災厄の目覚め
例えば、この地に多く存在するというコカトリスという魔物。
単体ですら油断をすれば石化させられてしまうなど、厄介な相手ではある。
そのコカトリスと遭遇した場所を、頭の中で分布図にして表すと、そのどれもが石碑を点とした四角の内側からの出現となっていた。
例えば、この石碑に『封印』された雷の魔法。
解き放たれたならば、周囲に甚大な破壊をもたらすであろう規模でありながら、指向性を持たせているらしい、というところまでは読み取れた。
その指向性というのが、対角となるよう向けられていた。
例えば、それが脅威に対する備えなのだとしたら。
放たれる条件は未だ分からないけれど、僕とレグナントさんの想像通りに、コーカトリアが『封印』されているのだとしたら、その開放が鍵になっているんじゃないだろうか。
この石碑は結界のようなもので、その内側にコーカトリアが封じられている。そんな考えに至るのは、至極当然のことのように思えるよ。
「いやな予感っていうのは、考え始めると止まりませんね……」
「……そうだな。ところでエルナー、向こうのほうで空気が歪んで見えるんだが、俺疲れてるのかね?」
「本当ですねえ。僕も疲れてるようです」
例えば、コカトリスが例年よりも多く発生している状況。
コーカトリアが死んで消滅したわけではないと仮定して、自身の魔力体を使ったコカトリスを外に解き放っていたのならば。ありえない事は無い。なにせシャルナス様が似たようなことをしていたからね。
この地には既にコーカトリアの因子が溢れているんじゃないかなって思えてしまう。
その確たる現象が、遠くに見える空気の歪み。今はまだ像を成していないけど、濃さや大きさが非常によろしくない。
「見てみぬふりは……できやしねぇよな……」
レグナントさんの視線の先、そこにはコカトリスの群れが“発生”したところだった。
「……この状況は経験がある……今は一人だけど……大丈夫、やれるはず」
「エルナー?」
「レグナントさん、覚悟を決めたら、援護お願いします」
返事を待たずに駆けだすよ。グラディウスを抜いて発生したばかりのコカトリスに襲い掛かる。
「『浄魔の焔刃』」
黄金に燃える刃が空中に線を描き、2体まとめて焼き祓う。
魔力視に映るのは大地に沈みゆく魔力と、空気の歪みに似た魔力の二種類だ。後者は吸い込まれるように歪みの方へと行ってしまったよ。
「なら……『火精』」
金色の蝶を歪みとコカトリスの間に配置する。これで妨害できるといいんだけど、どうかな?
横薙ぎ、切り返し、通り抜け様にさらに一撃。絶命したコカトリスから抜ける魔力に意識を割きながらも、体を動かして斬っていく。
……ああ、だめだったか。
『火精』を通り抜けて吸い込まれて行ってしまう。淀んだ魔力ではないせいで、効力を発揮してはくれなかったらしい。
であれば、『浄魔の焔刃』も解除してしまおう――ああ、いや。
「蛇尻尾の石化には有効……なら、このまま押し切る!」
ステップを踏んで近くのコカトリスの攻撃をかわし、蹴り飛ばして距離を取る。とはいえ2歩も進めばそこは間合い。またすぐに戦闘に入ることになる。
立ち位置を調整して、コカトリスが密集するように誘導していくよ。剣を振るうより発生する方がペースが速いんだ。だから大きい一撃で一気に殲滅してしまおうと考えていてね。
忙しすぎて魔法を使う余裕がないというのもあって、魔技の一点狙いだよ。
二度ほどバックステップをすると、殺気高めのコカトリスが全員向かってきたよ。
「『神経喰らい』」
伝染する雷撃を、戦闘のコカトリスに撃ち込む。落雷にも似た爆発音が響くと同時に、コカトリスたちの悲鳴が場を震わせる。
密集しているからね、瞬く間に大半の神経を焼き切ったことだろう。
遠目に見える空気の歪みは大きくなっていく。徐々に巨大なコカトリスへと像を結んでいき――劈くような奇声を上げた!
『キイイイイィィィィアアアアアアアアアアアッッ!!』
「うる、さッ!」
倒れたコカトリスが歪みへと引き寄せられていき、同化していく。
全てを取り込み終えると、そこには存在を確定させてしまった、2メートルを超える体と10の蛇尻尾を備えた、災厄の姿があった。
「ああ、クソッ! こんな時ばかり嫌な予感が当たりやがって! エルナー、あいつはコーカトリアだ!」
「でしょう、ね……」
僕に宿っている妖精たちが怯えている。殺意のみが叩きつけられて、気配を感じることができない僕でさえも、怖気を感じるほどだ。
「んんッ!? 『火精』が消えた!? いや、違う……燃え、尽きた!?」
その瞬間、咄嗟に金色の『火精』を周囲にばら撒いていた。
10ある蛇尻尾からの攻撃……ひとつひとつが強力なもののようだ。当初の狙いからずれていたとはいえ、配置したままでよかったと心から思うよ……。
『シャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「「ッ!」」
距離はだいぶあったはずなのに、一気に詰められていた。咄嗟に左右に飛び退いたおかげで、体当たりを避けることができたけど……これじゃレグナントさんと連携が取れない!
コーカトリアはレグナントさんの方を向いて――ッ!
「『火精混交』ッ! 『浄魔の焔刃』ッ! るあああああああああああああああッッ!」
レジンも抜いて金色の炎を纏わせて、全ての炎の蝶を雑多に舞わせる。
10の蛇尻尾による石化の呪いと噛みつき、体当たり。もうめちゃくちゃだッ!
迫りくる2つの蛇を赤の『火精』4匹で弾き返し、開いた口に緑の蝶を放り込む。息をしているかは分からないけど、内燃している炎を開放するのが目的だから問題はない。
口と目から緑色の炎を噴き出して、めちゃくちゃに暴れまわる2体の蛇を尻目に、左右から迫ってくる蛇には大きな火球を放って対応する。
「ぐっ……づ、ああああああああああああああああッッ!!」
一瞬で右足がやられていたらしい。激しい痛みに耐えながら、視線を斬り黄金の焔が伝っていく。蛇まで到達した黄金の焔に目を焼かれた3つの頭が激しく揺れ動いていた。
「あ、ぐぅ……ッ! 『神々の寵愛の焔』ッ!」
足が動くようになった瞬間に飛び退くと、さっきまでいた場所に蛇尻尾のひとつが突き刺さった。
抜け出そうって? そうはさせないよ!
『硬化』の魔剣を放つ。狙う先は接地面。一瞬だけでも固まるならばそれでいい!
「『神経喰らい』ッ!」
『ギュイイイイイイイイイイイイイイイッ!?』
……ああ、そうか。10もの蛇尻尾と言えど……肉体はコーカトリアのひとつだけだもんね。
それなら……ッ!
「レグナントさんッッ!!」
「――ッ! 『雷爪』ッ!!」
ラーシャーさんに、大剣を教わったって聞いていたからね。尊敬する人の技を使いたいって思いは、たぶんあったんじゃないかなって思ってたんだ。
『ギ、ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
コーカトリアが硬直している隙に、レグナントさんと合流する。
「ああっ!? レグナントさんその腕……今、治します! 『神々の寵愛の焔』ッ!」
「ぐ、う……、すまん、助かった!」
「すみなせん、蛇尻尾の猛攻で合流ができませんでした。いくつか潰したと思うんですが……」
「……はは、なら俺は今、夢でも見てるのかね……?」
「……え?」
頬を引きつらせるレグナントさんの視線を追うと……憤怒に満ちたコーカトリアの目と、10の蛇がこちらを向くところだった。




