いを受け、その度に癒しては攻撃し、集まるコカトリスを遠くへ吹き飛ばし……時々倒してしまいコーカトリアが強化されながらも、どうにか戦闘は維持できていた。

 それでも全力だったから、僕もレグナントさんもかなり息が上がっている。


「はっ、はっ、はっ……、ほんっと、しぶといなアッ!」

「はぁ、ふぅ……あ、ははっ……!」

「ぜぇ、はぁ、どうした、エルナー?」


 わかる。感じるよ。

 焦がれていた感情が、いつも隣にあった温かさが。


「来ます……鉄をも貫く必中必殺の狩人たちが」


 どれほどの強弓なのか、伝わる感覚だと結構離れているはずなのに、確かな威力をもって飛来する魔鉄の矢が、2つの蛇尻尾の額を撃ち貫いた。


「ともに研鑽した最高の魔法使いたちが。『移動城塞』とともに鋼を掲げる戦士たちが……ッ!」


 爆炎がコーカトリアの巨体を僅かに吹き飛ばし、ものすごい勢いで飛んできた岩塊が、3つの蛇尻尾をちぎって過ぎ去っていく。


「綺麗に輝く黒い風と、情熱的な赤の風がッ!」


 体制が整っていないコーカトリアに追い打ちするように、左右から黒と赤の風が通り過ぎて、鈍色の体毛すらも斬り裂いた。


『シャアアアアアアアアアッ!?』


 いま僕の目の前には、(なび)いた黒く長い髪がゆっくりと腰へと落ちていく後ろ姿があった。

 頬がつり上がる。嬉しさとか、愛おしさとか、感情が混じりすぎて追いつかないけど、自然とそうなったよ。


「会いたかったよ、エルナー。色々訊きたいこともあるし、話したいこともあるけど……まずは倒しちゃおうか」

「……ははっ、アリーチェってば、格好いいね」

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